第8話

 翌朝、照くんは起きてこなかった。眠い眼を擦りながら待っていたみんなは、主役の登場がないまま日の出を迎えた。


 夜に会いに行っても、照くんは具合が悪いといって、誰にも会わなかった。取り次いでくれる神主さんは、困ったように笑うだけだった。こども食堂も閉鎖してしまい、神社は本来の静けさを取り戻していた。




 布団に入るとき、いつも照くんのことを考えた。わたしたちの一日が終わるとき、彼の一日はようやく始まる。夕飯だけは誰かと一緒に食べるけれど、その後は?神主さんがついているけど、ずっと起きていられるわけじゃない。寝静まった町でひとり生きるのはどのくらい孤独なんだろう。


 わたしは眠れず、着替えて家を出た。ママチャリに跨ってペダルを踏む。ライトをつけた自転車が闇を切り裂いていく。


 いつものように石段を登ると、台の上に照くんが腰かけて、光る玉をじっと見ていた。


「照くん」


 声をかけると、照くんはぎょっとした顔でこちらを見た。


「朝子さん?何してるんですかこんな時間に」


「照くん、朝を見に行こう」


 わたしは正面から彼を見据えた。


「途中で石になっても大丈夫だよ。わたしが必ず連れて帰るから」


「石の重さなめてませんか?朝子さんひとりじゃ運べませんよ」


「そしたらみんなに手伝ってもらう。みんな照くんのことが大好きだもの。手伝ってくれるわ」


 照くんは寂しそうに笑った。


「みんな優しいです。でもそれって同情ですよね。僕が変な体質だから、同情してくれてるんでしょう。もしこの体質が治ったら、きっと、珍しくなくなって、誰も僕に挨拶なんてしてくれなくなります」


「あのねえ、君の体質なんて珍しくもなんともないのよ。その変な性格に比べたらね」


 わたしはため息をついた。そして彼の手を取る。その拍子に光の玉が足元に転がった。


「行きましょう。これからも挨拶してくれるひととだけ仲よくしたらいいの」



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