第7話
彼女との生活が始まって1,2週間たったが、この生活は思いのほか悪くない。いや、美少女と暮らせることが悪いわけないのだが、そういうことではなく、生活リズム等の面で全くと言っていいほどお互いの認識のずれがない。例えば、味の好みの違いや、お金の使い方への認識の違い、考え方の違いなどが一切ないのだ。それは、言ってみれば当たり前のことで元が同じ人間なのだから考え方などに違いが出るわけがない。
そう思うと悪くないではなく、むしろ良くなったと言ってもいいかもしれない。家事などに対する負担は以前と比べれば楽になっているし、一人で暮らしていた時より楽しいのは確かだ。
けれど、けれどね、わかるでしょ?健全な青少年としては一人の時間も必要なのです…。だけど、ワンルームのこの部屋では一人にはなれないのです…。ゆえに、手放しで良くなったとは言えない。
というか、わかっててわざとやってない?さすがに、ちょっとしばらく一人にしてくれない?とか言えないんですよ、だって、絶対ばれるじゃん、あっ…(察し)ってなるじゃん。それはすっごいなんかやだ。だからできればそれとなく一人の時間が欲しいんですよ、わかるでしょ?なのに一切くれないよね、わざとですよね?わざとじゃない場合、それはそれで自分から言わなきゃ相手が気づかない限り永遠にその時が来ないからそれはそれで困るんですけど。そのうち理性が打ち負かされそうで怖い…。
そういった問題はあるものの彼女との生活はおおよそ順調と言えるだろう。
そんなことを思いつつ大学の授業も終わり自宅へ帰っていた途中、彼女から連絡がきた。連絡の内容は夕飯はどうする?といった内容で、外食する気もないので家で食べると連絡を返す。基本的に料理は彼女の役割となった。それは、私は大学がある分彼女が家事を多めに負担すると言ってくれたからだ。優しいね。彼女の良い面は私の良い面でもあるので、私が優しいということが証明された。これほどまでに、人の良い面を見つけてこれほどまでに喜ばしく思ったのは初めてかもしれない。
自宅へ帰っていくと、自分の部屋に近づくにつれ換気扇から出ているのだろうかカレーのにおいが強くなっていった。もしかして、今日はカレーか?などと考えつつ自身の部屋の扉を開けるころには、今日はカレーなんだなと確信を得た。
「ただいま、今日のご飯はカレー?」
そう言いつつ、部屋に入る。
「おかえりー、あってるよー」
鍋、ではなく深めのフライパンの中に入っているカレーをかき混ぜながら彼女が言う。
「あとどれくらい?」
「さっき、ルー入れたばっかりだからあと10分ぐらい待ってて」
「おっけー、ご飯は炊いてある?」
「そんな間抜けじゃないから、ちゃんと炊いたから」
「じゃあ、とりあえず皿だしておく」
「ありがとー、後は私やるからゆっくりしてて」
そう言われたので、お皿を出した後スマホをいじりつつ横になる。そうこうしているうちに10分経ったらしく彼女から声がかかる。なんで授業中の10分間と自宅でごろごろしながらスマホをいじる10分間はこうも違うんですか?というか10分経ちました?短くない?そんなことない?
「ほら、お前の分のカレー、多めにしておいたけどこれくらいでいいよね?」
「おう、ちょうどいい」
さすがと言わんばかりに適量が盛られたカレーを渡される。こういうところが暮らしやすいのだろう。彼女の方はと言えば、私の分よりかは幾分か少なめのカレーが盛られている。女性になったからなのか、性別を問わず体格の差なのか、彼女の食は私に比べて細くなっていた。最初のころは時々、適量を見誤り、もう無理…代わりに食べて…と気持ち悪そうな顔をして渡されたころが今では懐かしく思える。成長したね…!これが母性か、と思わんばかりのほっこりとした感情が湧いてくる。いや、私の場合は父性か?小さい子供を持つ親の心ってこういう感じなんだろうか
「なに?その生暖かい目、気持ち悪い」
前言撤回、小さい子供じゃねえわ。思春期の少女だわ。多分父親だったら、ちょっとお父さんの服とは別に洗濯してって言ったじゃん!もう、最悪…とか言われて心に深い傷を負ってたわ。
「?お前もさっさと食えよ」
そう言われ、私も食べ始める。普通においしい。強いて言うなら、美少女が作ってくれたという補正が入っている分おそらく自分で作るよりかは美味しく感じる。生産者の顔とかで写真を載せつつ売れば、ネットオークションとかで良い値段つくんだろうか?。ついたらついたで世も末で普通に嫌だけど。
一人でいた頃の名残がお互いに残っているせいだろうか、お互い食べているときはそんなに話さない。全く話さないというわけではないが、せいぜい美味しいかどうか言うぐらいだ。時々、会話に花が咲くこともあるが今日はそういうわけでもなく、無言だ。しかし、決して気まずくはない。偶然、お互い同時に食べ終わり、彼女に皿を洗うからと食べ終えた後の食器を渡すよう言う。流石に、後片付けもすべて任せるのは申し訳がなさすぎる。彼女から食器を受け取り、皿洗いをしていると冷蔵庫の方から彼女の声が聞こえた。
「あ、このまえ買ったプリンあるじゃん」
「プリンあるの?なら私のも出しておいて」
そう言いながら、スプーンを投げて渡す。
「いや、残り一個だから」
「そう、じゃあ皿洗いの後食べるしそこに置ておいて」
「は?いや、私が食べるから」
「いや、私が食べるから」
「「は?」」
彼女と声が重なる。こうして、第一次プリン大戦の火ぶたが切って落とされた。
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