第7話

 その夜はいつにも増して多くの人が照くんに「おめでとう」を言いに来て、何かお祝いをしようということになった。結局明日の朝、揃って日の出を迎えるのはどうかという話になって、みんな早起きすると張り切っている。


 肝心の照くんは人の輪を抜けて、いつも朝を迎える台に腰かけていた。


「照くん」


 わたしは下から声をかけた。


「ああ、朝子さんか」


 彼はわたしを認めると、視線をそらした。


「治るんだってね、おめでとう」


「ありがとう」


 そう返す口調はいつも以上に素っ気ない。


「あまり嬉しそうじゃないね」


「そんなことないですよ」


 彼は後ろを向いたまま言う。


「……言い伝えの話、覚えていますか。ずっと夜でいいと願った人たちが神様を怒らせて、石になったんだ。もし太陽が出なければ自分たちが食べるものもなくなるっていうのに、馬鹿な人たちですよね」


「そうかな」


 わたしは思案した。


「みんなと一緒になりたいって思うのは、変なことじゃないよ。同じ立場だったら、わたしも願ってしまうと思うもの」


「だったら、僕がそう願ったら、あなたは昼を捨ててくれるんですか」


 聞いたことのないくらい険しい声に、わたしははっと顔を上げた。彼はまだ背を向けていたけれど、その背中は明らかに怒気を発している。


 ごめんなさい、と言おうとしたら先を越された。


「すみません。忘れてください」


 彼はようやく振り返ると、なんでもないことのように言った。そして台から飛び降りて、人の群れの中に戻っていく。


 わたしはぽっかり空いた台の上を見つめながら、しばらく動くことができなかった。


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