決戦③
――タイムリミットは、十分。
「……って簡単に言ってくれてるけどぉ、正直それどころじゃないくらいこちらも手一杯なんだけど吸血オババぁ?」
「やかましい、我だって伸ばせるものなら伸ばしとるわ!」
そう、迫るリュケイオンさんの分身を押し留めながら、チクチクとアマリリス様に嫌味を吐いている桔梗さん。
「だが、確かにこのままじゃ、手数が足りない……ッ!」
「ムニン、こんな時こそ出番だろうが!」
『無理ー、こんな地べた這いつくばる奴相手にスキッドヴラドニルの武装は使えねーよ、どうやってもシティごと巻き込んで禁則事項踏んじまう!』
「ちくしょ! 肝心な時になんだよ!」
悪態を吐きながら、それでも通常武装で対応している『竜騎士』二人ですが、それでも歩みは遅い。
「では、我らはその道を開く一助になりましょう!」
新たにそう言って飛び込んで来たのは……先程まで、ノールグラシエ陣営の最前線に居た姿。
「ゼルティスさん、フィリアスさんも!」
「おっと、来ているのは私たちだけではないですよ」
「下で戦っていた仲間も合流したよ、多分懐かしい顔もあるんじゃない?」
そう、フィリアスさんの指し示す先には。
「よう、久しぶりだなガキ……とはもう言えねぇか。ずいぶんと、偉くなっちまったモンだな」
「ふふ、一時お世話させていただいた身としては、素直に嬉しくありますけどね」
身嗜みを整えすっかり見違えた姿になっているヴァイスさんが、私たちの背後に迫っていた影を手にした強弓で打ち抜く。
その背後には、ヴァイスさんに補助魔法を施している、よく知った女性……レニィさんの姿も。
「あなた方の背後から迫る敵は、我々が抑えましょう!」
「あなた達は、進む事だけに専念して!」
「で、ですが……」
ゼルティスさんとフィリアスさんの言葉に、しかし私は躊躇する。敵の数が多い、下手したら彼らが孤立しかねない……そう心配していた時。
「……大丈夫だ。今回の部下どもは、このくらいで失うようなヤワな鍛え方はしちゃいねえよ」
そう言って、私の頭に大きな手が乗せられる。
その声は……
「ヴァルター団長!」
「ああ、大将の前はあらかた片付いたからな」
そう言って、背後を示す彼。見れば、アルフガルド陛下をはじめ、レオンハルト様やクラウス様が指揮をとる周辺の敵は、ほぼ完全に押さえ込まれていました。
また遠方、西と南からも雪崩れ込んでくる兵たちに、リュケイオンさんの分身たちも分散し始めているのも見て取れます。
「……俺はな、嬢ちゃん。この手で、奴をぶった斬るつもりで追っていた。正直今も、その恨みは消えちゃいねえ」
そう言って、険しい顔で元凶であるリュケイオンさんの方を睨んでいるヴァルター団長。
「ヴァルター団長……私は」
「ああ、分かってる。それでも、あの野郎は殺したくない、なんせお前の親父さん……なんだろ?」
ヴァルター団長は、その険しかった表情をふっと緩めたかと思うと、直後、裂帛の気合と共に手にした斧を振るって、迫るリュケイオンさんの分身の一体を両断した。
「行ってこい、親父さんをぶん殴るために進む嬢ちゃんの、邪魔なんかしねぇからよ!」
そうニッと笑って、私の背中を押すヴァルター団長。
そして……すぐさま背後から迫る別の影を、その場で抑えてくれていた。
「ありがとうございます……ありがとうございました、団長」
「おう、行ってこい」
「しっかりね!」
団長とフィリアスさんに見送られ、彼ら『セルクイユ』の人々がこじ開けた道へと歩を進める。
そんな中、ゼルティスさんはレイジさんに向け、剣を握った拳を突き出す。
「我が剣、ここで姫様の背後を守るため、存分に振るいましょう……あとは任せますよ、我が好敵手」
「……ああ、任された!!」
その拳を合わせ、すぐさま私の手を引いて走るレイジさん。
この場で戦う彼らに見送られながら、私たちは、まだまだ遠くに居るリュケイオンさんの元へと向かい駆け出すのでした。
「それじゃ……次の道を拓くのは、私たちに任せな!!」
そんな女の子の声が、上空から鳴り響く。
直後、斜め後方から私たちの眼前に降って来たのは……槍。
それも、ただの槍ではなく、レイジさんやソール兄様、桔梗さんが持つものと同じシリーズと思しき、赤い光を穂先に纏った槍。
「爆ぜろ、『シュトゥルムヴィント』……ッ!」
直後、暴風のような風を纏った女の子……桜花さんが、その纏う風で迫るリュケイオンさんの分身を吹き飛ばし、後退させながら降ってきました。
「お、桜花さん……その槍は!?」
「はは、無茶言って師匠に打ってもらった『アルスヴィクト』の初陣さ、備え有れば憂いなしってね!」
そう言って……赤い力場を先端に纏う槍を構えながら、私たちの前に降り立つ桜花さん。
そして、そんな桜花さんの作った空隙に舞い降りたのは、いつか戦った炎の巨鳥、唱霊獣『タナトフローガ』。
そして……
「イリスちゃん!」
そんなタナトフローガから飛び降りて来た、小柄な金髪の女の子が、私に抱きついてくる。
「ティアちゃん!?」
「周辺国はもう大丈夫、無事に皆送り届けたから、イリスちゃんを助けに来たよ!」
そう抱きついた後、ざっと周辺の状況を確かめた後、真剣な顔で私の方を見つめるティティリアさん。
「一つだけ聞かせて。別に、自棄になって当たって砕けるつもりで説得に行くわけじゃないのよね?」
そんな言葉に、私ははっきりと頷く。
「ええ。ダメな父親をぶん殴る、一番いい武器をちゃんと用意して来たわ」
「ならばよし!」
そう、ニッと笑って杖を構えるティティリアさん。その紡いだ呪文は、七色の光を纏って私達全てを包み込んでいく。
「それじゃ、私からも最後の後押し。たぶん後でめっちゃ筋肉痛になるけど、いいよね!?」
「……え!?」
なんだか聞き捨てならない副作用が聞こえた気がするけど、疑問に思った時にはティティリアさんはすでに詠唱を終えて、その杖を掲げた。
「『クリエイト・ヒーロー』……頑張って、イリスちゃん!!」
ティティリアさんの放つ光が、体に染み込んでいく。
それは全身の細胞を目覚めさせ、みるみる力が、魔力が、膨れ上がっていくのを感じる。
「それじゃ……私もいきます、『エモーショナル・フロウ』!!」
頭上、タナトフローガの上から聞こえるのは、鈴を鳴らすように澄んだキルシェさんの声。直後、タナトフローガが莫大な魔力を放ち、収束を始める。
それは、いつだったか彼女の意思により私達に放たれた、死の炎。
それが今度は、私たちの道を拓くために放たれようとしている。
「お願いタナトフローガ、今度こそ、あの人たちを助けるのを手伝って……『タナトスブレイズ』、撃てぇーッ!!」
火の鳥から放たれた熱線が、リュケイオンさんが立っている場所を掠め、彼方へと消えていく。
その炎が通り過ぎた時、その進路上に影の姿はなく、その向こうにいるリュケイオンさんの姿が見えていました。
「さぁ、行って!」
「頑張ってね、イリスちゃん!」
「しっかり守って帰ってこいよ、優男!」
そう、さらに背を押す皆の声。
心も体も羽のように軽い。もう、行く先を遮る物もなく、あとはただ進むのみ。
「いくぜ、イリス。今度こそ……ッ!」
「ええ……ありがとう、皆、本当にありがとう……ッ!!」
レイジさんの先導に、ただ背中の翼をはためかせアクロシティの屋上を駆け抜ける。
ここまで支えてくれた人たちに向け、ただありったけの感謝を叫びながら……私達は一本の槍となって、『死の蛇』クロウクルアフとの決着のため進むのでした――……
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