03 聖剣使い
「あら?ジンさんはいずこに?」
翌日、カフェ『スターズ』1階。ロゼッタは姿を見せないジンに疑問を感じ、そう尋ねた。
「あー、あいつなら急用出来ちまってな。しょうがねぇから休ませた」
「え、マジですの?」
以前彼が抜けたあの日――財布騒ぎがあったあの日の惨状を思い出し、目を点にするロゼッタ。その額からは、一筋の汗が流れ落ちている。
「おう、大マジ」
軽く返すバイセンだったが、彼にも焦りはあった。急遽決まった故に、欠員の補充はできていない。早い話、一人抜けたまま。
「「……」」
二人は目を点にしたまま見つめあい、沈黙。
(今度何かおごってもらいましょうかしら)
(アイツ外れだったらただじゃおかねぇ)
そんな思いを巡らせながら――
※
(なんか今、すげぇ寒気した……)
同時刻。背筋に走るものを感じ、俺は身体を震わせた。おっかしいな、まだ夏前だよな?
まぁいいか、と気を取り直し、俺は目の前の家を見つめる。
ここが、あの子の家。
朝だというのに、カーテンをぴっちりと閉め切ったそこからは、異様な気配が漏れ出していた。
俺は意を決し、ドアをノックする。反応はない。試しにドアノブを回し、押してみると――
「……開いた」
「お邪魔しまーす……」
ギギ、と重々しい音を立てて、ゆっくりと扉は開いた。恐る恐る、入ってゆく。
人としてどうかとは思うが、緊急事態だ。悠長なことは言っていられない。
家の中は明かりはついておらず、カーテンを閉め切っているせいで真っ暗。まるで、ここだけが夜であるかのようだ。
木がきしむ音を聞きながら、カンテラの明かりを頼りに、周りを見渡す。
すると――
「こんな時間まで、どこをほっつき歩いていたんだい!」
怒声とともに、『何か』が飛んできた。俺は体を反らしてそれを躱すと、飛んできた方角へカンテラを向ける。そこには――
「……ッ!」
身の丈4メートルは越そうかというほどに巨大な怪物がいた。
人間の女性の上半身の下から生えた、蜘蛛の胴体のような下半身。赤い目を光らせるそれは、明らかな異形のモノ。
どうやら、俺のカンは当たっていたらしい。
「んん?お前、ケンじゃあないねぇ……誰だ?」
怪物の質問に、俺は――
「お前を倒しに来た者っす……『ハイヴァンド』!」
怒りを伴った叫びとともに、応えた。
「へぇー、あたしらを知ってんのかい……まあいいや、朝飯にはちょうどいい」
怪物がそう言った次の瞬間。周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。これは――洞窟か。
「!」
それを観察していた時。怪物の口から、何かが吐き出された。黄色く、濁った液体。
俺はカンテラを放り捨て、それにぶつけた。
その瞬間空中でカンテラがドロドロに融解し、べしゃりと落ちた。
「なるほど……まともに喰らうのはヤバそうすね……!」
言葉とともに、俺はあるものを取り出す。
それは――『剣』。
全体的なカラーリングは黒。
刀身は氷の塊を思わせるクリアブルーのパーツに覆われ、ごつごつとしている。
丸鋸と短剣を混ぜたようなフォルムのそれを見て、怪物は驚愕した。
「そっ、それは!まさかアンタ!」
「ああ、その通り、俺は……」
俺は丸鋸の部分、左側面に付いたカバーを開きつつ、あるものを取り出す。
それは、レコードを思わせる円盤。その表面には、『Eject A Monster』と書かれている。
俺はそれを剣の丸鋸部分へセットし、カバーを閉じる。
そして三回グリップを引っ張り、持ち手に付いたトリガーを押した。
すると、
『記録、再生! 剣に宿りし聖なる力が、悪しき魂を分かつ!』
そんな音声が鳴り響き、刀身が白く輝く。
「俺は『聖剣使い』!お前たちを……倒すものだぁっ!」
叫びと同時に、俺は怪物へと駆け出した。
「くっ!」
動揺しながらも尚、俺へと向けて酸の玉を打ち出す怪物。俺は左右に飛んでそれを躱し、どんどん距離を詰めていく。
続いて、糸を固めて槍状にした物体が飛来。
俺は体を回転させつつ剣を振り、横一文字にそれを切り裂きながら、跳んだ。
そして頭上を飛び越し、奴の下半身へ飛び乗る。
「ぬぅ!」
上半身を180度回転させ、俺を睨む。
俺は構わずグリップを三回引き、エネルギーをチャージ。そしてトリガーを押し――
『イジェクションストラッシュ!』
「でりゃあああっ!」
思いきり、怪物の身体へと突き刺した!
「うぐぎゃああああああっ!?」
悲鳴とともに上半身を揺らし、見悶える怪物。傷跡から光が漏れ出しているのが目に見えた。
「よぉし……!」
そして程無くして、怪物の上半身から人間の女性が分離した。俺はそれを抱きかかえつつ、ジャンプ。
「貴様、よくも、よくもぉ……っ!」
呪詛を吐きながら、身体をグネグネと振るわせる怪物。その顔には、くっきりと青筋が浮かんでいる。
俺は女性を壁側にそっと寝かせたのち、奴を指差し叫んだ。
「親子の絆を利用するハイヴァンド!お前は……俺が斬る!」
これで遠慮する必要はもうどこにもない。今こそ、その時だ。
俺は再びカバーを開くと、円盤を取り出し、腰に付けたホルダーへとしまう。そしてそこから別の円盤を取り出し、手をかざす。
すると、口を開けた恐竜の頭部のシルエットと、「Legend Of Dinosaur」という表記が浮かび上がった。
俺はそれをセットし、カバーを閉め再びグリップを三度引っ張る。
そして俺は叫び、トリガーを押す。
「
「ほざけぇーーっ!」
同時に、怪物が酸の玉を放った!
しかし、俺は躱さない。なぜなら――
「何ぃ……!?」
俺の全身を、すっぽりと巨大な氷の塊が包み、それを防いだからだ。
『
そしてコール音とともに、氷が真っ二つに割れた。その中から現れたのは――
「ウオォォォォォ―――ッ!」
『記録、再生! 凍土より蘇りし大いなる獣が、全てを無に帰す……!』
上体を反らせて咆哮を上げる、戦士の姿。
氷のような透明の装甲に覆われた全身に、恐竜を連想させる頭部。
蒼いバイザーの奥に輝く、黄色い瞳。
視点を変えれば、まるで人型機動兵器のようにも映る。
そう、これこそが聖剣使いに与えられた、戦うための姿。
その名は、『メモリアナイツ・レクス』――!
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