第6話 アランの魂

アランは実家に向かう新幹線の窓から外の景色を眺めて、昨日のことを思い返していた。明らかに強者だとわかっている相手と戦う前の緊張感とわくわく、試合中の会場の熱気、試合後の悔しさ。こんな悔しい思いをしたのは久しぶりだ。大学生になり、仲の良い奴らと遊ぶ勝ち負けのないただ楽しい幸せな毎日。悔しい思いなんてするわけがない。だが、この3日間でアランの奥底に眠っていたアランの魂が目を覚ましてしまった。ルカに言われた言葉が頭をよぎる。


『君はわかってないな。人生は勝ち負けがあるから楽しいんだよ。だから私はここに来てる。あんたもそうなんじゃないのかい?』


ああ、そうさ。俺は勝負の世界が好きだ。そして常に挑戦者でありたい。下を見て安心するより、上を見て絶望する方がいい。そうゆう人生を歩んでいきたいものだ。だから今こうして新幹線に乗って実家に向かっている。本来なら今日から5日間は、俺とラッセルを含んだ男4人と女友達4人の計8人で、その中の1人が所有している山奥の別荘に泊まりに行くはずだった。本当に申し訳ないことをしたと思っている。ラッセルから7人で写っている写真が送られてきた。「楽しんで、お土産よろしく」と返した。


人生が大きく変わるきっかけは偶然から始まることが多い。結局、人生というものは偶然の連続なんだ。偶然ラッセルの家でゲームが見つけ、偶然ルカという女に出会った。ルカがWOLをやっていたのも偶然だ。その偶然が重なって今がある。でも、もしかしたら全て必然なのかもしれない。アランは終着駅に向かって走る人生という列車を自分の足で乗り換えた。


新幹線から地方の列車に乗り換え30分くらい揺られて、アランは地元の駅に着いた。ここに帰ってくるのは約1年ぶりだった。1人暮らしを始めてから1回も帰ってない。帰る理由がなかった。1人暮らしをしている都会の町とは異なり、そこまで賑わっていない静かな町の心地よさを感じながら、アランは歩いた。


実家に着くと、何も言わずに急に帰ってきたので、母親は驚いた。


「帰ってくるならいいなさいよ。勉強はしっかりやってるの?」


「単位とれる程度にはね。1週間くらいこっちで過ごすつもり」


「あらそう。今日はどうするの?久しぶりに地元の友達にでも会いたくなったの?そうえば3日後の7月25日には夏祭りがあるわよ。花火大会もあるわ。だから帰ってきたのね」


「違うよ。そのために来たんじゃない。ちょっと行かなければならないところがあってね。自転車借りるよ」


そう言ってアランは家を出た。

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