船上決戦
私達が六人しかいないのに対し、フォルスの側は士気は低いとはいえ、元プレイヤーだけでざっとその四倍。私達の戦力は圧倒的に少ない。
だが……それでも抑え切れている理由は、背後に陣取った『バハムート 』から放たれる、無数の火球。
「ひいぃ……」
「こんなの、どうしろって言うんだ……!」
魔導船の甲板は燃えにくいよう出来ているが……それでも船のあちこちから立ち上る火は、向こうの足を止めさせて、ただでさえ少ない士気を根こそぎ削るには十分だった。
そんな中で……私は甲板中央で、フォルスの手にした大鎌と斬り合いをしていた。
「いい加減目を覚ませ、お前は騙されている! お前のしたかった事はこんな事か!?」
「五月蝿い! お前なんかに、無条件で彼女の側に居られる事が保証されているお前なんかに何が分かる!?」
「ぐっ!?」
常人離れしたその膂力に吹き飛ばされ、やや離れた場所へと着地する。
悪魔を召喚する能力がメインかと思えば、とんでもない。
力、反射速度、共にこちらと大差無い。後衛職とは思えぬ、一線級の前衛職と比べても遜色無い、信じられない身体能力だった。
その理由は……おそらく、体の各所に纏う瘴気。
「それは……まさかお前、自らの身に悪魔を降ろしているのか……!」
それは、自らの精神と肉体を侵食させるのさえ厭わない、狂気じみた行為。
「……残念だよ。方向性さえ間違えていなければ、お前は尊敬に値するプレイヤーだったろうに!」
「黙れ、そして消えろ、『金剛石の騎士』……ッ!!」
凄まじい速度で首めがけ振るわれる、フォルスの大鎌。
それを十字盾の凹部分で引っ掛けて止め、その懐へと飛び込む。
「その名で……呼ぶな!!」
「がっ、あああぁ!?」
雷光纏うアルスラーダの刃で、鎧に守られているわけではないその胴を払う。
肉とは全く違う、硬質な感触。
どうやらこちらも何かを憑依させており、信じられぬ防御力だが……しかし、纏う雷光までは防げず、全身に走る電撃に焼かれながら吹き飛んだフォルスが、ズルズルと床に座り込む。
だが……その瞬間、私の周囲の空間から飛び出してくる、黒い影の猟犬。
「危ねぇ!」
「背後にも気をつけなよ、総大将!」
ハスターの剣と、フラニーさんの短剣が、私の首を狙って襲い掛かる猟犬を斬り伏せる。
「すまない、二人とも。助かった」
「どういたしまして。だけどどうするんだい、このままだとジリ貧だよ」
視線の先には、再び猟犬を再召喚しているフォルス。
「あのダンナ、こんな強かったなんて聞いてないぜ」
「全く、戦力を召喚する奴が個人でも強いなんて、つくづく腹立たしい野郎だこと」
そんな軽口を叩いている二人だが……ずっと前衛として向こうのプレイヤーを抑えていた疲労は顕著であり、息も上がっている。
だが……
「いや、二人ともよくやった。本命のご到着だ」
フッ、と二人に笑いかける。
次の瞬間……鬨の声と共に、右舷、左舷、双方から甲板の上へと飛び込んでくる、私達の側の元プレイヤーの姿が現れた。
私達が注目を集めている間に、息を潜め左右から奇襲を掛けた仲間達。
「お前たち……なぜそちらに居る!」
自分の部下だったはずの者達が、私達の側に居る。
その事が信じられないように、愕然とした表情をするフォルス。
「そんなん、決まってんでしょうが大将!」
「あんたをぶん殴って目ぇ覚まさせてやるためだ!」
そう叫び、雄叫びを上げながらフォルスの元に残った元プレイヤーたちと交戦を始める後詰の部隊。
その勢いに、すでに士気が底辺だった向こうの元プレイヤーたちはたまらず瓦解し逃げ惑う。
在るものは後続部隊に倒されて気絶し、あるものは茫然と座り込んだまま拘束され……もはや、私達が加勢せずとも趨勢は決しただろう。
そして……甲板の上で繰り広げられるその光景は、彼の心を折るに十分だった。
「私は……何の、ために……」
ついに私の眼前で、力無く鎌を持つ手をだらんと落とすフォルス。
そんな彼の周囲では、強制力を失ったフォルスの支配から解き放たれた影の猟犬達が、待ってましたとばかりに獲物を求め飛び出し――
「がっ!?」
立て続けに巻き起こる雷がフォルスの周りへと雨のように降り注ぎ、周囲に侍らせている魔物達を打ち据える。
そして、そのうち一本がフォルスへと直撃し、彼も崩れ落ちる。
だが……それを行なった星露本人は、まるで自分も同じ雷光を受けたかのように、泣き出す寸前の表情をしてフォルスへと切々と語りかける。
「……もう、もうやめましょう……ねぇ、フォルスさ………っ!?」
涙ながらに語りかける星露だったが……その言葉が途中で、息を飲んだような引き攣った呼吸音と共に、止まる。
「あれは……!」
フォルスの破れたローブの下、脇腹のあたりにちらっと見えた、紫色の光。
あれは……見覚えがある。
あれは――以前にアンジェリカ嬢に取り憑いた、あの紫色の結晶体。
「そんな……フォルスさんに、あれが?」
「成る程な、それが奴かおかしくなった理由か……!」
星露の話を聞く限り、以前のフォルスはまだ皆の事を考えて行動するリーダーとして、真っ当な人物だったと言う。
それが変貌した理由が……彼の身を蝕んでいる、これだったのだ。
星露ががっくりと膝をつき、目の前の光景を呆然と眺める。
「そんな……私はずっと側に居てこんな事にも気付かずに、何という事を……」
「泣くのは後に! でかいの来るぞ!?」
ハスターが、慌てて座り込む星露を助け起こそうと駆け寄る
彼の言う通り、今まさに奴はふらふらと、まるで幽鬼のように立ち上がるところで……その目は、もはや狂気に呑まれていた。
「いいでしょう……皆敵になるというならば、全て吹き飛ばしてあげます……出て、こい……『フェンリル 』!!」
怒りのあまり、かえって平静となった声で語るフォルスが腕を掲げた瞬間、巨大な、禍々しい紫色の魔法陣がその前に展開される。
同時に、彼の体の表面、肌が幾箇所も裂けて血煙が舞うが、まるで何かに吸収されたように、幻のように消え去った。
そして……
――ぉオオォォォ……ン!!
身の毛もよだつ遠吠えを上げて、人の腕ほどの太さを持つ幾重もの鎖に雁字搦めにされている、青と白で彩られた巨大な狼が姿を現した。
「クッ、ハハハッ、自身を代償にしても一瞬だけ顕現させるのが限界な終末の魔獣、その分威力は折り紙付きですよ……ッ!!」
血みどろになりながらも、壊れたように哄笑を上げながら、その巨大な狼に指示を出すフォルス。
それを受けた狼の口に、臨界を超えた冷気が収束し、バチバチと雷光を湛えて白く輝き出す。
「ねえ、あれ、ヤバくない!?」
「分かっている、私の後ろに! 他の者たちは、狙いは私だ、射線には決して入るな!!」
咄嗟に叫ぶ私の声に、元々背後に控えていた星露や、さらにその後方でバハムート に守護されているキルシェさん以外にも、桜花さんやフラニー、ハスターの三人はすぐさま指示どおり移動する。
だが……
「ひ、ひぃ……っ」
「た、助け……っ」
射線上に残されて居る、逃げ遅れたフォルス側の元プレイヤーが二人。
「チッ……下がってろ!」
舌打ちし、腰を抜かしているらしい二人の襟首を掴んで後方へと放り投げる。
同時に、手にした十字盾を眼前の甲板へと突き立てる。
「『インビジブルシールド』……『フォースシールド』……ッ!!」
立て続けに、二つの防御スキルを展開する。
「援護します……!」
そんな星露の声とともに、周囲へと展開される対冷気魔法のフィールド。
これで三重。だが、それでもなおフォルスが喚んだ『フェンリル 』の魔力は圧倒的だった。
「くはっ、ハハハハぁ!! 何もかも貴様のせいだ『
何か吹っ切ってはいけない物を吹っ切ってしまったようなタガの外れた叫びを上げ、自身の血に塗れたフォルスの手が私達へと向けて振り下ろされる。
同時に放たれる、全てを凍てつかせる輝く
「黒星……招来、『ウェイクアップ』……ッ!!」
前方一点集中の『黒星』を展開、さらにもう一つの呪文を唱え……直後、私たちはその『フェンリル』の吐息に呑み込まれるのだった――……
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