第9話 初めての会話

小学校入学、この春、私は6才になった。ピカピカの一年生だ、学校は楽しくない場所だとお母さんに、言われた。

周りの子は楽しそうに会話をしている、自分も混ざりたい。


お母さん以外の人と会話をしたことがない私が、誰かと楽しそうに話している姿を想像する、《想像は現実にならなかった》


「わからない、どうやって話したらいいかわからないよ」


お母さんの言うとおり学校は楽しくないのかもしれない。


自分の机に座り、窓から空を眺めていると、1人のクラスメイトから話しかけられた。


「ねぇ」 


「うぁ!」


突然話しかけられたので、びっくりしてしまった。


「なに?そんなにビビって、」


「いや、なんでもない」


会話だ、初めての会話ができた


「嬉しい」素直にそう思いたかったが


「なに?その包帯?」


そのクラスメイトの質問に動揺した


「あ、これは…えーと…」


答えに困った、ピアノのお稽古をして、失敗したから、お母さんに叩かれた、なんてそんなこと言ったら、お母さんに怒られちゃう


「こ...これは、こ…転んで怪我しちゃったの」


とっさに嘘をついてしまった。

でも、お母さんはこの場にいない

《静かにしてればバレない》だろうと思った


「包帯の巻き方…下手ね」ー


突然発せられたその言葉に

《私の頭が沸騰した》


「それってどうゆうことなの!」


少しキレ気味にかつ、周りに聞こえないように、言い返した。


この包帯は《お母さんが巻いてくれたんだ》


「怒ってるの?」


「だって下手じゃん!巻きが雑だし、それに、ヘンテコなシールで、止めてあるし」


このヘンテコなシールは《お母さんから初めて貰ったものだ》


「っ‼︎‼︎」


私はその話しかけて来たクラスメイトを睨んだ。


「なに?その顔?ブサイク!」


言葉が出なかった、悔しくて、悔しくて、たまらなかったのだ!


「やっぱり、学校は楽しくない…」


◆◇◆◇◆◇


「はいはーい♪みんなー」


担任の先生が明るい声で、音頭をとった


「今日は、みんなが学校に来て、丁度1ヶ月経ちました。ということで心機一転、席替えをしたいと思います!」 


「席替えか…」


今、私の横に座っている男の子は、わかりやすく言うと不良みたいな子だ。


学校生活、1週間で2人の生徒と喧嘩しているような子だ

もちろん、怖くて、会話なんて出来なかった


新しいお隣さんは、宗善(むねよし)というなんか、名前が言いにくい子だ


特に特徴がない子だけど、


(前のお隣さんよりはいいかな)


でも、なんだろう…なんかこの子、ふわふわしているっていうか、のんびりしているっていうか、話しやすそう。


「よろしく」


「っ‼︎」


挨拶をされた。さわやかでもない、かといって元気ってわけではない声だ


コクリ.


私は軽く頷いた


「ん~、なんか今の返事、冷たい人だと思われたかもしれない。どうしよう、今度はうまく会話しないと…」


◆◇◆◇◆◇


理科の授業、なぜ、人は感情があるのか?と言う内容だった。

人間は楽しいことをしている時に笑い、悲しんでいる時は泣いてしまうのか?

それを各々の意見を共有する授業内容だったと思う。

そして、先生が言った。


「楽しくなることはいつでもできますよ!」


「ホントに~」「どうやってなるの~」


先生の問いに対して一同が疑問を持つ。


「では、起立!」


先生が合図した。まだ、授業が終わる時間じゃないのになんでだろう?その場にいた、全員がそう思った。


「これからダンスをします!なんでもいいので踊ってください!」


「え?」


いきなりだ!


「なんでですか~?」


1人の生徒が問いかた


「楽しくなるからですよ!さぁ!隣の席の人と手を繋いで!」


そうい言うと先生がCDプレイヤーを取り出して音楽をかけた。

周りの生徒が次々と隣の席の人と手を繋いぐ、皆ノリノリだ、では、私は躊躇していた、



《手を…繋ぐ…か》


私はお母さん以外の人と触れ合ったことがないのだ


《どうしよう!どう声をかけよう!》


「どうしたの?早く手を繋ぎなさいよ!始まらない」


他のクラスメイトがそうか話しけて来た

でも、手を繋いで、傷を見られたらって思うと、勇気が出ない


(どうしよう、どうしよう)


隣の子(宗善)と一瞬目があった


「あれ?」


私は気づいた


(この子、今の私と同じだ!勇気が出せないでいる!)


自分とそっくりだと、そう思った


(私だけじゃなかったんだ!)


私は手を繋ぐことを怖がってる、そして彼も怖がっている、《同じ感情でここにいる》


気づくと私は、自分の両手を彼の両手に繋ぎ合わせていた。


「踊ろう!」


《初めて自分から声をかけた》


彼は…驚いてた、言葉が下品だけど、ちょっと《おバカな表情を》していた。


私は気づいたら、自然に笑顔になっていた


あ~、《楽しいってこうゆうことなんだ!》


いや、これは彼が人を笑わせる才能があるだけかもしれない!


音楽が、人の心を楽しくしてくれてるのかもしれない!


それとも、私の自己満足なのかもしれない!


でも、それでも、音楽と彼との、この楽しい時間が続いてくれたらって思うと


それだけで、今よりも、

《楽しい毎日が過ごせるかもしれない》


◆◇◆◇◆◇◆


学校が終わって家に帰る


「今日は、楽しかったな~」


心からそう思った、帰宅すると

お母さんから突然言われた


「琴人、夏が明けたら、引っ越すわよ」


「っ‼︎‼︎」

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