交易都市コメルス

 

 ――ノールグラシエ最南端、交易都市『コメルス』




 この世界でも世界でも五指に入る大都市である、白亜の港湾都市。

 そして、ノールグラシエの過酷な氷原を貫く大陸縦断鉄道、その本部がある大陸の流通の心臓。


 遂に訪れた、この街。

 規格外に巨大な『プロメテウス』は流石に湾内に入れると大騒ぎとなるため、連絡用の小型艇で入港したのですが……




「……ふわぁ」


 私は思わずそんな間の抜けた声を漏らし、キョロキョロと周囲を眺めながらタラップを渡り上陸します。


「おい、あんまよそ見しながら歩くなって」

「あたっ!?」


 頭に軽い衝撃。どうやら軽いチョップをされたらしい。

 頭を押さえながら、衝撃の発生源……レイジさんの方を、少し涙目になりながら睨みつけます。


「だって……こんな広いんですよ!」

「あー……確かにそうだが」

「まぁねぇ……」


 私の言葉に、後ろについて来ていたレイジさんとソール兄様の目が泳ぎます。


 大型船が何隻も行き来する、彼方まで続く港湾施設。


 見上げるほど高い階段を登ったその先に見えるのは、地中海沿岸のリゾート地を彷彿とさせる白い石造りの街。そのさらに奥にうっすらと見えるのは、天を突く摩天楼の姿。



 ……もはや何もかも、記憶にあるホームタウン『コメルス』の姿とはまるでスケールが違うのです。


「ゲームと、実際のこの世界のスケール差は理解していたけど……」

「この街は、今まで以上に全く別物だな……」

「ですよね?」


 だから、呆けていたのは仕方がないのです。

 そう怨みを込めて、ジト目で叩いたレイジさんを睨み付けていると……彼は、ふいっと目を逸らしてしまいました。


 ――勝った。


 おそらく彼も自分に非があると認めたのでしょう。ふふんと一つ満足し、相好を崩します。


「……なぁレイジ。勝ち誇られてるけどいいの?」

「うっせぇ、あんなん直視してられるか」


 当のレイジさんは何やら真っ赤になって兄様と二人ヒソヒソと話をしていましたが……上機嫌な今の私には、あまり気にならないのでした。





「長旅お疲れ様でした、アルフガルド国王陛下」

「うむ、出迎えご苦労。急な予定変更で諸君には世話を掛けるな」

「いえ……皆様、ご無事で何よりです。本日は宿泊施設の用意もできていますので、ごゆるりとご滞在ください」


 一緒に連絡艇から降りて来たアルフガルド陛下とアンネリーゼ王妃が、出迎えに待っていた兵士の方々に挨拶している間、私はずっとこの街の姿に圧倒されているのでした。


 ……まぁ、ちらほらと興味深げな視線を感じるのですが、もう慣れました。


 そんな中。


「それでは、私達はこれで失礼します」


 言葉を発したのは、一緒の連絡艇に乗って見送りに来てくださった、フェリクス皇帝陛下。

 彼らフランヴェルジェ帝国の方々も、この後本国まで『プロメテウス』で送られていくため、ここでお別れです。


「今度は来月の対策会議の時にまた会いましょう、アルフガルド陛下」

「ええ、見送り感謝します、フェリクス皇帝陛下」

「いや……こちらとしては妻を助けていただいた恩がありますので、これくらいは当然です」


 和気藹々と言葉を交わす、すっかり親交を深めたアルフガルド陛下とフェリクス皇帝陛下。


 ここで言う対策会議というのは、今回のアクロシティの行いに対しどのように対処するかを話し合う会議です。

 ここまでの道程の中で『プロメテウス』内でアルフガルド陛下とフェリクス皇帝陛下が草案をまとめており、開催は一月後。

 場所は中立であるアイレイン教団の総本山で行う事となり……北と南はすでに参加を決定し、今は桔梗さんをはじめとした東の使節団の方々が、東へと書面を持ち帰った後の返事待ちらしいです。


 そんな中、気まずそうにしているのは……私たち下船組の中にいるスカーさん。


「えっと……そちらも、お気をつけて」

「……やはり、お前も行ってしまうか、スカーレット」

「兄上……すんません。義姉上の事もあるからそっちに行きたいのも山々なんすけど」


 頭を掻きながら、申し訳無さそうに告げるスカーさん。

 ですが……彼、『緋上さん』には、私達以上にノールグラシエへと行かなければならない理由があるのです。


「……今度会ったら、絶対にぶん殴ってやらないといけない奴が居るんです。ただ、そのためには色々と知らないといけないもんで」

「それが……ノールグラシエにあると?」


 フェリクス皇帝陛下の言葉に……真っ直ぐに頷くスカーさん。

 その強い決心が宿った目に、フェリクス皇帝陛下も「分かった、好きにしろ」と頷くのでした。


 そして、もうひと方。


「では……イーシュ、お体には気をつけるのですよ? もう、あなた一人の体ではないのですから」

「もう、お母様ったら……分かっています。そちらもお元気で。これからはどんどん寒くなるのですから、体調にはくれぐれも気をつけてね?」


 お互いの身を案じ合い、薄っすらと目に涙を浮かべ抱き合っているのは……イーシュお姉様と、アンネリーゼ王妃様です。


 そんな彼女は、ひとしきり王妃様と別れを惜しむと、こちら……私と、隣にいるユリウス殿下の方へと来ました。


「ユリウス、それとイリスちゃんも……ここでお別れね」

「おねえさま……どうか、お元気で」

「イーシュお姉様、お体、お気をつけてくださいね。遠くからご無事を祈っています」

「ありがとう、二人とも。私……元気な子を産みますね」


 そう言って、どこか少女のような可憐な微笑みを見せる彼女。

 イーシュお姉様は、この後本国へと帰還した後は国内に留まり出産の準備に入るそうで……皇帝陛下らとは違い、これでしばらくは本当にお別れ。

 惜しむように優しく抱きしめてくる彼女に軽く抱きしめ返し、離れます。


 すると次に彼女が向いたのは、私の隣……レイジさんの方。


「レイジさん……大会会場では助けてくださって、本当にありがとうございました。イリスちゃんのこと、よろしくお願いしますね?」

「お……おぅ」

「ふふ、今度会った時は親族に……あなたが義理の弟になってるんでしょうか?」

「そ……っ、う、なれるように頑張ります……」


 綺麗なお姉様に微笑みかけられて、しどろもどろになっているレイジさん。

 ほんの少しモヤッとしましたが……ですが、会話内容を鑑みて今回は許してあげます。


 二人で照れていると、お姉様はふっと一つ笑みを残し、フェリクス皇帝陛下に手を引かれて船のタラップを上がっていきました。


 やがて、係留を解いた連絡艇が離れて行くのを……私達は、その姿が小さくなるまで見送るのでした。





 ――と、しんみりと別れを済ませたのですが。




 陛下達はやる事があると先に上層へ行ってしまい、残る皆は散策しながら向かう事となったのですが……その矢先。


「すごい、すごいですよレイジさん、兄様! SFによくある半透明な板がありますよ!?」

「なんだそりゃ……うわすげぇ、SFによくある半透明な板だ!?」

「二人とも、何なのその語彙は……」

「にゃは、このあたりはイリスちゃんも男の子なんだにゃあ」


 港から市街地へ向かう階段の一番上、広場の直前で突如現れたSFっぽいオブジェクト。

 それを目にしてはしゃぐ私とレイジさんに対し、呆れたように笑う兄様とミリィさん。


 今夜の宿へと向かう途中に目にしたその物体……それは見上げるほどに大きな、宙に浮かび上がる半透明のディスプレイでした。


「なるほど、3D投影の空中ディスプレイか……しかも」


 私達が固唾を呑んで見守る中、ディスプレイに指を伸ばすソール兄様。

 しばらく、あちこちに触れたり指を貫通させたり、色々と試していましたが……


「熱くはないな……固体ではないけど、指には若干の抵抗を感じる。タッチパネルみたいに操作もできるんだね……信じがたいけれど、厚みも密度も極々薄い流体をこの場に固定しているのかな?」


 首を傾げている兄様でしたが……どうやら問題ないらしいのを確認し、好奇心に負けて私も手を伸ばします。

 すると、水の膜の表面だけに触れたような、不思議な淡い感覚が指先を押し返して来ました。


 そんな不思議な感触のディスプレイに表示されているのは……ここ、『コメルス』の街の案内図のようです。

 しばらく色々と表示を切り替え眺めて分かったのは、この街が、おおまかに三層に分かれた構造をしている事でした。




 下層……今私達が居るここが、港湾区。世界中から船が入港する、北大陸の玄関口。


 中層……アクロシティと繋がっている南大広場から、北に伸びるメインストリートを中心として扇状に北へ広がる市街地のある主街区。


 どうやら居住区などの大半もこの中層に集中しているらしく、最も賑やかな区画でもあるらしいです。

 そして……私達のホームでもあった、懐かしい場所。時間があれば知っている場所を散策してみたいのですが、少し難しいかもしれません。


 そして上層……新市街地区。こちらは富裕層向けの住宅地や宿泊施設があるほか、大陸北部へと伸びる縦断鉄道のプラットホームにもなっています。本日の宿はこちらにあるため、ひとまずは真っ直ぐ上層へと向かう事になります。




 ……と、ここまでが案内図から見て取れたこの街、ノールグラシエ国内でも王都と一、二位を争う都市、コメルスの全体図なのでした。


 ……なのですが。


「うっわ……何じゃこりゃ広ぉ……」

「多分だけどこれ……中層だけでも東京二十三区以上の広さあるよね……」

「思い出の風景探しなんて、今日一日で出来る事じゃないにゃあ……」


 全体図を改めて眺め、ゲンナリしている皆。


「スカーさんは、一回来たことがあるんですよね?」

「ああ、まぁあの時はお前達を探して急いでいたから、観光無しで素通りだったけどな」

「あの……これだけの規模の街だと何か、移動手段などはあるのでしょうか?」


 横で皆の様子に苦笑していたスカーさんに、そんな事を尋ねます。


「はは……一応、広場から一時間に二本、北と東西の三方向を巡回する魔導LRV(Light Rail Vehicle:超低床車両)があるから、移動には困らなかったぜ」

「へぇぇ……あ、あれですかね?」


 スカーさんがそんな解説をしてくれている時、ちょうどすぐ頭上にある広場に、路面電車のようなものが入ってきました。


 青い海と白亜の街並みにマッチした、青と白の流線形の車体。それはまるで小型化した新幹線のようでしたが……


「……運転手が居ませんね」


 車体正面のガラス窓から、運転手の姿は確認できませんでした。それどころか運転席らしきものも存在せず、あのLRVが完全自動運転で運行されている事を示しています。


 それに……


「あれ……レールが光ってる?」

「いや、違うな。そもそもレールじゃねぇ……軌道敷内に光が直接彫ってあるのか?」

「そもそもあれ、車輪がないな……というか、浮いてる?」

「なんか、見てるだけで魔力がピリピリ動いてるのを感じるにゃあ……」


 レイジさんとソール兄様とミリィさんと、四人で肩を寄せ合って、入ってきた車両を眺めます。


「ああ。なんでも重力操作の魔法によって、車両を浮かせ、移動させてるらしいぜ。レール状の魔法陣の上に車両が来た時だけ励起する仕組みらしいな」


 そうスカーさんが解説してくれるのを、私達はもうただただ感嘆を漏らすのでした。


「ちなみに、一定範囲の軌道敷に誰か居たりして異常な圧を感知すると、自動で止まるらしいぞ」

「はぁ……なんていうか、凄いですね……」

「ずっと辺境に居たから忘れてたけど、そういえばこの世界って私達の世界より技術進んでるんだったね……」

「ぱねぇ……異世界まじぱねぇ……」


 ただひたすら、改めて知るこの世界の技術力の一端に圧倒される私達なのでした。






「さて……では、私達もこの辺りで失礼しましょうか、ティティリア。馬車の手配もしなければなりませんからね」

「あ……そうですね、レオンハルト様」


 そう言って列から離れたのは、ここまで同行していたレオンハルト様をはじめとしたローランド辺境伯領の方々。


「あ……そっか、ティアちゃんもここでお別れなんですね……」

「うん……ごめんね。また一か月後、なんとしても領主様にくっついて来るからまた会おうねぇ……!」


 この数ヶ月ですっかり同性の友人として距離感が近くなった私達ですので……別れを惜しんで涙ぐみながら、しっかと抱きしめ合います。


「はぁ……そのように言われたら、あなたは同行決定ですね」

「あはは、ごめんなさい、領主様」


 困ったように言うレオンハルト様と、涙を拭いながら、ペロッと軽く舌を出して笑うティティリアさん。したたかだなぁと感心しながら、二人の様子を眺めます。


 ……最近は前にも増してティティリアさんのアプローチが強くなったようで、レオンハルト様も諦めたように苦笑していました。


「レオンハルト様……ここまでの尽力、本当にありがとうございました。この御恩は決して忘れません」

「いいえ、私も何だかんだで楽しかったですよ……貴女は予想に反して、実に説教のし甲斐のあるお転婆姫様でしたから」

「え、えぇと……そんなつもりは無かったのですが、色々とご迷惑をお掛けしました……」


 優しく微笑んでいる筈のレオンハルト様でしたが……顔がそもそも怖いのも相まって……その裏に別の感情が潜んでいるような気がして、冷や汗が流れるのを感じながらなんとか微笑み返すのでした。


 そして……私に関係深い人が、もう一人。


「では……私もこれで。イリスリーア様のお世話係ができて、本当に楽しかったですわ」


 今までずっと付き従ってくれていたレニィさんが、離れていきます。

 それは寂しいですが……今後は王都に帰還したら専属の女官の方々が居ますし、アイレイン教団の聖女様がたも世話役に来るらしく、無理強いはかえって彼女の迷惑となってしまうため堪えます。


「レニィさん……初めて会った時から今まで、本当にありがとうございました」

「いいえ、また機会があれば、お世話させてくださいね?」

「あはは……その時は、是非こちらからお願いします」


 レオンハルト様や、彼についていくティティリアさん、それにレオンハルト様に雇われている傭兵団に籍があるレニィさんは、ここでひとまずお別れです。


 一月後、ノールグラシエ近郊にあるアイレイン教団総本山での対策会議でまたすぐ会えますが……それでも、やはり一抹の寂しさはありました。


 更に……


「私達も、ここでひとまずお別れね」


 続いて声を上げたのは、イスアーレスから工房を閉め、こちらへ同行していた桜花さんとキルシェさん。


「桜花さん……本当に、コメルスに残るのか?」

「私達は、あんたらに比べてやっぱりまだまだ未熟だからね。ここで鍛えて、次会う時にはもうちょっと戦力になれるよう頑張るよ」

「そうか……防具を用意してくれた事、本当に感謝する」

「本当に良い装備だ、ありがたく使い倒させて貰うぜ」

「あはは……大事に使う、じゃないのが実にあんたららしいわ。いいよ、持ってきたらキッチリ直してやるから。中身のアンタらはそうはいかないんだから気をつけなさいよ!」


 そう笑い合っている、桜花さんとレイジさんら、前衛の人達。私とキルシェさんは、そんな様子を苦笑しながら眺めていました。


「……でも、お二人も居なくなると寂しくなりますね」

「イリスちゃん……ごめんなさい。でも決めたの。今度こそ私はお姉ちゃんの助けになりたいって」

「い、いえ、責めている訳ではないのです。やっぱり、お二人は一緒にいるべきだと思いますし」


 たしかにキルシェさんの『唱霊獣』は戦力として魅力的ではありますが、二人の仲を裂くつもりは毛頭ないのです。せっかく仲直りできて、すっかり打ち解けたのですから。


「……お姉さんと、仲良くね?」

「う、うん、頑張る! 姫様も、また会おうね!」


 そう、軽く抱きついてくる彼女を軽く抱き返し、すぐ離れます。


「それじゃ……またね」


 最後に笑いかけてくるキルシェさんにこちらも微笑み返し、背を引かれる思いを振り切って歩き出します。


「……すっかり、人数も減ったにゃあ」

「ですね……そういえばミリィさんだけは、最初の町からずっとの付き合いでしたね」

「そういえば、そうだったにゃあ。私が篭りきりで、あんまそんな感じはしませんがにゃ」

「あはは、確かに」


 寂しさを紛らわせるように、二人で笑い合う。


 フォルスさんや星露シンルゥさんをはじめとした『海風商会』の皆は、イスアーレスを出る際に別れ、西大陸へと帰還しました。


 イスアーレスではあれだけ居た元プレイヤー達もすっかり居なくなってしまい、残ったのは私達三人と、ミリィさんにスカーさん、今はアイニさんやスノーと並んですぐ後ろを歩いているハヤト君。


 そして……


「……で、だ」


 頭を抱えるようにして声を絞り出し、背後を振り返るレイジさん。

 頭痛を堪えているような様子の彼が……すぐ後ろから付いてきている人物に対し、ついに耐えかねたように声を張り上げました。


「このしんみりしたムードの中だが……お前、なんで居るんだ、!?」

「何だ、嬉しいか友よ!」

「んなこたぁ一言も言ってねぇ!?」


 そこに居たのは……もうすっかり負傷も回復した斉天さんでした。

 はっはっは、と大きな声で笑っている彼に、食ってかかるレイジさん。


 何故、彼がこの場に居るのかというと……


「イスアーレスでは散々迷惑をかけてしまったからな! 今後は罪滅ぼしも兼ねて、お前たちの絶対的な味方であろうと思い立ってついてきた次第だ!!」

「それ自体は非常にありがたいが、五月蝿ぇし暑苦しいわ!」


 ぜぇはぁと呼吸を荒げていたレイジさんでしたが……すぐに冷静さを取り戻すと、斉天さんに手を伸ばします。


「はぁ……ま、お前が味方なら心強いからな。頼りにさせてもらうぜ」

「お……おう、任せろ」


 素直に歓迎されて逆に戸惑いながらも、その手を取って握手する斉天さん。どうやら元通りの関係に戻ったようで、私も安堵します。


「ふふふ、相変わらずイリスリーア様の周りは賑やかで楽しいですね?」

「だな、何か変な奴引き寄せる運命でも背負ってるんじゃねーの?」

『おん!』

「そ、そんなことは……」


 口元に手を当てて笑うアイニさんと、その隣でやれやれと頭を振っているハヤト君。そして、二人に同調したように一言吠えるスノー。


 そんな皆の言葉に失礼ながら「そんなことはない」とは言い切れず、思わず口籠ってしまう私なのでした。


「全く……一番権威のある連中に喧嘩売る最前線だってのに、呑気なもんだぜ」

「いや……どうかな」

「……んお?」


 兄様の深刻な色が滲む呟きに、愚痴っていたハヤト君が言葉を止め、頭上に疑問符を浮かべる。

 しかし……その瞬間皆の目は、先程登ってきた階段の下、船着場へと向けられました。


 そこには、港を埋め尽くすように行き交う船、船、船。だがしかし視界の彼方、端の一角を占有するようにズラリと並んでいる船舶があります。




 今は折り畳まれている、魔力を受けて船体を加速するための帆を貼る魔導セイル。

 甲板に鈍く輝くのは、込められた魔法を圧縮・増幅して放つ、『プロメテウス』にも搭載されていたタイプの、最新式の魔煌砲。

 そして、速力を得るために鋭い流線形を描く、鋼鉄の船体。



 その船――『デルフィナス』級軽巡洋艦。


 ノールグラシエ王国海軍が誇る、最新式の魔導戦闘艦。それは紛れもなく、軍艦だったのです――……

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