第115話 モンスターの発生

 アメリカの動きは早かった。

 バイソン・メンデス大統領がテロ組織の殲滅を宣言してわずか十五分後には、この組織が首都としている地域に、第五艦隊並びに第六艦隊から爆撃機が飛び立ち絨毯爆撃を繰り広げた。

 更にその二時間後には、陸軍特殊部隊(グリーンベレー)と呼ばれる部隊がパラシュート降下により制圧を始める。


 作戦開始から指導者と目される人物の死亡が確認されるまで僅か六時間。

 指導部は、ほぼ崩壊し、フランスとイギリスからもこの地域の解放と一般人の保護を名目に部隊が派遣される決定が出された。


 実際問題として先進国の首脳が集団で人質の立場に立たされ、東京にも核の危機が訪れていたのだから、これを非難する勢力は出てこないだろう。


 その中で更に事件は起こる。

 反カージノ体制を提唱したケジラミール・ザコルフ大統領は駐日ロシア大使館へ丁重に送り届けられていたのだが、この大使館が日本時間の未明に爆発を起こしたのだ。


 建物は全壊し周辺警護に当たっていた警備局の警察官たちにも死亡者、重傷者が出るほどの規模の爆発であった。


 状況が状況だけにJLJの事務所では夜通し、アズマ、ホタル、東雲さん、夢幻さん、藤崎姉妹がテレビを見ていた。


「ロシア大使館の爆発って、先輩は関係ないですよね?」

「ホタル、俺を爆破魔のように言わないでくれよ。関わってないからな」


 夢幻さんが聞いてくる。


「小栗君はこの爆発が偶然とは言わないだろう? 犯人の予想はつくのかい?」

「おそらく……ですが、ロシアの真の支配者が行ったトカゲの尻尾きりでしょうね。この状況ではイスラム原理主義国のバックがロシアであることが明らかにされるのは目に見えていましたから、すべてをザコルフに押し付けて新たな開かれたロシアをアピールする事で、この状況を乗り切ろうと考えたのでしょうね」


「凄いな、まさに小説のような展開だ。それで小栗君はそのロシアの真の支配者が誰かは特定できているのかい?」

「いえ、調べることも含めて関わり合いを持たない方がいいと思っています。いくらなんでもこの状況ですぐに動きを見せれば今回の事件で完全に世界の主流派になったアメリカや中国を敵に回すことになるので当分は大人しくするしかないでしょう。それに一年間その状態を維持すれば兵器は使えなくなります」


「なるほどね、しかし想定外の事態が起こる可能性はあるだろ?」

「勿論です。昨日のG20で起こったテロも完全に想定外でしたし、ロシアの言い分に賛成する国があんなに出るのも想定外でした。JLJとしてもそうですけど、カージノ王国としても国同士の争いには不干渉で行きます」


「それもそうだな、だが、どうしようもないような事件が起これば、昨日の様にエスト伯爵が解決してくれるだろうから考えるのはやめだ」

「……夢幻さんも思考がホタルに近づきましたね」


「そんなこと考える暇があったら、獣人の女の子たちとの楽園を作ることの方が優先順位が断然高いからね」

「ぶれませんね……」


◇◆◇◆


 翌朝もテレビでは昨日のG20以降の出来事が繰り返し報道されていた。

 ホタルはカージノ大使館でのランチと、カージノ王宮でのディナーと通訳が必須な行事が続くので、朝から大使館に出かけて行った。


 俺は東雲さんと一緒に島官房長官に頼まれて、今日一日は不測の事態に備えることにした。


「小栗さんと不測の事態に備える状況って、完全にフラグ立っていないですか?」

「東雲さんまで夢幻さんと同じような発想をしないでくださいよ」


 そんな軽口を叩けたのは午前中だけだった。

 バーン大佐からイリジウム電話に着信が入った。


『エスト伯爵、これからすぐにこちらに来れませんか? 昨晩から行われているイスラム原理主義国の作戦において不可解な現象が起きていまして』

『バーン大佐、それは、そこに行かなければ見れないような物ですか?』


『軍事機密に該当するので、出来ればこちらで確認して欲しいと思います』

『解りました。伺いましょう。一人秘書を連れて行ってもいいですか?』


『情報の漏洩さえ気を付けていただければ構いません』

『漏洩を防ぐ対象は日本政府も含まれますか?』


『政府であれば問題ありません。マスコミ系には今はまだ早いと思います』

『解りました』


 一応東雲さんに確認を取る。


「今からカージノ沖の修理船に行きます。イスラム原理主義国関係で問題が発生してるそうです」

「ご一緒してもいいという事ですね?」


「はい」


 東雲さんと二人で早速、修理船へと転移を行う。


「早かったですね、エスト伯爵……っていうかその格好で見えられたのですか?」


「あ、小栗さん。変身してないじゃないですか」


 いくらバレてるのは分かっていても、一応今まではエストの姿で現れるようにしてたのに、すっかり忘れてアズマの姿のまま転移してしまった。


「あ……」


 何事もなかったかのように、その場でエストの姿に変身した。


「まあ今更ですね」


 状況を理解しているバーン大佐はいいとして、他の乗員たちには余計に不審に思われただろうけど……

 

「それはそうとして、昨日はメンデス大統領たちの救出、お疲れさまでした」

「いえ、バーン大佐のお力添えで原潜の場所の特定が迅速にできたおかげです。それはそうとして、イスラム原理主義国で起きた問題とは?」


 バーン大佐がノートパソコンを開き、画像を見せてくれた。


「これは……モンスターですか……」

「カージノ大陸に生息するものと同じかどうかは私では判断が付きませんが、地球上に今まで存在した生命体ではありませんね」


 そのパソコンに映し出されている画像には、はっきりとゴブリンとオーガが写っていた。


「この写真に写っているのは、カージノ大陸でゴブリンと呼ばれる個体とオーガと呼ばれる個体です。ゴブリンに関しては銃撃で問題なく対処できますが、オーガに関してはM4程度の銃撃で対抗するのは難しいでしょう。それよりも、このモンスターはいつ現れたのですか?」

「はっきりとは言い切ることが出来ませんが、恐らくは爆撃機での絨毯攻撃以降に現れたと推測できます。現れた原因を推測できますか?」


 そう聞かれて俺のステータスの高まった知能で要因を考える。


「一応確認ですが、この辺りの土地は原油の埋蔵量などは多い場所でしょうか?」

「はい、イスラム原理主義国の外貨獲得手段として石油の発掘を積極的に行っていた土地です」


「そうですか恐らくすでに化石燃料がかなりの割合で魔素へと変換されて、モンスターが発生できる要因が揃っていたんでしょう。そこに絨毯爆撃がトリガーとなりモンスターが発生したと考えられますね。ゴブリンやオーガなどの人型のモンスターの発生源はそのまま人の魂であると予測できますから、爆撃によって亡くなったイスラム原理主義国の人々が魔素を取り込みモンスターに変異したと考えて間違いないでしょう」

「それが事実だとすれば、イスラム原理主義国以上の爆発が起こった日本海のハサン沖合でもモンスターの発生が起きているのではないですか?」


「あの辺りはウラジオストク近辺に石炭の鉱床があるほかは化石燃料は少なかったはずなので、魔素がまだ充満していなかった可能性が高いと思います」

「魔素が充満した地域での爆発が、モンスター発生のトリガーになるという事ですか?」


「絶対とは言いませんが、その可能性は高いですね。それよりもその地域に進攻しているのは、グリーンベレーだけですか?」

「いえ、海軍のシールズも既に海岸から潜入していますグリーンベレーが20チーム二百四十名、シールズが10チーム百二十名が現在作戦行動中です」


「それでカードは獲得できているのですか?」

「お告げカードの事ですか?」


「それは、はい。アラビア文字で記入された銀色のカードをモンスターを倒した隊員たちが獲得したと報告が上がっています」

「アラビア文字ですか……カードを獲得した隊員との面会は可能ですか?」


「私が同席すれば問題なく会うことが出来ると思いますが」

「一緒にイスラム原理主義国の支配地域へ転移しましょう。東雲さんはバーン大佐のガードをお願いします」


「了解です」


 バーン大佐と東雲さんの手を握りイスラム原理主義国への転移を行った。

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