06

「へ、部屋、よかったらここの上、使ってください。あの、もし街に部屋を取るようだったら、えっと、こ、ここで着替えを……。あっ、この部屋は使ってないので! だ、大丈夫です……。使うようでしたら、掃除は後で僕がしておきますから」


 わたしに一室を案内してくれたツムギさんは、へろへろとどこかへ消えてしまった。さっきみたいにどこかに隠れてる、というわけではなく、完全に逃げられてしまった。

 あの後、街への行き方や、店の経営情報、メニューなんかをあれこれ一気に聞きすぎたのかもしれない。

 欲しい情報は大体聞き出せたけど、無理させすぎたかな。向こうは人見知りで、わたしとは初対面。相当気力をそがれる会話だったに違いない。


 わたしはちょっと後悔しながらも、天井を見上げた。


「上、って言ってたわよね……」


 案内してくれたのは、明らかに物置として使われている一室。室内に階段は特に見当たらない。


「……あ」


 ふと、天井に扉……のようなものを見つける。何かを引っ掻けるとっかかりもある。辺りを見回せば、長い棒が壁に立てかけられていた。

 なるほど、屋根裏部屋ね?


 棒を引っ掻けて扉を引っ張ると、はしごが下りてくる。

 それをゆっくり上っていけば、やっぱり屋根裏部屋に出た。

 随分と使われていないのか、かなり誇りっぽい。でも、一応床はフローリングみたいになっているし、壁には壁紙がしっかり張られていて、天窓がある。

 屋根裏部屋も物置として使うつもりだったけど、物置に物が置けてしまっているから放置されていたんだろうか。


「よい……っしょ!」


 前世を含め、屋根裏部屋に上るなんてこと、初めてした。結構上るの大変だな……。

 でも屋根裏部屋なんてわくわくする。前世は賃貸ばかりに住んでいたし、今世では伯爵令嬢なので、屋根裏部屋なんてデッドスペースを活用するための部屋なんて作らなくても十分なくらいにはでかい屋敷に住んでいたし。

 使っていい、って言われたし、ありがたく使わせてもらおう。掃除はわたしが使うわけだし、わたしがしたいものだが、彼がああいった以上、任せた方がいいんだろうか? 人見知りへの距離の取り方が難しいな……。


「――へくち!」


 思わずくしゃみが出てしまった。本当にほこりっぽい。

 窓を開けたらマシになるだろうか、とわたしは窓に近付いてみる。

 窓はくるくると取っ手を回すと、窓ガラスが起き上がって開くタイプの窓だった。ノイギレールは現代日本とそこまで差のない文明レベルのっぽかったけれど、このタイプの窓は初めて見た。

 窓を全開にしても、身を乗り出せる程は開かない。まあ、屋根裏部屋の天窓だから当たり前か。外に出ようとして落下したら事故に繋がるもんね。


 外を覗けるくらいには開けたので、ちょっと覗いてみる。高いところは特に怖くないので。

 外を見てみれば、わたしが倒れる前に見ていた舗装された道が見える。話に聞いていた通り、その道を歩けば街に行けるっぽい。途中で道は見えなくなるが、道が伸びている方角に時計塔みたいのが建っている。森のど真ん中だけにポツンと時計塔がある、ということはないだろう。


「シャワーとか借りられないかしら……。着替えて街へ宝石の換金と買い物に出かけたい」


 宝石を手持ち鞄につめる際、一応一式衣類は入れてきたが、逆に言えば一着づつしかない。制服っぽい動きやすい服も必要だろうし……。

 次にやることを見つけたわたしは、屋根裏部屋を下りるのだった。

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