あの時の思い出のような
ありもしない事を、思い浮かべていた。二日間もだ。いやそうではなかったのかもしれない。体調を崩していただけなのかもしれない。どうでもいい事だ。特に、これを見ているであろう人にとっては。
夏が訪れると、夏休みの事ばかり考えてしまう。海の日を含んだ三連休に熱を出したっきり、ろくに遊びに行くこともできないまま、退院したと思ったら9月になっていたあの日の事を。そういう事ばかり思い返してしまう。まるで、その時以外に、自分はどこにも存在していなかったかの様に。
僕は今、ここにいるはずだ。きっとこれを見ている人も、そう思ってくれるはずだ。だが、実際はどうだろうか。僕はもう、とうに消えてしまっていて、ここにいるのは、そう思い込んでいるだけの嘘つかれなのかもしれない。僕は水槽の中の脳みそで、現実を見ていると錯覚しているだけなのかもしれない。いや、何であっても構いはしない。どうせそれだって全くの出鱈目なのだ。
現実が嘘だっていうのなら、現実だと感じられるものは全て嘘なのであって、ともすれば現実を錯覚させる装置であっても、現実に生きているであろう自分であっても、その感覚であっても同じ事なのだから、だったら結局は自分の信じる事を知覚するしかないのだ。そして僕は、全てを信じる他にはないのだ。その他のどこにだって僕はいないのだ。
あの時だってそうだ。確かにあったはずだ。それ以外のどの時でもなく存在していたはずなのだ。なんだ。未練じゃないか。やっと分かった。こんなつまらないものにかまけていたのか僕は。もっと別の事について考えるべきだった。そうやって放り出してみたまえ。それを取り戻そうとする自分の愚かな振る舞いを目にする事になるだろうから。
だから、信じるしかないのだ。信じているしかないのだ。裏切られたとか、嘘をつかれたとか、そんな子供染みた悲しみを嘆くのではなく、ただ一心に信じ続けるしかないのだ。その様に、ありもしない事柄に思いを馳せていた。結局のところ、初めからそうやって信じ続けているだけなのかもしれない。その様に生きてきたと、そう信じているだけなのかもしれない。どうでもいい事だ。特に、これを見ているであろう人にとっては。
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