第3話
──心ここにあらず、ただ
彼女の好きだった詩を、その人は寂しそうに口ずさむ。
すると、日は唐突に翳りを見せ、木々の隙間から
その人は諦めたように嘆息した。
しばらくして、その人はこう言った。
「彼女は最後に、何を思っていたのでしょう」
ああ、それは
私と彼女以外に、誰も知り得ぬことがある。それは幾分、自律的に出来上がった秘密であって、決して彼女との間に生まれたものではなかった筈だった。今、ここで打ち明けることも出来た筈だった。
しかし、依然として秘密は私を捕らえたままである。
私は思わず狼狽した。声にしようとすると、私の裡での僅かな引っ掛かりのために、
そうして明瞭さは失われ、その中で生まれた吃りは私に、あるひとつの幻想を呼び起こした。
心の裡を擽るもどかしさは、肉感のある像に結びつき、また消えつつ浮かびつつ、花に囲まれた彼女の姿を形作った。
滑らかな曲線によって、その白く清澄な像が一段とはっきりする。
それは彼女ではあったが、ひどく象徴的な、まさに悲劇の様であった。
現れたのは、彼女の白骨である。
その一本一本が支え合って、密かな均衡を保ちながら、美しく、巨大な滅びの象徴として私を圧倒した。
秘密は確かに罪悪以外で出来ていた。が、私はそれに何の名前を与えるべきか、分からないまま戸惑っている。判然としない懊悩は、それでも尚、寓意を孕んだ私の一部としてそこにあった。
私はこの苦しみを一生背負わなければならない。この重みを一生抱えなければならないのだ。
また顔を伏せた私を、疑問に思ったに違いない。覗き込むようにして私へと問いかけてくる。
「私、ずっと不思議に思っていたんです。何故彼女が……」
私はその人の目を見た。まだ潤いの残った瞳は、ひしとこちらを見つめていた。
「何故? 何故って──」私の声は震えていた。段々と血の気が引いて、力が抜け落ちていくのを感じていた。
しかし、それでも
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