第6話 勝負と言われても
「睦美は……いつから宗生を超えた変態になったの?」
僕が知らない間に睦美は男に下着をほいほい手渡すような変態に成り下がってしまっていたようだ。
だからか。
僕と会わなくなったのは。
変態だってバレてしまうから僕の事を避けていたに違いない。
「何も詮索しないでかぶりなさい。無心になってかぶりなさい。頭を空っぽにしてかぶりなさい。これは命令よ。早くかぶりなさい!」
睦美は顔がゆでだこのように顔を真っ赤にさせた上、僕と視線を合わせないように努めてか、そっぽを向いて羞恥心を露わに叫んだ。
「そんな変態さんみたいな事ができる訳ないって。というか、睦美はいつからこんな趣味を覚えたの? 高校生になってから目覚めちゃった系なの?」
手にしている下着が湿っているのは、さっきまではいていたものだからだろう。
それに汚れているのも、普段使いしているからだろう。
そういうところから、この下着が買ったばかりのものでないのは明白だった。
「だから言っているでしょう? これは私達の罪と罰なのよ。だから、何も言わずにかぶりなさい!」
「……そうは言っても……」
手にしている下着を顔の前まで持ってきて、くんくんと嗅いでみる。
匂いは……
「犬みたいな事をしないで!!」
睦美は僕からパンツをひったくるように奪うなり、
「私がかぶれと言っているのだから、素直にかぶりなさい!」
下着を嗅ごうとしていた格好のまま呆然としていた僕の頭に半ば強引に奪い取ったパンツを素早くかぶせてきた。
避ける事もできなかったし、何をされたのか一瞬分からなくて、ぽかんとしてしまったのだけど、睦美が顔を真っ赤にさせているだけではなく、羞恥心からか身体を震わせていた上、手にしていた下着がなくなっている事で僕が何をされたのかようやく悟った。
「ぼ、僕の頭に、し、下着なんてかぶせないでよ!」
慌てて頭に手を伸ばして下着を取ろうとしたけど、その手を睦美が掴んだ。
「今、下着を外そうものならば、血の雨が降るわよ。分かっているかしら?」
「ち、血の雨って……僕が死ぬって事?」
睦美がそこまでの事をするのかな?
「今の格好で私と勝負をなさい。そうしたら、許してあげるわ」
「勝負? この格好で?」
「……そう、勝負をしましょう」
「……は?」
唐突に何を言い出すかと呆気にとられた。
「何の? 何の勝負をするっていうんだ?」
「決まっているでしょう? 剣道よ、剣道。心得は当然あるわよね」
「……剣道、ね」
小学生時代やっていたような気がしないでもないけど、退院後は体育の授業くらいでしかやった記憶がない。だから、心得があるとは言えないような気がした。
「……ない、と思うけど、剣道の心得なんて」
「やってみないと分からないでしょう?」
睦美は意味ありげに不敵に微笑むなり、僕の手を離した。
「昭夫の腕が鈍っていればそれまでかしら……ね」
睦美は僕に背中を向けるなり、リビングルームを出て玄関の方へと向かう。
「……鈍る? 僕はそれなりの腕だったって事なのかな?」
睦美の考えていることが僕には理解できないけど、何か思うところがあっての事だろうと察して勝負とやらをしてみよう。
睦美は昔からこうだったはずだ。
思っている事を即座に口には出さずに遠回しに伝えようとする。
今回もそんな気がするし。
でも、パンツをかぶりながらの勝負なんて滑稽そのものにしか思えないんだけど。
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