第114話 エストの活躍
ザコルフ大統領に従う国家と、モウ・チェン主席を始めとするカージノ王国を認める判断を下した国家が壇上で二手に分かれた。
この時点では親カージノ派はリーダーがはっきりと定まっていないし、モウ・チェン主席であっても、メンデス大統領を差し置いてリーダーシップを強引にとることは得策では無いと理解している。
モウ・チェンの計算高い頭脳は、親カージノ国家の連携はあまり重要ではなく、カージノ王国との付き合いを中国は真剣に行うと言う意思をシリウス国王にはっきりと印象付ける事なのだ。
現状のままでは親カージノを中国が訴えても、日本、アメリカに次ぐ三番目の扱いにしかならないことは明白だ。
それを
少なくとも反カージノを宣言した国家がこの同じ壇上に居る間は、親カージノ国家の首脳が攻撃を受ける可能性は低い。
それに、テロリストの侵入を許してしまった日本の立場はこの問題が解決しても国際社会で大きな批判を浴びるだろう。
相当な離れ業でこの状況を納めない限りは……
だが当の藤堂晃総理大臣とバイソン・メンデス大統領は先ほどから胸元につけてあるインカムを利用して、どこかと連絡を取り合っているだけだ。
イスラム原理主義国を名乗るテロリストどもが上着の内側に抱え込んでいる爆薬の量から推測すると、もし爆発すればこの総理公邸くらいならば建物ごと吹き飛ばすほどの量はあるはずだ。
攻撃は難しいか……
そう思った時だった。
テロリスト三人の真横に人影が現れる。
「あ、あれはエスト伯爵」
三人のテロリストの真横に扉のような何かを置いたと思った瞬間に、テロリストの尻を思いっきり蹴飛ばした。
「ば、馬鹿な、ちょっとした刺激で爆発する可能性もあるんだぞ」
思わず声を出した。
他の首脳たちも藤堂とメンデスを除いて顔面蒼白で、大きく広げた口から心臓が飛び出しそうな表情だ。
エスト伯爵がテロリストを蹴り飛ばした扉をさっさと片付けると、俺たちのほうに向き声をかけてきた。
「お困りだったように見えましたので少々出しゃばらせていただきました。この場にはわが国に対して友好的でない判断を行った方々も多数いらっしゃるようですので、邪魔者はさっさと退散させていただきます。友好的な判断をしてくださった国の首脳の方々は明日、カージノ大使館へお招きいたしますのでランチを一緒にいかがですか? 今日とても良いエビとカニが手に入りましたので、きっとお気に召していただけると思います」
それだけ告げるとさっさと転移でJLJの事務所へ戻った。
「先輩、お疲れ様です。中々格好よく映ってましたよ。少し見直しました」
「ああ、あれが世界中にライブで流れてたかと思うとちょっと恥ずかしいな。
東雲さんが聞いてきた。
「小栗さん、素敵でしたよ。ところであのテロリストたちはどこへ消えたのですか?」
「あーアメリカに協力してもらって、あいつらの言ってた原潜の位置を特定してもらってたんだ。転移で艦内に移動して転移の扉を設置してから、公邸に向かったんだよ。壁際に設置してきたからぶつかって爆発なんかしてなかったらいいけどな?」
「それって核弾頭を積んだ原子力潜水艦なんですよね……」
「ああ、あいつらの言葉を信じたらそうだな」
その時テレビから緊急報道が入る。
ロシアと北朝鮮の国境辺りの沖合で非常に大規模な爆発が起こったと報道が入った。
「駄目だったみたいだな」
「先輩、ちょっとやりすぎだと思いますよ?」
「えっ? 東京の上空で爆発する方が良かったか?」
「い、いえ、それも困りますけど」
それとほぼ同時にG20の解散が発表され、親カージノの立場を守った国の首脳が合同声明として、ロシアに賛同した国家との国交断絶を表明し、該当国の大使館の閉鎖、経済制裁など続けざまに声明を出された。
当面は親カージノ陣営のエネルギー事情などの問題が解決するまでの期間は、決定の見直しを行わないとも伝えられる。
当然、報道機関は今回反カージノ陣営に組いった国からも訪れていたので、各国では激震が走った事だろう。
おそらく馬鹿な決定に賛同した首脳たちは国に戻り次第、その職権をはく奪され投獄まで可能性があるかもな。
壇上ではメンデス大統領がマイクの前に立ち、テロリスの排除に関してはアメリカがカージノ王国のエスト伯爵と連絡を取り合う事で問題の対処を行ったと発表していた。
アメリカの軍事衛星による迅速な原子力潜水艦の補足を公式に発表した形だ。
更にメンデス大統領は言葉を続ける。
「現時点をもってアメリカ合衆国はイスラム原理主義国を名乗るテロ組織に対して殲滅作戦を開始する。該当国の背後関係を明らかにし、テロ組織の支援国がどこであるかを明確にすることが今回の作戦の趣旨である。アメリカはこれを決して許さない」
うん、どうせ兵器はあと一年以内に使えなくなるんだし、今が使い時としては正しいのかもしれないけどな。
ここはちょっと王女に仕事してもらおうかな。
そう思い大使館に転移した。
「王女、まだいらっしゃいましたか?」
「エスト伯爵、ずっとテレビを見ていましたわ。中々素敵でした。明日のランチの招待状は用意しておきましたよ? エビとカニの話は私は聞いていませんでしたけどエスト伯爵が用意してくださるんですの?」
「王女、ありがとうございます。ついでに今のうちに王女自ら明日のランチの招待状をを持って、親カージノを表明した国々へ手渡して差し上げるのはいかがですか?」
「しょうがありませんね行きましょう」
総理公邸へ頻繁に転移を行うのもどうかと思ったので、税関からリムジンを出してもらいザックとアイン、それにホタルもリュシオル姿で来てもらう事にして五人で向かう。
リムジンから島長官へは連絡を入れておいたので総理公邸では出迎え体制が整っていた。
俺とポーラ王女とリュシオルの三人で壇上の親カージノを表明した首脳たちの一人一人に、明日のランチの招待状を手渡す。
モウ・チェン主席に手渡す時に、ポーラ王女が声をかけた。
「モウチェン主席、先ほど父シリウス王とも話してきましたが、明日はお昼のランチをご一緒に楽しんでいただき、良かったらそのまま私が直接この壇上の皆様を全員王宮にご招待させていただこうと思います。ディナーは王宮にてご用意させていただくという事で構いませんか?」
「王女、今回はイレギュラーな出来事もあったので仕方ないでしょう。私はそれで異存はありません」
モウ・チェン主席の返事を聞き、他の各国の首脳たちも全員が招待を受けると返事をした。
反カージノ王国に賛同した国の首脳たちは日本の公安の厳重な警護に囲まれながら、強制送還されるまでは各大使館の中に幽閉されることになる。
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