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そう言ってまた一口、コーヒーを口に含む彼の表情に昨日のような笑みはなく、無表情。


それが少し機嫌のよくない時の態度だと気付いてはいても、それでも安心感から僅かに息を吐く。




こういう、食事関係の問題がある時、人にはよく怒られていた。


食べろ食べろと急かされ、無理に詰め込めば戻し、食べられない日はなぜ食べられないのかと眉を顰められ、毎日のように食べられたのか確認をされる。


幼い頃から食にあまり興味の持てなかった私はずっと少食で、ここ半年はそれがより強く出ていた。


それが心配から出て来ている言葉だとはわかっていても、私にとっては酷く重かった。




でも、この男はそんな今までの大人とは違い、私の自由を尊重してくれているように思う。


食事出来ないことに不安や罪悪感は確かにまだあるままで、でも表情や態度に出ないだけでも、こんなに気持ちを緩めることが出来るのかと、ここに来てから知った。


そんな、普通の人の考える『当たり前』より、この男が心配するのは自分を殺すための筋力のようで……。




確かに私の筋力はどんどん衰えていっているだろう。


手に力は入りにくくなり、腹部の骨は浮き出てきて、寝転んでいるとどこも骨が当たり痛む。


胸もだいぶ………………、うん、残念なことに。




もう何キロ体重が減ったのか……測ってもいないけれど、見た目で自分でもわかってしまうほどに、やつれていく体。


空腹感なんて起こることなく、気付けば食事を忘れていく体。


ゼリーやプリン、スープなどばかりでかろうじて栄養は少しずつ取っているけれど、そんなんじゃ身にならないことくらい、頭ではわかってる。


わかってはいても、体が受け付けない。




モノを胃袋に流し込むと、すぐ戻そうとしてくる。


その不快感から、ずっと逃げ続けている。










部屋へ戻ってからミネラルウォーターで喉を潤し、与えられているゼリー飲料を口に流し込む。


半分飲んだところで、いつも通り疲れてしまい、キャップで蓋をする。




ひと息ついたら、今度は銀色のシートの中から一粒、薬を取り出して、ミネラルウォーターで流し込む。


ゼリー飲料を飲む理由ですら、薬を飲むためだけだ。




それから私は再びベッドへと横になり、また空を見上げる。


今日はどうやってあの男を殺しに行こうか、どう不意をつこうか、どの凶器を手にしてどう苦しめようか。




今日も私は考えている。


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