第5話 オリヒメとヒコボシ ⑤

 その時でした!


 おばばは光り輝き、ヒコボシは思わず、目を閉じました。


 そして、目を開けると、抱いていたおばばは、それはそれは美しく、若くてお淑やかそうな女性の姿になっていました。


 その女性の抱き心地は、つい先ほどの、皺くちゃの感じではなく、とても柔らかく、吸い付くような肌に変わっていました。


 ヒコボシは、たいへん驚きました。


「わらわは、誰あろう、かの天宮に住まう天女じゃ。そなたには、礼を言うぞ。もう、お婆のまま、朽ちて死ぬかと思うておった。因みに、処女じゃ。しかし、いざその時になると、おばばの口吸いには怯むものじゃが、よくぞ、やってくれた。さて、約束の褒美じゃ」


 そう言うと、天女は、ヒコボシの、無くした左腕と右眼に手をかざしました。


 右眼には、黒い眼帯が巻かれてありました。


 左腕は・・・別に何もありませんでした。


「では、その会わねばならない人と幸せになるのじゃぞ!」


 そう言って、天女は、宙に浮かぶと、小屋から出て、天高く昇って行きました。


 天女が去った後には、夜空に、キラキラ輝く光の粒が、しばらく、舞っていました。


 ヒコボシは、先程までの事が、まるで夢のように感じていました。

 そして、なぜ、会わねばならない人が愛する人だとわかったのかも不思議に思うのでした。




 その夜、ヒコボシは夢を見ました。


「ああ~~、ヒコボシ、さようなら。わたし、もう、あなたのお嫁にはなれません」


 そう言うと、オリヒメは、見知らぬ男の腕に抱かれ、熱いキスを交わすのでした。


「ヒコボシというのか、元彼は?それでは、オレがこれからはお前を毎晩、いや、真昼間でも可愛がってヤッテ、オレのことしか考えられなくさせてやるよ。オレの寝技は、今まで、どんなおなごでも、泣いて喜ばしてきたからな!」


 そう言って、下品に、その男は笑うのでした。


「ああ~~、ダメ。ああ~~・・・・」


 そう言うオリヒメの表情は、今まで見たことのないとろけた表情をしているのでした。



 ヒコボシは、うなされながらも、声を出して叫びました。


「オリヒメーーー、待ってろよーー、愛してるーー!!」


 ここ5年間、何度、この言葉は、繰り返されたのでしょう?


 夢の中でも、ヒコボシは、こう叫ぶのでした。


 ヒコボシには、そう叫ぶより、何もできなかったからです。



 ヒコボシは、果たして、オリヒメの所に間に合う事が出来るのでしょうか?


 ヒコボシ、オリヒメの運命や如何に?



 つづく

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