07

 ツムギさんに教えてもらった通りの道順で来ると、無事に街まで出られた。

 舗装された道を見つけたときは「すぐに街につく!」と勝手に思い込んでしまったが、実際は結構距離があった。あの後すぐに倒れてしまったことを考えると、どう考えてもたどり着けない。

 結果として、ツムギさんの家――あの一軒家の前で倒れた方が、まだマシだったのかもしれない。まあ、ほんの数歩の差だから、そこまで大差ないかもしれないが。


 わたしは宝石店で換金を終えると、洋服屋さんに向かう。宝石店ではネックレスを一つだけ売った。アクセサリー類は、わたしが所持していた全てを持ってきていたが、流石に一つひとつが高級な品なので、一気に売るようなことはしない。ちなみにピアスはお礼としてなんとかツムギさんに渡すことが出来た。


 ノイギレールの街並みとはやはり違うシルヴァイスの街並みをきょろきょろと見ながら歩いていると、ツムギさんに教えてもらった洋服店につく。

 シルヴァイスはノイギレールと違って識字率が低いのか、看板に分かりやすく洋服の絵が飾ってあった。わたしはノイギ語は完璧だが、シルヴァイスの言語は怪しいので助かった。


 余談だが、わたしがやってきたのはシルヴァイスの国境のそば、東の方のスールコと言う街らしい。出発地点のロロジー領はノイギレールの国境そば、西側なので、デポトンの森を斜めに渡ったこととなる。ただでさえ広い森なのに、そんな渡り方をしていたのか……。一日中歩き回っていたとはいえ、よく一週間ほどでたどり着いたものだ。


 洋服店の扉を開けると、店員さんの「いらっしゃいませー」という声が聞こえる。高級感というよりは安心感のある、親しみやすい雰囲気の店だ。ノイギレールにいるときは、それはもう高級なお店か、いっそ仕立て屋を家に呼ぶものだったので、なんだが空気が懐かしい。

 とはいえ、流石に現代日本と同じような店構えをしているわけではない。試着用と思わしき服が一着ずつ並んでいる。


「今日はどのような服をお探しで?」


 ふくよかなおばちゃん店員さんがわたしに声をかけてくれる。明らかにこういう店に慣れていない、という態度が出てしまったのかもしれない。基本的には一人で選びたいタイプの人間だが、今回に限っては、ありがたい。シルヴァイスの購入システムに詳しくないので。


「何か動きやすい服をいくつかと……あと下着も。それからええと……飲食店で働くための制服を、三着ほど欲しいの」


 ツムギさんからは具体的な制服の指示を出されていない。でも、働きやすい服って、やっぱりあると思うのだ。わたしは今世は勿論、前世でも飲食業の経験はないから、こういうのは分かる人に丸投げした方がいい。


「おや、お嬢ちゃん、どこで働くんです?」


 制服、と言ったからか、おばちゃん店員さんはこの街にあるのであろう飲食店の名前をいくつか上げる。

 そうか、この言い方だと普通に街の店だと思われるし、店員を何人も雇うような普通の店だったら、既に制服デザインが決まっているか。


「この街じゃなくて、えーっと……森の方のお店で働くの。デザインはなんでもいいらしいから、働きやすそうな奴をお願い」


 ノイギレールではデポトンの森、と読んでいるが、こっち側ではなんと呼ばれているかは知らない。


「森……ああ、噂の?」


「噂?」


「変わった料理を出す店があるらしい、ただ店主が変わり者だ、って噂が凄くてねえ。だからあたしも行ってないんですよ。偏屈なじいさんだったり頑固な人だったりしたら……ちょっとねえ」


 変わり者……まあ確かにあの挙動不審な人見知りっぷりは変わり者に分類されてもしかたないような。


「た、確かにちょっと変わり者なのは否定しきれないけれど、とってもいい人なのよ。それに料理もすごく美味しいし! よかったら今度、是非きてくださいな」


 わたしはここぞとばかりにアピールした。変な噂が立っているのなら、訂正しないといけないし、声をかけて客を呼びこまないといけない。

 おばちゃん店員さんは「それじゃあ今度、ちょっと行ってみようかねえ……」と、好感触……とまでは行かないが、興味は持ってもらえたみたいだ。


 おばちゃん店員さん、来てくれるといいな。

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