08
さて、洋服を無事に購入したことだし、お昼ご飯でも食べていこうかな。
本当はツムギさんのご飯が食べたかったけれど、今帰ってからだと半端な時間になってしまうし、今日は定休日らしいし。働くことと引き換えにご飯を用意してもらうことになっているけれど、まだ一度も働いていないのにご飯を作ってもらうのはちょっとためらってしまう。
それにそもそも、昼ご飯は食べて帰るって言ってしまったし。
ノイギレールにいた頃は、飲食店に入って食事、なんて滅多になかったし、入ったとしてもめちゃくちゃ高級なお店にしか入ったことがない。腐っても公爵令嬢だし……。もう令嬢っていうより、夫人っていう歳なんだけれども。婚約さえ破棄されず、結婚出来ていれば……!
いかんいかん、腹が立ってきた。
とにかく、シルヴァイスの平民がどんな飲食店を利用しているのか知らないと、接客の方向も決まらない。
そりゃあ、接客なんて丁寧な方がいいのは分かっているが、ツムギさんの店に貴族御用達の最高級レストランの接客が合わないことくらいは分かる。あのレベルになると、客側にもルールを強いることになるし。
わたしは、客入りはいいけれど混雑しすぎていない店を探し、そこに入る。カランとドアベルが小気味いい音を立てた。
「いらっしゃいませ!」
店に入ると、店員さんがすぐに出迎えてくれる。わたしはいろいろと観察しながら、案内された席へと座る。
流石に店内は清掃が行き届いている。店員さんの距離は程よく遠い。でも、別に話しかけがたいわけでもない。
これは前世のファミレスくらいのイメージで接客すれば大丈夫だろうか。
「あれ……?」
渡されたメニューを見る。メニューには絵が描かれていて、指をさして注文するのだろう。やっぱり識字率は低いらしい。まあ、それはいいんだけど。
描かれているメニュー、どう見ても洋食寄りなのだ。ハンバーグっぽいものや、オムライスっぽいもの、などなど。
それこそファミレスっぽく、いろんな系統の料理があるというわけでもない。和食の気配は欠片もなかった。
たまたまそういう店に入ってしまったんだろうか。
折角この世界にも和食があると知って、ちょっと期待していた分、落胆がないといえば嘘になる。たまたま入った店に和食がないなんて、運がない。
店員さんに注文したとき、こっそりとこの国のご飯事情について聞いてみた。
「注文はこれで。……わたし、この国に来たばかりなんだけれど、この国の料理って、どんな感じなの?」
「あら、そうなんですか? ええと、うちはシルヴァイス料理専門店ですよ」
え、と思わず声を上げてしまいそうになった。これが普通なの? てっきり、和食がそうなのだと思っていた。
あれ、じゃあツムギさん、何人なんだろう……。
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