04 レクス咆哮
「グルルルル……」
低い唸り声をあげ、敵を見据えつつすり足で移動し、様子をうかがう、レクス=ジン。
背を丸く曲げ前のめりとなったその姿は、獲物を狙う野獣が如し。
「ガアァッ!」
暫しの様子見を終え、獣が吠えた。右手に携えた武器、『
蜘蛛の怪物=アラクネハイヴァンドは追って目線を動かすも、時すでに遅し。獣はすでに、己の眼前にまで接近していた。
「オオッ!」
「ひっ!?」
その首目掛け、刃を突き刺しにかかるレクス。
相手が上体を反らしたことで刃は空を裂くのみにとどまった、が。
「ダァッ!」
なんと彼は空振りの勢いを利用し、回転。かかと落としの要領で、勢いよくその左足を叩きこむ。
「ぶがっ……!ぐぬ……かぁっ!」
予期せぬ一撃をもろに顔面に喰らい、声を漏らすアラクネハイヴァンド。
しかし、やられっぱなしという訳でもない。カウンター気味に糸を吐き出し、レクスへと直撃させた。
「グ……ムグッ」
粘性の高い糸に身動きを封じられ、壁面に張り付けられてしまったレクス。
脱出するべくもがくも、思うようにいかない。手足を動かそうとすればするほどに吸着し、悪化していく一方だ。
「ふふふ、どうだ、動けないだろう?少し驚いたが、これで貴様も終わりよぉ!ぎゃはははははは……」
その姿にすっかり勝ち誇り下品な笑いを上げるアラクネハイヴァンドだったが、
「なっ、貴様、何をして……っ!?」
長くは持たなかった。彼女が目を丸くする。
なんと、レクスの全身にまとわりついた糸が凍り始めているではないか。
見れば、彼の口が開かれ、冷気を吐き出している。
「こ、この、まだ足掻くかぁ!」
みるみるうちに糸は氷の塊へと変貌。焦りを覚えた彼女は酸の弾丸を打ち出しトドメに移るも、遅かった。
「ウガアァァァァ――ッ!」
獣が雄叫びを轟かせると同時に、氷が砕け散る。
攻撃は当たることなく、壁面の岩を溶かすだけに終わった。脱出したレクスはプルプルと体を振るう仕草をしたのち、再び敵を見据える。
体を前のめりにし、駆ける。
同時にディスクラッシャーの丸鋸部分に付いたレバーを引いて刃を回転させると、
「ウォォッ!」
「ぐぎゃあっ!?」
一気に間合いを詰め、一閃。凹凸の刃が、荒々しい傷跡を彼女の下腹部に刻んだ。
怯む相手の隙を逃さず、さらなる猛攻が仕掛けられる。
2度、3度と斬り付けたのち、相手の脚の一本を踏み台に跳び、下半身の後部に乗る。
そうして相手が反応するよりも先に鋸部分を上半身――すなわち人型部分――の背へと押し当ててレバーを2回、引いた。
「ががががが……!」
高速回転する刃が怪物の肉を抉り、裂く。
それが続いたのち、レクスは敵のほうを向いたままその体を蹴りつけてまたも跳躍。少し体を反らして息を吸い込むと、
「ッ! あ、ああ……」
先ほどよりも強力な冷気を、アラクネハイヴァンドへと吐き出した!
吹雪のように猛烈な勢いのそれはみるみるうちに全身を凍り付かせる。
そして数秒と経たぬうちに、立派な氷の彫像が完成していた。
「ウウ……ウウッ、ウウワオォォォォォーーーーッ!」
着地したレクスはそれを見つめ、天を仰いで咆哮し――
「ウオォ、アァッ!」
鋭い爪を振り下ろして、粉々に打ち砕いた!
これにて、決着だ。
彼は一息つくとその姿をジンのものへと戻し、急いで壁際に寝かせた女性へと駆け寄った――
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