朝起きたら妻が男に成っていた

赤青黄

一話

 妻が男になってしまった。

 何を言っているのか分からないが俺にも分からない。だが事実、妻が男になってしまった。もともと整った顔つきをしていた妻は驚くほどイケメンで今、俺の隣でナンパをしている。

 「ねぇ、君たちこの後、暇かい?私は今暇で暇でしょうがないんだ。これから一緒に最近出来た。話題のカフェにも行かないかい?」

 いつもの浮気の光景だが、いつもよりもムカついてくる。

 どうしてこうなってしまったのかこれは今日の朝まで遡る。

 朝日が昇り清涼な空気感にソーダの様な淡い空色。俺の朝は今から始まる。

 ボキボキと所々から疲れからなのかいびつな音がなる。最近まで、仕事の忙しさがピークに達していた。だがそのピークも過ぎ去り、久しぶりの爽やかな朝を俺は楽しむ。今日は久しぶりに俺が朝飯でも作ろうか。最近、妻に任せっきりになってしまっていたから、そろそろ俺が当番にならないと不機嫌になってしまう。

 「さて、今日は何を作ろうか。」

 ぽつりと雨粒のようにこぼれた独り言は誰にも届かず空に消えた。

 「おはよう。」

 階段の方向から聞き慣れない声がする。まるで男の様な声に俺は妻が風邪でも引いてしまったのだろうかと、心配をする。

 俺は心配になり妻の居るであろうリビングに向かう。

 「あ、おはよう私の素敵な旦那様。」

 眠そうな目を擦りながら洒落た言葉を言う。いつもなら「そんなお世辞は辞めろ。」と言うところだがそれ以上の異常事態に唖然が止まらない。

 いつもどおりのパジャマ姿やいつもどおりの寝癖だが、しかしおかしいと完全に思える箇所が明らかにあった。

 「なんだい、私の顔になにかついているのかい?」

 妻の朝日の似合いそうな笑顔とともに俺は口を開き大きな声で

 「誰だ……。」

 とポツリと呟いてしまった。

 俺が作った目玉焼きを机の上に置きながら目の前に座っている妻に目を向けるとすこし許してくれたのか妻はそれを不機嫌そうに食らいつく。

 妻は元々顔がいいと評判である。俺の高校生活の時も学園一モテていた。男たちの愛憎が向けられていたくらいだがらだ。ここでおかしい箇所があるとおもう。何故、顔がいいから男たちに愛憎が向けられていたのかについてだ。

 それは妻がいつも女をはべらせていて学園一のプレイガールとして君臨していたからだ。

 おかしいと思うだろうがしかし、妻は男より女の方が好きであり、それが現実だった。そう妻は男より女が好きだ。大事なことなので2回言おう。

 それなのに何故、男の俺と結婚したのは色々あって収まるところに収まったからだ。いろんな困難な道筋があったが、しかしその壮大な物語は空中に放り投げるとして俺は机を意気よいよいよく叩き、身を乗り出す。

 「本当に悪かったと思っているよ。だがらそろそろ機嫌を直したっていいだろ。」

 かれこれ2時間ぐらい謝罪しているのだが、しかし妻は一向に機嫌を直してくれない。

 今日が休みで良かったがもしも仕事日だったらどれだけ青ざめていた。

 そんな誠意の塊である俺の謝罪に妻はため息を吐き出しながら俺に箸の先端を向ける。

 「うわああああ。」

 俺は恐れおのき、椅子から崩れ落ちる。俺は先の尖った物を向けられると一瞬驚いてしまう性格なのだ。なのにさっきの妻の行動は本当に悪質極まりない行為だと思う。俺は倒れた椅子を立ち上がらせながら不機嫌そうで今でも何かしでかすかわからない爆弾娘を見る。

 すこし、言い返してみるか。いいや、やめた方がいいだろう。昔、一度だけ言い返した過去がある。結果は俺のKO負けで、綺麗なチョークスリーパーを決められてしまった。

 「もう、どうしたら許してくれるんだ。何でもするからそろそろ喋ってくれ。」

 「…今日の夜ご飯、一緒に外食したい。」

 やっと喋ってくれた。しかし外食か、妻は常人の二倍食うからな、しかし。

 「外食か…分かった一緒に行こう。」

  俺は財布の中身を思い出しながら少し下ろさないと駄目だと考えながら冷えた目玉焼きを食べる。

 さて、やっと仲直りしたことだし、今一番の問題である。男になってしまった事を考えよう。

 黙々と食べる妻を横目に昨日の事を思い出す。昨日は仕事で夜遅く帰ってきた。その時は妻はまだ女のままだった。そこで一緒に夜ご飯を食べて少しの談話、そして家事を一通りやった後に就寝。そして肝心の今日、起きてみたら妻が男に成っていた。

 「どうゆうことだよ。」

 俺は今までの事をまとめたが一向に分からなく頭を混乱させる

 何で起きたら男になってるんだよ、おかしいだろ。昨日まで女だっただろう何で夜の内にトランスフォームしてんだよ

 俺がわなわなと震えているのを横目に妻がスマホを取り出し何処かに連絡しようとしている。こんな非常事態に何をしようとしているんだ。俺は身を乗り出しスマホを取り上げる

 「あ、何するんだ。返せ私の大事な個人情報が入っているんだぞ。プライバシーの侵害だ。」

 「それは、それだ。今は法律なんてものはどうでもいいんだよ。」

 「そんな非国民みたいに…。」

 と諦めたのか妻は抵抗するのをやめた。スマホの画面を確認すると画面には天城陽子と女性の名前が書かれていた

 この女、じゃなかった今はこの男だった。

 「お前今自分がどんな状況に居るのか分かっていないのか。」

 俺は何故こうしたのか分からないが多分威嚇のつもりで机に足を起き妻を高目で睨みつけた。

 「机に立つな行儀が悪いだろ。」

 すると妻は呆れた顔を作りながら足を組む。

 「大体いつもやってる事だからいいだろう。今更も何も注意するのが半世紀遅いよ。」

 「そのころにはお前は生まれてないだろ。」

 どこかの雑誌の表紙が飾れるプロ顔負けのポーズを作りながら妙にいい声で今の状況を楽観的に見ている妻にフツフツと怒りがこみ上げそうになるが、しかし俺は大人だここは大人の余裕を持って連絡先を消した。

 「あー-、私のプライベートが。君それは横暴というものだろ。」

 妻はスマホを取り返し、ぷんぷんと蒸気機関車のように煙を出し不機嫌になる。

 「お前が不機嫌になるのはお門違いだろうが、何でこんな異常事態に浮気相手の女に連絡しようとするんだ。」

 だらしない姿勢に成りながら妻は意気揚々と立ち上がり

 「だって男になったんだから私の男を使ってガールフレンド達で征服欲を満たしたくなるのが普通だろうが。」

 と素晴らしいクズ発言をする

 「何爽やかな声出して何最低な事を抜かしやがる。」

 「男に成ったら誰しもがやりたい事ナンバー1なんだぞ。」

 「それはお前だけだ。大体、ガールフレンド達で征服欲を満たしたいってのはいつもやってるだろう。」

 「そんなんじゃないんだよ。男になったからには作られた物じゃなくて自前の武器で征服したくなるもんなんだよ。」

 「朝っぱらから下ネタはやめろ。っていうか男のマグナムは征服するためにあるもんじゃなくて愛するためにあるもんだよ。....て、なんで俺は朝っぱらから恥ずかしい事を言っているんだ。」

 「愛するためって、まだ使ったこともない君に上から目線で言われたくない。」

 「使わないとかの問題じゃなんだよ、て言うか何で結婚してるのに俺は童貞なんだ。」

 「それは今更過ぎるよ。」

 そんな騒がしい朝が過ぎ去り、冒頭のナンパへ戻る。

 「おい、ナンパしてないでそろそろ行くぞ。」

 「ちょ、痛い、痛い、もう少し優しくしてくれ。」

 俺は無理やり妻を連れ去る。誘われた女性は残念そうに見送る中俺は不安の中に居た。病院に行ったところで妻は女に戻ることが出来るのか、もしも戻れなかったら俺は「そんな、深く考えなくてもいいさ、戻れなくても私の事は愛してくれるだろ。」

 妻は俺の心の内を読んだように俺に向って笑顔を向けてきた。その笑顔によって俺の不安は跡形もなく消え去った。

 そうさ、どんな姿になっても俺の妻を愛する気持ちは変わらない。

 結婚した時に誓った事を思い出した。

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朝起きたら妻が男に成っていた 赤青黄 @kakikuke098

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