6



しばらくぼーっと空を見上げていると、ふとドアのノック音が響く。


その主はこの家の住人である一人しかいない。




私は枕元にある時計を片手に取ると、『入るよ』と一声かけて扉を開けてきたその男に照準を定める。


渾身の力を込めて、その顔面目掛けて投げ付けた時計はすんなりとキャッチされ、時計に気を取られている隙に男の頭から被せようと広げた布団は──気付けばふわりと私を包んでいて、足が地面から離れていた。




狩取りに行ったはずが、確保、されていた。なぜ。




その数秒を思い返し、はっと現状を確認する。


布団に包まれた私は彼の片腕に支えられ肩に担がれているようで、床が遠い。


そのまま部屋の中へと歩みを進める振動が伝わり、時計を元あった場所に置いたのか、コトッという音が耳に届く。




直後、ゆっくりと体を起こされ、床に落とされる……かと思いきや、背中に感じるふんわりとしたスプリングの効いたベッドの感触。


ギシリという音がやけに響いた。


顔だけ包まれた布団から出ていて、肩から下は布団に包まれていて動けないまぬけな私と、男の視線が交差する。




「残念でした」




そう言ってまた、男はふわりとした笑みを向ける。


デジャヴだ。


もうそのセリフは聞き飽きた。




しかも今回、私の両手両足の自由は布団によって奪われている。


自分の仕掛けた物がなぜか自分に返されている。


これは……あれだ……『ミイラ取りがミイラになる』ってやつだ……。




なんて呆然と思考を巡らせている間に、奴はまた私の首元に顔を埋めて来るので、首しか動かないなりに全力で暴れた。




「なんでそんなにかわいいの?」


「可愛いとか意味わからないキモい!!キモいキモいキモいいい!!」


「ははっ、悪口のレパートリーが少ないそんな所も好きだよ」




ビクりと一瞬、その言葉に気を取られる。


そんな一瞬囚われた言葉を振り払うように、首をめいいっぱい横に振って、彼を拒絶する。




「照れた?」


「照れてない!!」


「今、反応したでしょ」


「してない!!」


「でも、どの言葉に対して言ってるのかわかってるってことは、自覚あるよね?」




首を振るのをピタリと止めた私は、もしかして墓穴を掘ったのかもしれないと、今の会話を頭の中で思い返す。


男が言う『反応』した所を、本当に私が解っていないのであれば、『知らない』『なにが』『なんのこと?』が正解だったのではないか?




それに気が付き、悔しさで男を睨むけれど、この男は本当に甘ったるい笑みを私に向けてくるので、力が抜けていってしまう。



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