第5話 壁

ルカに敗北したアランは休憩スペースにあるソファーに座って、ルカの試合を眺めていた。ルカはアランとの対戦の後、そのまま勝負を続けていた。もちろん彼女が負けることはないので、常にモニターに映る映像は、ルカvs挑戦者ということになる。昨日アランに負けた高校生も何度か挑んでいたが、惜しいところまでは何回かいくもののやはり勝てなかった。ラッセルもルカに挑んだが、体力ゲージを半分も削れずにあっけなく敗れた。ルカが18時になり帰ったタイミングで、アランとラッセルも店を出た。2人はコンビニでアイスを買い、海沿いの公園にあるベンチに座った。きれいな夕日がオレンジ色の光で2人を包んだ。


「惜しかったな。アラン。先にダメージ与えたとき、めちゃくちゃ会場盛り上がってたぞ。上手い!勝てるぞ!って感じで」


「会場の熱気は伝わってたよ。あの空気は好きだな。高校の頃の部活みたいだった。大会になるとベンチや応援してくれる人がワンプレー、ワンプレーで盛り上がるんだ。そんな感じだった」


「俺もなんか嬉しくなったよ。アランがみんなからすげーって言われたとき」


「でも結局負けちゃった。多分、今のままじゃ100戦やって100戦負ける。そんくらい差があった」


「俺は実際に見たことはないけど、アランは昔めちゃくちゃ強かったんだろ。もしもその時の実力が戻ったら」


「それでもどうかな。わかんない」


随分と弱気なアランにラッセルは少し驚いた。あの時の実力に戻ったらルカなんて楽勝だよ言うと思っていた。今日の試合は惜しい試合に見えた。でも違うのかもしれない。圧倒的な実力差が存在していた可能性もある。アランは現在の実力でも間違えなくトッププレイヤーだ。トッププレイヤー同士の戦い、頂点の試合は、俺が認識できている以上の小さな駆け引きがたくさん詰まっているのだろう。俺があのレベルに近づいたらわかるか。


暗くなってきたので2人は公園を出て、それぞれの家に帰った。帰り際にアランは1週間ほど実家に戻るとラッセルに言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る