第5話

 食器を洗って後片付けをして、解散となった後、照彦くんは社殿の裏からわたしの自転車を持ってきてくれた。タイヤの穴は塞がれて、空気が入っている。


「直してくれたの?」


「応急処置だけですよ。ちゃんと修理に出したほうがいいと思います」


「本当に器用ねえ、君」


 わたしは自分の自転車をまじまじと眺めた。高校生の頃から使っている水色のママチャリは、生まれ変わったように新鮮に見えた。


「昨日はありがとうね。おかげさまでよく眠れた。すごく元気になったよ」


 わたしは改めてお礼を言った。ちからこぶをつくって見せる。


「ならよかった」


 照れ隠しなのか、彼はポケットに手を突っ込んだ。


「照くんまたねー」


「照さま、ごきげんよう!」


「照坊明後日何食いたい?リクエストだけ聞いとくわ」


 みんな照彦くんに声をかけてから、石段を下りていく。彼はひとりひとりに挨拶を返して、手を振る。最後に、わたしと彼だけが境内に残った。


「なんだか寂しいね」


「慣れてますよ」


 彼は肩を竦める。


「夜は何をしているの?」


「勉強とか、ゲームとか。あとはホラー映画みたりとか、普通です」


「なんでホラー映画……太陽が出てこないから?」


「そうです」


 昼間に怖いことが起きるホラー映画が本当は一番怖いんだよ、と言おうとしてやめた。


「それじゃあ私も帰るね」


 おやすみ、と言いかけて、昨日の彼の複雑そうな顔が思い浮かんだ。少し言葉を選んで、こう言うことにした。


「また明日」


「はい、また明日」


 月明かりの中、彼は手を振った。


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