似ている/似ていない二人

 私達が探している一つ目巨人の鍛冶師は、桜花さん達が居を構えているのと同じ島に工房を所有しているらしい。

 そのため、案内してくれるという彼女の言葉に甘え、街の郊外、その島へ渡る橋へと続く道を歩いているのだったが……


「それで、桜花さん。話とは?」


 話をしたい……そう言う彼女に誘われて、私たち二人はイリスをもう一人……キルシェさんに任せ、少し先行して歩いていた。


「えっと……参考までに聞いておきたくて。あんたたちが何で強くなりたいのかって。あ、別にあんた達を疑っているわけじゃないのよ? けど、一応ね」

「疑う……という事は、何かあったのか?」

「うん……その、ね」


 まだ少しとはいえ人通りがあるせいか、声を潜め、周囲を気にしながら語り始めた彼女。


「……これは、この街に居る別の元プレイヤーから聞いた話なんだけどね。なんでも、有力なプレイヤーを強引に勧誘して回っている集団が居るらしいの。勧誘されたっていう彼は、随分とキナ臭い匂いを感じたから断ったらしいけど、未だにしつこく声を掛けてくるらしいわ」

「なるほど……それほど遠くないうちに、そういう手合いも出てくるだろうなと思ってはいたけど……」


 自分達が居たのはあくまでも辺境の一地方であり、あまり元プレイヤーも居なかったためにそういう話は無かったが……人が集まる場所へ飛ばされたのであれば、そうした互助集団を作るという流れは当然だろう。


 ……自分達だって仲間を集めようとしているのだから、他人事ではないのだけれど。


「……もしそうなら、師匠を紹介するわけにはいかなかったんだけど……あんた達は心配ないかな、ごめんね」

「いや、教えてくれてありがとう、私達も気をつける」

「うん、なら良かった。まぁ、あのお姫様の様子を見れば、連中の仲間だって心配してなかったけど」

「はは、違いない」


 苦笑しつつ、同意する。

 それこそあの子の立場や知名度を用いれば、人を集めるのは容易だろう。

 しかし、あいにく本人にはそうした野心は見当たらず……どころか、その手段に気がついていない節すらある。


「……それで、私達が強い装備を求める理由だったな。話せば長くなるから、直接関係のある最近の話だけになるけれど……」


 そう前置きして、これまでの出来事をざっと説明する。


 あの『死の蛇』との、戦いとも呼べないような戦い。

 そこで思い知った無力と、いざ次に相見えた際に今のままでは駄目だという事。


「……そう、そんな事が……それで、強い装備を探しているんだ」

「ああ。もちろん装備だけじゃなく、私たち自身が強くならないといけないのは分かっているつもりだけれども……」


 どちらかを突き詰めるだけでは足りない。

 特に、今後もイリスを守っていくのであれば。


 世界で唯一の……あの、『死の蛇』を除外してだが……光翼族。しかも、その中でも御子姫と呼ばれる貴種。


 今は正式にノールグラシエ王家との血縁関係が認められている。主権国家の継承権を有している以上は、相当に手出しし難くなったに違いない。


 しかし、それでも狙ってくる者達は居るだろう。

 あるいは……そうした国家の枠組みを鼻で嗤うような何者かも居るかもしれない。


 そういった連中から今度こそ守り抜くためには、ありとあらゆる手段を模索しなければならないという予感があるのだ。


「……凄いね、あんた達は」

「……え?」

「その『死の蛇』だっけ……すごいヤバい奴だったんでしょう? あんた達は立ち向かって、それで……全く歯が立たなかったのよね?」

「そうだな……数か月、この世界で築いてきた自信や慢心。それを全てまとめて薙ぎ払われた思いだった」


 特に、イリスよりもレイジさんよりも、私は何もできなかった。

 初手で塵芥のように吹き飛ばされて、目覚めた時には既にすべてが終わった後のベッドの上だったあの悔しさは、今でも心の内に燻り続けている。


「なのに、あんたはまだ諦めてない、立ち上がろうとしている。私には……そんなことはできない。あんたらみたいな目に遭ったら、もう安全な場所から出たくないって思うよ?」

「いや……私達には優秀なヒーラーがいる分、まだ君や他のプレイヤーに比べ余裕があるだけで……」

「そうだとしても、怖くないの? 特にあんたなんてタンク職でしょう? 真っ先に死ぬかもしれないのよ?」

「それは……」


 ……当然、怖い。


 たとえ致命傷を負っていようとも、イリスが居れば治療してくれるだろう。

 しかし、即死してしまえばその加護は届かない。次は目を覚ます事はないかもしれない。


 だけど……それ以上に、障害に苦しむお兄ちゃんを見守ることが、そして眼前でイリスが傷付いていくのを眺める方が、ずっと怖かったように思う。


「そうかもしれない……だけど、それで次にまた同じような事があって、また守れなかったら……私は、その方が怖いんだ」

「……っ」


 私の言葉に、桜花さんが顔を歪めた。

 気の強い、サバサバした女の子だと思っていたけど、その表情はまるで泣き出すのを堪えているようなものに見えた。

 黙り込んで、黙々と歩き始めた彼女へなんと声をかけて良いか分からず……ただ数歩後ろを追従する。


 そうして数分……ようやく、彼女がその口を開いた。


「分からないよ……何で逃げないの? あんたは、何のためにそうまでして戦うの? 元の世界に帰るため?」

「……それ、は」


 そうだ、と普通に考えれば答えたはずの問いに、しかし私は咄嗟に答える事ができなかった。


 ……正直なところ、元の世界の事など言われるまで考えていなかった。


 元の世界に帰るため?

 本当にそうだろうか。いや、私は……


「……多分、私は元の世界に帰りたいとも、あまり思っていないんだ」

「……え?」

「レイジ……こっちに一緒に飛ばされたもう一人の仲間は、どうかな。あいつは向こうの世界に家族を残しているから、きっと心の片隅では帰りたいと思ってるんじゃないかな。イリスも、そんなレイジを向こうの世界に帰してやりたいと思っている節はあるように見える」


 そして、あの二人は戻るにしろ残るにしろ、きっと一緒に居たいと願っているのだろうと思う。

 もちろん一緒に居たいと願っているのは私も同じ。しかし私には一つ、二人と違う点がある。


「……だけど、私にはそういう執着は無い。両親も祖父母もとうに他界して、私にはイリス以外の家族は居ない。仲のいい友達や知り合いは……まあ数人くらいは顔が浮かぶけど、それだけの関係でしかない人しか思い浮かばない。我ながら薄情だと思うけどね」

「……なんか、ごめん」

「いや、気にしてはいないよ。私の方こそ元の世界へ戻りたいプレイヤーを裏切るみたいで何だけどね……私は、向こうの世界にはもうほとんど縁という物が残っていないから」

「……向こうの世界には? それじゃ、まるで……」


 彼女は何かを言いかけて、しかしすぐ気まずそうに口を閉じる。

 だが……何を言おうとしたかは、なんとなく解る。


 ――まるで、こちらの世界での縁はあるかのようだ、と


 実際、そうなのかもしれない。母がこちらの人間だと知ってしまって以降、もう、私達の居場所はこちらなのではないのかと、ふと考えてしまう事が増えてきている。


「さぁ、どうだろう……私に言えることは、イリスが帰りたいというのなら万難を排してでも連れて帰るつもりだし、そうでなければこちらに残る。いずれにせよ……私が生きている限り絶対に、イリスを一人にだけはしないつもりだ」


 そして、戦う理由なんてそれだけあれば十分……なんて、我ながら、相当に病んでいるなぁと苦笑する。


「……どうして、そこまであの子の事を?」

「ん……イリスの脚が悪いっていう話は、多分知っているよね?」

「う、うん、『姫様』は脚が悪いっていうのは、有名な話だったから」

「あれ……先天的な物じゃなくて、私のせいなんだよ」


 結局、どこまでいっても私の始まりの場所は、多くの物を失ったあの時なのだ。

 お兄ちゃんだった頃から、イリスはもう気にしないように言い続けているけれど、私にはどうしても気にせずには居られなかった。


「そのせいで沢山の苦労をしてきたのもずっと側で見てきたし、そのたびに大した事をしてあげられない自分に歯痒い思いもしてきた」


 そして、その度に私の心を苛むのだ――これは、お前のせいなんだぞ、と。


「だけど……今は違う、今の私には守る手段がある、それが嬉しいとも思うし……同時に、だからこそもう言い訳もできないって思うんだ」

「……言い訳?」

「ああ……、ってね」


 だから、やれる事はやっておきたい。

 鍛錬もそう。今、強い装備を求めるのもそう。

 今度こそ、後悔しないために。




 語り終えると、痛いほどの沈黙がしばらく私達の間を流れていた。


「……はじめは私達は似ているなって思ったけど、やっぱり違うね、私達は」


 そんな気まずい空気の中で、ぽつりと語り始めた桜花さん。


「私は駄目だよ。また同じ事があったらと思うと、脚が竦んでもう一回立ち上がろうなんて思えない」


 訥々と、この世界に飛ばされる直前の出来事について語る彼女。


 元の世界では、とある事情からやさぐれており、不良だった事。

 突然家族になった義妹に、ずっと冷たく当たっていた事。


「嫌いだった訳じゃないの。あの子は可愛くて、優等生で、私と違って周りからも愛されていたすごく良い子で、立派な夢だってあって……私なんかと関わるべきじゃないって、そう思っていただけ」


 そこまで言って……まるで、溢れそうな胸の中の激情を吐き出すように、深く深く、ため息を吐く。


「……そう、思っていた筈だったのに」

「……え?」

「ううん、何でもない。それで……ずっと避けていたつもりだったんだけどね。どうやら私に恨みのある連中に目をつけられちゃったみたいで……」


 あの、こちらに飛ばされた日。

 男達に攫われた義妹が、彼女の眼前で暴行されそうになったその時……気がついたらこちらの世界へと飛ばされていた、と締めくくった。


「……そうか、そんな事が」

「その後遺症なのか、あの子は意識して抑えないと、ただ喋るだけでクラスの能力を発動してしまう。オンとオフの切り替えができなくなってしまった。今でもずっと練習しているのだけれど……」


 初めて声を聴いた時のあれの事だろう。

 自己防衛本能が、無意識に周囲に魅了の効果を発揮してしまうのだとか。


「私には……もう、どの面下げてあの子の姉だなんて言えばいいのか分からない、姉だなんて言う資格は無いのよ」

「でも君は、それでもあの子を守ろうとしたんだろう? だったら、やはり姉の資格が無いなんて事は……」

「違う!」


 突如激昂したその声に、思わず足を止め、振り返る。

 視線の先で彼女は、まるで瘧のように体を震わせ、頭を掻き毟るような尋常ではない様子を見せていた。


「違う、違うのよ! あの時乱暴されそうになっているあの子を前に、私が真っ先に思ったのは、違う……私は、あの時……っ!!」


 今度こそ、ポタリ、ポタリと涙を溢れさせた桜花さん。それ以上は、圧し殺すような慟哭によって、言葉になっていなかった。

 私は、ポケットからハンカチを取り出してそんな彼女に渡すと、落ち着くまでただ静かに横を歩く。




 ……そうしてしばらく歩いていると、ようやく落ち着いた彼女は、涙を拭って顔を上げた。


「……ごめん、聞かなかった事にして。多分、聞いたら私のことを軽蔑すると思うから」

「……分かった。ごめん、辛い事を話させて。だけど、その時に君がなんと考えてしまったとしても、私は君を軽蔑なんてしない……と思う」

「……え?」

「君はその事で、こうしてずっと苦しんでいるのだろう? だったら、それは一時の気の迷いだ、決して本心なんかじゃ無い……そう信じるよ」

「……何それ、ちょっと言ってて恥ずかしくない?」


 そう泣き笑いの表情のまま返事をして、それっきり、口を閉ざして黙々と歩き出した彼女。

 そのまま十分程無言で歩いた後……不意にぽつりと、口を開いた。


「……やっぱり、あんたは強いと思うよ」

「そうだろうか……?」

「うん。硬くて、鋭くて、強い。だけど……」


 口ごもる彼女。しかし、声を発さずに動いたその口は……


 ――たった一つの目的のために硬く鋭く鍛えた刃は、脆いのよ。


 そう、言われた気がした。











 ◇


「……なんだか、向こうは深刻な話をしているみたいですね」


 市街地を離れ、離島へと続く橋へと向かう途中の、のどかな街道。

 その道を私達よりも数百メートル先を行っている兄様と桜花さんの間に、重苦しい空気が立ち込め始めたのが私達の場所からでも見て取れます。


「……お姉ちゃん、一度思い込んだらとことん思い詰める質だから……」

「あはは……分かります……私の兄様も同じなので」


 もう何年も、怪我の事は気にしなくても良いと言っているのに、全く聞いてくれない頑固な綾芽の顔を思い出して、苦笑する。


 しかも、最近は『ソール』になった事で、さらにその強迫観念が増した気がします。

 正直に言うと、そうしてこちらの事を想ってくれるのが実は少し嬉しかったりするのだけれども……それはそれとして、少しは自分の事もちゃんと考えて欲しいという兄心もあるので複雑です。


 それにしても……


「広場ではてっきり仲が良くないと思っていたんですが、キルシェさんはお姉さんの事……好きなんですね?」


 私の問いに、白い顔を耳まで真っ赤に染めて頷くキルシェさん。


「うん……不良ぶっていたけど、実際に自分から悪い事なんて何もしていないし……私を遠ざけているのは分かっていたけど、それでも、困っているときはいつもどこからともなく現れては助けてくれていたんです……えっと、それとそれと……」


 ――あの、桜花さん? 妹さんを大事にしていたこと、全然本人に隠せていなかったみたいですよ?


 頬を染めて両手の指を絡め、恋する乙女のようにお姉ちゃん自慢を延々と続けるキルシェさんの様子に、内心で砂糖を吐きながら呟く。


「それで、それ、で……」


 嬉しそうに色々と語ってくれていたキルシェさんでしたが……やがて、沈んだ表情でトーンダウンしてしまいました。


「……どうか、なさいましたか?」

「うん……お姉ちゃんは覚えていなかったみたいだけど、親の再婚で家族になる前に、一度助けられてるんです。まだ中学生だった頃に、すこしタチの悪そうな高校生の男の子に囲まれて……」


 そんな時にたまたま声を聴きつけて助けてくれたのが、当時まだ部活少女だったという桜花さんだったたらしい。見知らぬ年下の少女を助けるために飛び込んだ彼女が、手にしていた袋に入ったままの長刀を振り回し、撃退してくれたのだ、と。

 しかしそれが原因となり、他校……それも実はスポーツの名門校の生徒だったらしい……の男子と喧嘩をしたという事を、レギュラー争いをしていた同じ部活の子に散々誇張した形で噂を広められてしまい、退部へ追い込まれてしまったのだと……後に家族として再会した後に聞いたのだそうです。


「私を助けてくれたことが、結果的に原因になって不良になってしまったんだと知って……ずっと謝りたかったんだけど、もうその時には避けられていて中々言えなくて……そうしているうちに、こんなことになってしまって」

「そうだったんですか……早く仲直りして、ちゃんと謝ることができると良いですね?」

「……う、うん、頑張る!」


 そう、胸元で両拳をくっと握るキルシェさん。どこか子犬を連想するその様子に、思わず頬が緩みます。


「それで……最初会った時に口数が少なかったのは、別に心的外傷がどうの、という訳ではないのですね?」

「……うん。ちょっと怖いのは確かだけど、生活に支障があるようなものじゃないんです。ただ、ちゃんと意識して話さないと、うっかり力を使ってしまうから……です」


 それも、初対面の人には顕著だけれど、慣れた相手に対しては大分マシなのだという。

 初めて会った時に比べるとすっかり口数が増えたその様子を見るに、どうやら私の事も受け入れてくれたらしいと嬉しく思います。


 しかし……声を媒介にした能力。それを可能とする職には、思い当たる節がありました。


吟遊詩人バード系列……ですか。三次転生職まで来た方、居たんですねぇ……」

「それ、純ヒーラーの姫様にだけは言われたくない、です」

「……ですよね」


 若干むくれた様子の彼女に、苦笑しながら返答します。

 ですが……バード系転生三次職というそれだけで、本当に驚く事なのでした。




 彼女が属していたというバード系列職、それは私達ヒーラー系列とはまた違う意味で、厳しい職でした。

 とはいえ、それは決して能力的に不遇という訳ではなく、使いこなせれば全職でも屈指の能力を発揮できるであろうスペックを持っている職ではあったのですが。


 ただし……重ねて言いますが、使、です。




 私達魔法職が使用する魔法と言うのは、遥か昔、旧魔道文明期の後期に体系化されたという『力ある言葉』を複数の組み合わせて使用するもので、その文節が長くなればなるほど、強力な『力ある言葉』を組み合わせれば組み合わせるほど、その効力と消費魔力が増大していくものとなっています。


 その構成は……まず、詠唱開始のコマンドワード『セスト』。これを唱えることによって世界へと私達の意志と魔力が接続され、詠唱待機状態に入ります。


 続いて、魔法の形式の選択。これは職ごとに違っていて、私の場合は『シェスト浄化』がそれに該当します。


 そして次はその魔法の位階……言い換えれば、どれだけの魔力量を消費するかの大体の目安の選択です。これは『イン』から、二次職では最大で『エレ11』まで存在していました。


 最後に、魔法ごとに定められた『力ある言葉』の羅列である詠唱を紡いでいく事で、ようやく魔法は発動する……という仕組みになっていくのです。




 ちなみに、私の光翼族の専用魔法はまた違う形式で扱っているのですが、それはこうしたきちんと系統だった物とは違う、祈りに似たようなものなので、私にもうまく説明はできません。


 そして……バード系列の使用する魔法――『呪歌』も、それに似た性質を有しているのです。

 他の魔法のように『力ある言葉』を組み合わせるのではなく、歌そのものに力を織り込んで紡ぐ魔法。

 その効果範囲や効果制御の細やかさは他種の魔法と比べて圧倒的に優れているのですが……一方で、同じ曲でも使用者ごとに効果が安定しないという欠点がありました。


 そこに関わってくるのは、音程の正確さや歌唱力……だけでなく、その歌に込められた感情までが関わってきていると言われました。

 ゲームのシステムに感情が関与するなどそんな馬鹿な……という声も多かったのですが、そうとしか説明できない現象が多々発生していたために否定もできなかったのです。


 当然、そのような職をまともに扱える者などそうそう居らず、使用者の資質に大きく左右されるうえに人前で歌うというハードルの高さも相俟って、プレイヤー人口も極々少数だったはずです。


 ただ……『呪歌』以外の、クラス能力を十全に使いこなせる者だけが使用できるもあって、ゲームやアニメなどの歌姫に憧れて足を踏み入れ、志半ばで散っていく人々は多かったんですけどね。




「……お姉ちゃんには、ちゃんと制御できるようになって自衛できるまで、周囲には秘密にしろって言われました」

「まぁ、そうでしょうね……私も心底、そうするべきだと思います。本当に。マジで。ええ」

「えっと、姫様……?」


 突然肩に強く手を乗せて力説する私に、あっけにとられているキルシェさんですが、私は桜花さんの言葉に全力で同意します。彼女がそう言うのは無理もないのです。

 その存在が明るみに出れば、間違いなく彼女は様々な者から狙われることとなるでしょう……それは、私自身が誰よりも身をもって思い知っています。


 何故ならば――バード系列は……使用には多々制約が有るものの、私達プリースト系列以外に唯一、、なのですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る