第117話 アズマの存在って

 王宮へ転移を行ったタイミングでホタルから念話が入る。


『先輩、昨日エビとカニが手に入ったからとか言って、ランチに誘ってましたよね?』

『あ、ああ。忘れてた。今、王宮についたところだから持っていくな』


 中庭の転移の扉から大使館に移動すると調理場に行き、大量のエビとカニの魔物を調理場に出した。


 ホタルが顔を出して聞いてくる。


「ランチパーティには先輩も顔を出すんですよね? 後一時間くらいで始まりますよ?」

「今からオグリーヌの所に顔を出すから少し遅れるけど、終わるまでには顔を出すな」


「先輩……各国の首脳を相手に、ほったらかしにするとか凄いですね」

「そうなんだけど出ちゃったからな、ちょっと急がないとヤバいと思うんだ」


「ん? 何が出たんですか」

「あ、言ってなかったな。イスラム原理主義国に米軍が爆撃しただろ? そこは結構な産油地域で魔素も溜ってたみたいでな、爆撃をきっかけにモンスターが出たんだ。その辺の因果関係をオグリーヌに確認しようと思ってな、そっちは王女とホタルでなんとかしててくれ。できるだけ早く顔を出すから」


「マジですか、その話後で詳しくお願いしますね」

「あー分かった。じゃぁ頼むぞ」


 そう伝えて王宮に戻った。

 

「東雲さんはオグリーヌの部屋には入れないのもあるけど少し心配なことがあるから、ここの中庭で待機しておいてほしいんだけどいいかな?」

「心配ってどんなことですか?」


「ほら、カージノ大使館に結構な数の国から人が来ているだろ? どさくさ紛れに転移の扉を勝手に通り抜ける奴がいないとは限らないから」

「解りました。扉を見張っておきますね」


 俺は一人で王都の神殿に転移するとAランク以上の限定フロアへと入った。

 いつものように販売カウンターにオグリーヌが立っていた。


「なぁオグリーヌ、モンスターが現れ始めたんだけど地球の神様の加護ってしょぼくないか?」

「それは、しょうがありません。加護を与えるためには、それ以上の能力を与える存在が持っていないと無理ですから」


「じゃぁカージノの様な特殊能力を身につけるのは他の土地では無理なのか?」

「無理ではありません。資質のある存在が信仰を集めれば加護を与えられます」


「誰だよ資質のある存在って?」

「あなたですアズマ」


「えっえええええええええ。無理、俺は絶対嫌だからな」

「あなた達をカージノに呼んだのは偶然ではありません。私の星『ターフスタリオン』からカージノ大陸を地球に転移させるには、モンスターの発生などを抑えるすべはありませんでした。地球の神々にそれに対抗しうるだけの加護を用意する力が無い事も分かっていましたから、私の力を与えた存在を地球のために用意したのです」


「それが俺なの? もう少しやる気のありそうな人いたでしょ?」

「あなたは無作為に選ばれた訳ではありませんよアズマ」


「それはどいうことなんだ?」

「あなたの魂は私の旦那様であったこのカージノ王国の初代王イースト・グラディウスのものです。あなたがこの星に転生したのでカージノ大陸もこの星に来ることにしたのです」


「ちょっオグリーヌってストーカーかよ! 死んだ後の魂、追っかけてくるとか怖すぎだろ」

「失礼ですね。純粋な愛だとかそういう風に見てもらいたいものです。でも貴方が中々覚醒してくれないので苦労したんですよ。私の分身体まで派遣したんですからね」


「ん? 分身体? まさか……ホタルか?」

「そうです。潜在意識の中に潜んでいますので彼女にはその意識はありませんが、要所要所で貴方を誘導する役目をしていただいています」


 オグリーヌの話を聞いていると確かに心当たりだらけだな……ホタルの存在なしでは、カージノ大陸にたどり着くこともなかっただろうし、言語能力だってあまりにも都合がよすぎたしな……


「オグリーヌ……俺は何をするべきなんだ?」

「大丈夫です。貴方の周りには必要な時に必要な仲間が集まる強運があるのは昔から変わりませんから。仲間と共にこの星を導いていけるはずです。私の力はこの大陸の外には及びませんので外のことは頼んでおきますよダーリン」


 言いたいことだけ言ってオグリーヌの姿は見えなくなった。

 これって……ホタルには伝えない方がいいんだろうな?


 とりあえず戻るか……

 

 王宮に戻ると東雲さんに声をかけ、一緒に転移の扉からカージノ大使館へと渡った。

 中庭で盛大にランチのバーベキューが催されていて、エビとカニを焼いた香りが充満していた。


 ポーラ王女に寄り添うように立つホタルの姿をみつけると、思わずガン見してしまった。


「エスト伯爵、思ったより早かったですね。そんなに睨みつけてどうかしたんですか?」

「あ、いや、なんでもない。ポーラ王女、何も問題はありませんか?」


「はい、大丈夫です。皆様楽しんでいらっしゃるようですよ」


 俺の姿を見つけた藤堂総理が近寄ってくる。


「エスト伯爵、色々忙しそうですね。昨日はお礼を言う暇もなかったので、改めて伝えておきます。東京を守ってくれてありがとう」


 そう言ってがっちりと握手をしてきた。

 バイソン大統領も近寄ってくる。


「バーン大佐から先ほど報告をもらったんだが、その辺りの事も含めて彼に特別任務を言い渡しておいた。エスト伯爵付の専属武官だ。よろしく頼むな」

「大統領、こちらこそよろしくお願いします」


 その後も今日呼ばれている各国の首脳が次々と俺に声をかけてきた。

 俺は昨日の状況の中で親カージノを貫く決定をした各国の首脳に対して、お礼代わりに一年以内に今日参加されている各国の主要発電所の魔道発電所への変換工事を間に合わせることを約束した。


 勿論今日のランチパーティに関しては参加各国のマスコミも招待しているので、その発表は世界中を駆け巡る。


 反カージノやカージノへの賠償を口にした国は完全に世界から取り残されてしまうだろう。

 どの国にもチャンスは平等に用意したんだから、間違った決定を出した自分たちの国の首脳を恨んで欲しい所だが、きっとカージノやJLJに対して非難の声は出るんだろうな?

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