魔女と世界の隠し事

小本 由卯

第1話 魔女と世界の隠し事

 魔女の国。

 その名の通り魔女が住む場所であり、平穏を望む魔女たちが静かに暮らしていた。

 

 その場所で仲良く暮らす2人の魔女の姿があった。

 彼女たちは魔法の鏡を通して、ある街の様子を眺めていた。


「何かこう……頭がごにょごにょ~ってなる感じ」

(……? ごにょごにょ?)

 一生懸命に説明するマリーチルの言葉に対し、アズリッテは難しい表情で

首を傾げた。


「……マリーちゃんがこの街から変な予感を感じているっていうのは分かったよ」

「うん、絶対何かある」


 マリーチルは少し考えると、陽気な表情でアズリッテへと向き直った。

「ごめん、ちょっと見てくる」

「……言うと思ったよ、少し待ってて」

 そう言うとアズリッテは部屋から出て行った。

 そしてすぐに戻ってくると、手にしていたものをマリーチルへと差し出した。


 アズリッテが差し出したのは、首部分に装飾の付いた小さな瓶。

 これは彼女自身が作り出した治療薬であった。

「うげ……これ超苦いやつじゃん……」

「私だって飲むことになって欲しくないけど、念のため持って行って」


「うう……わ、分かったよ、ありがとう」

 マリーチルは険しい表情を浮かべながら、その小瓶を受け取った。


 ……。

(……平和ね……いや、平和でいいんだけど)

 街へとやって来たマリーチルは、歩きながらその周囲を見渡していた。

 しかし彼女の予感など嘲笑うかのように、街は人々による活気で満ち溢れていた。


 しばらく歩き回っていると、魔女の性分からか人目の付かない所まで来てしまった

マリーチル。

 すると突然、彼女の耳に何かが聞こえてきた。


(……誰かが歌ってる?)

 マリーチルがその歌声のする方に向かうと、そこには綺麗な歌声を放つ1人の女性の姿があった。

 女性はマリーチルの気配に気が付いたのか、歌を中断するとその視線をマリーチルへと向けた。


「邪魔をしてごめんなさい」

頭を下げるマリーチルに対し、女性は不思議そうな表情で見つめていた。


(……あれ?)

 マリーチルは女性の放つそのオーラから、すぐに彼女の正体に気が付いた。

 しかし女性にとってもそれは同じであり、彼女もまたマリーチルの正体に気が

ついたようであった。


 マリーチルと女性はお互いに事情を説明する。

 女性は魔女であると同時に、街の歌姫でもあった。 

「まさか、こっちに堂々と人前に出る魔女がいたとは」

「危険であることは分かっているのだけれど、どうしても歌いたくて……」


「それと……ごめんなさい、私の歌がそんな所にまで干渉していたなんて」

「いえ、綺麗な歌声が聞けたし、飛び出してきた甲斐があったかな」

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい」

 2人がお互いに笑い合うと、マリーチルが立ち上がり女性へと向き直った。


「姉妹を心配させているし、私はもう帰るよ」

「あと、貴方の正体については聞かなかったことにするから安心して」


 ……。

 その後、マリーチルは無事に魔女の国へと戻ってきた。

 そんな彼女を迎えたのは、安堵の表情を浮かべるアズリッテであった。

 

「ごめん、私の気のせいだったみたい」

「いや、何もなくて良かったよ」

 マリーチルの言葉に、笑顔で答えるアズリッテ。

 そしてマリーチルが鞄から小瓶を取り出すと、それをアズリッテへと差し出した。


「これ、返す」

「あげるよ?」

「いや! いい! いらない! 着替えてくる!」

 そう言ってマリーチルは持っていた小瓶をアズリッテへ押し付けると、足早に

自分の部屋へと向かっていった。


「……あんなに嫌がるほど苦いかなぁ?」

 返された小瓶を見つめながらアズリッテは呟いた。

 そして瓶の首に付いた装飾を取り外すと、真剣な表情で考える。


 マリーチルが街で見てきた光景は、アズリッテが瓶の装飾に込めた魔法によって

彼女もまた同じ光景を見ていたのであった。

(マリーちゃんが心配なだけだったんだけど……私も聞かなかったことにしよう)

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