第4話 廃校となる荒美第四小学校にて
――――――――数日前
二年前、昭夫と宗生の母校である荒美第四小学校は同地区にある荒美第六小学校と併合する事が決定した。
第四小学校が事実上閉校し、第六小学校に組み込まれるという形である。
校舎の耐震性に問題ありとされ、第四小学校の取り壊しが決定したのは一年前の事。
柱や壁の一部に亀裂が見つかるなどして、大きな地震が起きた場合、校舎そのものが瓦解する可能性があるとの見解から早急な解体が必要とされたのであった。
この日、解体工事を請け負っている業者が校舎内を見回っていた。
人数は六名。
現場監督らしき男が一人先頭を歩きながら、注意深く校舎を見回している。
まずは一階を見て回り、そして、二階へと上がった。
「西木さん、これは早めに壊さないとダメっすね」
最後尾の男が二階の廊下を歩いている時に、先頭を歩いていた西木にそう言った。
「手抜き工事だな。柱や壁がイかれた理由がよく分かる。目視だけでも確認できるくらい壁が傾いているな。よくこんな欠陥な建築物を小学校として利用していたものだ。恐ろしい」
西木は振り向きもせずにそう答えた。今は解体予定の建物を精査するのに集中したかったのだろう。
「強度不足のところが多すぎて、難儀しそうっすね」
西木はそれには何も答えず、黙々と壁や天井などを見続けていた。
……カタッ。
「……ん?」
廊下ではなく、教室から何やら音がした。
自然と西木の足が止まった。
他の五人も西木を倣ってか、立ち止まった。
周囲に様子を目を流して探った。
「今、何か物音がしたよな?」
「……しましたよね」
「カタってどっかで鳴りましたよね?」
その時だった。
カタッという机か椅子のいずれかが動いたような音が近くの教室からした。
「誰かいるのか?」
「見た方がいいっすかね?」
「誰かが住み着いているとかあるからな、一応確認しておいた方がいい」
西木達は教室の中に誰かいないかと中を見ると、
「……西木さん、子どもが」
教室の窓際に立っていて、ずっと外を見つめている少年がいるのを発見した。
西木達は少年がいる教室にとりあえず入り、
「君。ここは立入禁止なんだよ。分かる? 立入禁止」
と、注意した。
だが、少年は相変わらず窓の外を見つめたままで振り向こうともしない。話しかけられた事に気づいていないかのようであった。
「聞こえてるかい? ここは入っちゃいけない場所なんだよ、だからすぐに出ていくんだ。ここにいてはいけないんだ」
西木は外を見ているのに夢中になっていると思い、その少年に近づいていった。
「……待っていたんだ」
西木が少年の背後に立った時、少年はようやく口を開いたが、まだ窓の外を見ていた。
「誰を? 俺達をか?」
少年はその問いに答えるかのように後ろを振り返った。その顔はこの世のものとは思えないほど真っ黒であった。まるで闇と顔とが融合しているかようで、目鼻口があることさえ分からないほどである。
「……ようこそ、餌の皆さん」
少年はニヤリと妖しく笑う。
笑った時、少年の口の中がちらりと見えたのだが、鮮血に染まっているかのように真っ赤であった……。
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