第2話 ゲームセンター

ゲームセンターについた時には、11時になっていた。このゲームセンターは少し大きめでWOL専用のスペースがある。WOLはロボットの対戦ゲームだ。ロボットといっても地上でガチャンガチャンとのろのろ動くようなものではない。燃料ゲージを消費し、空中を山なりで飛びながらライフルや剣を使って戦う。土曜日ということもあってWOLの会場にはたくさんの人がいた。そしてゲームの試合を映している巨大なモニターの前では多くの人が立っていた。


「あの男の子、ずっと勝ってるな」


「高校生らしぜ」


「9連勝か」


「相手が弱いだけじゃないの」


「いや、相手も強いだろ」


「お、また勝った」


そんな会話を聞きながら、アランとラッセルは試合を観戦していた。ラッセルは『上手い』と一人でぶつぶつ言っていたが、アランは黙っていた。とりあえず2人はゲーム待ちの列に並ぶことにした。その列には2人しか並んでいない。おそらくあの高校生と戦いたくないんだろう。


「ラッセル!」


そう呼ばれ振り向くと、マスターがいた。マスターはここの店長だ。29歳でこの会場を盛り上げている。たまにマイクを片手に持ち、実況している時もある。


「こんにちは。あの高校生強いらしいですね」


「ああ。あいつは今日まだ負けてないな。よく土曜の午前中に来てる子だよ。お前は夜しか来ないから知らないか」


「どうです。僕とあの子が戦ったら、どっちが勝つと思います?」


ラッセルはマスターに答えづらい質問をしてみた。


「いやー。お前も十分強いさ。ここじゃお前もわりと有名だ。でもあの子の方が強いかな」


そう言って笑うマスターを見ながら、ラッセルはアランを紹介した。


「こいつなら勝っちゃうかもしれませんよ」


「ラッセルの友達か?」


「ラッセルとは高校の時からの友達です。アランと言います。年は20です」


そんな会話をしてるうちにアランの順番がやってきた。高校生の連勝は11と表示されている。ここは基本的に勝ち残りである。だからここは人が多い。試合を見たくて来るという人も大勢いる。レベルの高い戦いは見ていて面白い。アランはゲーム機の前に座った。ラッセルは巨大なモニターではなく、アランの隣でアランの画面を見ていた。アランはWOLカードを作ってないので、アカウント登録から始めた。


「アランっていうのか。お前、初心者だろ。悪いけど、ここは雑魚が来る場所じゃないぜ」


ゲームのアカウントすら持っていないアランを見て、2mほど横に離れた対戦相手の高校生が話しかけてきた。そんな姿を見て、アランの横にいるラッセルは笑いをこらえている。


「本気でこいよ。じゃないと恥かくことになるからな」


アランは高校生の方を向き、言葉を返した。アランはスダクートという機体を選んだ。このロボットはスピードが速く、燃料が多いので長い時間、空中で戦える。しかし体力が少ない。対する高校生が選んだのはリズという機体だ。この機体は現状最強と呼ばれている。が、誰が使っても強いわけではない。使いこなすと強いが、使いこなすのが難しい機体でもある。


お互いが準備完了というボタンを押し、3,2、1の合図が画面に出て、バトルが始まった。アランは空中を飛び、敵のライフルの回避しながら、着地し、燃料ゲージを回復。そしてまた飛び、回避行動を繰り返していた。


「アランってやつ、なかなかだぞ」


「いやでも、回避してるだけじゃ勝てないぞ」


そんな声がモニターの前から聞こえてきた。攻撃が当たらない高校生はライフルを空中で連射しながら、距離を詰め接近戦を仕掛けてきた。しかし、アランはスピードを生かし、中距離を保ちながら、敵に隙ができた瞬間を見てライフルを放った。ライフルは直撃しダメージを与えた。そしてさらにライフルを2発撃ち、わざと右によけるように誘導し、そこに一斉射撃を撃ち込んだ。高校生の体力ゲージが大きく削れ、早くも3分の1になっていたが、アランの体力ゲージは満タンだった。圧倒的な力量差である。モニターの前はかなり盛り上がっていた。それを見ていたマスターはマイクをとり、実況を始めた。


試合はアランの圧勝で終わった。高校生は次は勝つといい残し、友達4人とゲームセンターを出ていった。ラッセルは興奮している。勝つだろうとは予想していたが、まさかここまでとは思っていなかったのだろう。その後も次々と挑戦者はきた。途中、疲れが出てきて、危ない時もあったが、誰にも負けなかった。この一日でアランの名はちょっと有名になった。とんでもないやつが現れたと。


「あの人強いね。ルカさんとどっちが強いんだろう?」


「ルカさんでしょ。あの人、どっかの大会でベスト16じゃなかったっけ」


「ベスト32じゃなかった?大会はチーム戦だからね。ルカさんめっちゃ頑張ってたけど。アランって人とルカさんの戦い見てみたいね」


「ルカさんに勝ってほしいな。私の憧れだもん。美人でゲームも強い」


「私はアランって人に勝ってほしい。今日でファンになっちゃった。私もスダクート使ってるし」


声の大きい女子高生の会話を耳にしたラッセルはマスターに話しかけようとマスターを探した。確かにルカとアランはどっちが強いんだ。そんな疑問が頭に浮かんだ。

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