第6話
それから毎朝、神社に行くと、誰かしらと遭遇した。おばあさんだったり小学生だったり、背広を着た人だったり、はたまた猫がいることもあった。みんな照くんの像に「おはよう」と声をかけて行く。
夜は、こども食堂でみんなとご飯を食べた。照くんに熱愛中の美咲ちゃんだけには敵視されたままだったけれど、一緒にご飯の支度をしたり、その日あった面白いことを共有したり、困りごとを相談して誰かの知恵が解決したり、交流はあたたかだった。こども食堂がない日は照くんと15分くらいの立ち話をした。わたしの他にも、彼に会いに来る人はいっぱいいた。
照くんを中心に、みんなの出会いの輪が広がっていく。彼はこの町のひとに愛されているのだと思った。
町の顔なじみが大分増えた頃の朝、いつものように神社に寄ると、不思議なことがあった。照くんの握られた拳の中が、光っている。なんだろう、とまじまじ見ていると、ちょうど神主さんが境内を掃除するために、竹箒をもってやってきた。
「朝子さん、おはようございます」
「おはようございます。あの、神主さん、照くん、何か手に持ってるみたい」
「ん?なんでしょう」
確認のために近づいてきた神主さんは、照くんの手の間から光が漏れているのを見ると、
「ああっ?!」
いきなり町全体に響き渡るような大声を上げた。周りの木々から眠っていた鳥たちが大慌てで逃げていく。
「すごい!やった!やったぞ!」
神主さんはそのまま小さい子供のように飛び跳ね、状況のつかめない私は少しうろたえた。いつも冷静な神主さんがこんなになるなんて。よほどのことなのだろう。
「あの、これ、なんなんですか?」
「これは朝日の玉です」
「朝日の玉?」
「これを飲み込めば、照が朝も起きていられる!」
「ええっ!?」
今度はわたしが大声を上げる番だった。近所迷惑甚だしいけど、事情を知れば許してくれるだろう。
「本当ですか?」
「本当です!」
神主さんは箒を持ったまま猛ダッシュして、社務所から古びた本を持って戻ってきた。
「ここに、朝を克服できた人の話が載っています。夜、石化から戻ると、手に光の玉を握っていて、それを口に含むと、それから朝を迎えることができるようになったと書いてあります」
ページの上にはぐにゃぐにゃした文字が連なっていて、歴史の授業で見るような薄い顔の人が、玉を食べようとしている絵が描いてある。
「ほんとだ……」
わたしは呟いて顔を上げた。神主さんと目が合う。
「やったー!」
わたしたちは同時に叫んで、飛び跳ねた。なんなら少し踊った。
照くんは治るのだ!よかった。今日は日が暮れたら真っ先に会いに来ようと思った。
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