第9話 オリヒメとヒコボシ⑨

 ヒコボシは、例の能力を使い、故郷へと急ぎました。


 ものの小一時間かかったでしょうか?

 地元の味方の軍勢は少数であり、故郷には隣国の兵ばかりが居て、町の人々に刃傷狼藉を働いていました。


 ヒコボシは、右眼を開け、出会った兵を左手で薙ぎ払い(イメージで)つつ、大きな庄屋の家へやって来ました。


 そこは、既に荒らされ放題で、家人達はむくろとなっていました。


 やはり、大きな家なので、真っ先に目をつけられたのでしょう。


 右眼を使い、直ぐにオリヒメと判る死人しびとを見つけました。


 裸で横たわる彼女の横には、あの男が、こちらも裸で横たわっていました。


 2人は、手と手を握り合っていました。


 オリヒメには、凌辱を受けた後があり、その顔が綺麗なままなので、とても哀れでありました。


 ヒコボシは、ギリリと奥歯を噛みしめました。


 ヒコボシはオリヒメを抱いて直ぐに葬りたいと思いました。


 でも、手を握りあってる姿を見て、ヒコボシは嫉妬し、自分は彼女に必要とされなくなったのだ、彼女は自分とは関係のない人になったんだと思い、手を握りあってる今の状態のままでもいいんじゃないかと思いました。


 だから、2人一緒に葬るのは後にしようと思いました。


 ヒコボシは、それから、別居していた自分の両親を探しました。


 兄がしっかり者なので、なんとか逃げていると信じ、兵を蹴散らしながら家にたどり着きました。


 そこには、兄夫婦とその子供、そして、両親がまとまって倒れていました。


 まるで、一緒に座らされて斬られたかのように、血だらけで見るも無残な有り様でした。


 ヒコボシは、涙が止まりませんでした。

 右手と無い左手をぎゅっと握っていました。


 今まで、自分の事ばかり考え、両親の事を考える余裕が無かった事を後悔しました。


 オレは親不孝者だ、そして、誰も救う事すら出来ない大バカ者だ、とヒコボシは嘆き悲しみました。


 ヒコボシのどこかが、プチッと切れました。


 ヒコボシは悪鬼の形相となり、口の傷口は裂け、そこから奥歯まで覗くように笑ったのでした。


 あの優しげな左眼は真っ赤に充血し、右眼は炎のように燃え、髪の毛は逆立ち、そして、無かった左腕は、光輝く腕となっていました。


 ヒコボシは、町にいる兵を全員眼で補足すると、直ぐ様、左腕を回しました。


 二回三回と左腕を回しました。


 その度に、兵はバタバタと倒れていきました。


 更に、4回、5回、6回、7回と回しました。


 もう、隣国の兵は誰もいません。


 でも、これがヒコボシの仕業だとは誰も思わなかったでしょう。


 まだ鬼の容貌のヒコボシは、死んだオリヒメの所へとやって来ました。


 オリヒメの身体を抱き起こしました。

 オリヒメは男の手を繋いだままです。


 その繋いだ2人の手に、ヒコボシは、自分の手を・・・自分の光る左手を出してぎゅっと握りしめました。


 2人が一緒に天国へ行きますようにと、ヒコボシは、願いました。


 そして、オリヒメの紫色のクチビルにそっと口づけをしました。



「あっ、オニ!きゃーー!」


 後ろを振り返ると、あの時握り飯を恵んでくれた女中が立っていました。


「あっ!」


 そう叫ぶヒコボシは、既にいつもの表情に戻っていました。


「ご、ごめんなさい!わたし、気が動転してて勘違いしました」


「あなたは、ここのお女中ですね?あなただけですか、助かったのは?」


「どうやら、そのようです。でも、わたし、昨日、死んでたんです」


「えっ?それは、どういう事なのですか?」



 つづく


 さて、どういう事なのでしょうか?

 次回をお楽しみに!






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