小舟と鳥と

 出発の日、駅舎の傍には蕾の状態の桜が整然と並んでいた。開花は来週あたりになるだろう。とりとめのない会話をしていたら電車がやって来た。


「東京はもう桜が咲いてるってニュースで言ってた」


「じゃあ、着いたら写真送る」


「いいよ別に。来年、自分の目で見るから」


「え?それって……」


 どういうことだよ、という言葉はキスで塞がれた。


「考えたんだけど、」


周囲がざわつくが、涼はどこ吹く風だ。


「未来がどうなっても、その時々で対応するしかないと思うんだ。だからその時が来るまで、僕は薫さんのこと信じてる」


 電車の扉が音をたてて開く。涼は屈託なく笑った。


「いってらっしゃい」


 俺は一瞬呆けた。呆けたのち、俺も笑った。


「おう、行ってきます」



 蕾をつけた桜の木が遠のいていく。ホームにいる涼の姿が小さくなって見えなくなるまで、俺は手を振り続けた。


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