第4話 オリヒメとヒコボシ④

「目が覚めよったか?ようそれで、息を吹き返したのう」


 ヒコボシは、一人の年老いたお婆が自分の顔を覗き込んでいるのを見ました。


 ヒコボシは、辛うじて生きていました。

 何とか対岸まで辿り着いていたのです。


 神様の御業なのでしょうか?


 いいえ、一旦は川に沈んだのですが、川底での流れが、その場所では偶々、川幅が急に開けた関係で岸の方へと押しやるような方向になっており、更に岸近くでは上昇する流れに身体が乗ったという、偶然にして必然の結果なのでした。


 これも、大変な急流と局地的豪雨の為せる物理現象と言えましょう。


 しかし、生きていた代償として、彼の払った犠牲は大きなモノでした。


 左足があまり動かず、右眼を失い、左腕も肩から無くなっておりました。


「どうもありがとうございます。あなたが私を看病してくださったんですね。でも、そうそうあなたに甘えてばかりはおれません。それに、私は寝てなどいられないのです。行かなければいけない所があるんです」


 そう言って、起き上がろうとするヒコボシを、おばばは制して言うのでした。


「そうかい、そうかい。じゃがのう、その身体では直に死ぬぞい。この小屋の周りには、ぎょうさんの(多くの)魑魅魍魎がおるでのう。ああ、そうじゃった。それは人間の住まう町や都でも一緒よのう。わっしゃ、わっしゃ、わっしゃ(笑っている)」


「そこへ行けないのなら、私は死んだも同じこと。私には、どうしても会わなければならない人がいるのです」


「ふむ、そうかい、そうかい。わしも、折角助けた命じゃ。直ぐに死んでもらうのは寝ざめが悪いわい。お前さんが少しは歩けるように、そして、戦えるようにしてやらんでもないがのう、チラ」


「何をいたせばよろしいのでしょう?私も、あなたにお世話になるばかりで、ご恩をお返ししてはおりません。どうか、何なりとお申し付けください」


「そうかい、そうかい。それは殊勝な心掛けじゃ。では言おう!このおばばを一晩、抱いてたもれ」


「えっ?・・・よろしいのですか、こんな身体なのですよ、私は」


「・・お前さん、こんなおばばを抱くことが不快ではないのかい?」


「いいえ、滅相もありません。あなたは命の恩人です」


 そうして、その晩、ヒコボシはおばばを抱きました。


 おばばは、その皺くちゃな身体を押し付けてきます。


 そして、おばばは、ヒコボシの口に自分の口を近づけてきました。


 おばばの心臓の音が早鐘を打つように速くなっているのを、ヒコボシは感じました。


 ヒコボシは、なぜか、このおばばが愛しく感じられたのでした。


 そうして、ふたりは唇を重ねました。



 その時です!!



 つづく


 物理現象については、質問、疑問を受け付けていません、これは昔話なのでねw

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