朝を知らない彼だから、私は毎日朝を語りにいく

就職したてで余裕のない毎日を送っていた加藤朝子は、帰宅するため乗っていた自転車をアクシデントで壊してしまう。が、そこへ朔宵照彦という少年が現れ、助けてくれたのだ。先祖の咎によって日のある時間は石となり、人として活動できるのは夜だけという一族の末裔が。その呪いを解く方法のひとつは、朝の話をたくさん聞くことだという。それを聞いた朝子は約束する。今日がどんな朝だったか、話しに来ると。

物語は『空が上手に焼けている。』から始まりますが……この一文、朝子さんが照彦くんに説明しようと考えた朝の様子なのです。実に的確でありながら味わい深い叙情が匂い立つ、すばらしいフレーズですよね。

このように、作品へ織り込まれたフレーズにはそれぞれ万感が詰め込まれています。例えば朝子さんが言う「また明日」、1日の半分石化されて虚無を過ごしている照彦くんにとってどれほどの価値を持つものか。こうしてさりげない言葉や文章で浮き彫ってみせるのです。
数多を含めた言の葉の輝き、噛みしめていただきたく。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)