第113話 モウ・チェンとザコルフ

 G20(Group of twenty)はまずG7のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、カナダ、イタリアの七か国が含まれる。

 それにEU、ロシア、中華人民共和国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ共和国、オーストラリア、大韓民国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えた二十か国である。


 世界のGDPの90パーセントを占め貿易額で80パーセント、人口でも70パーセント近くを占める。


 それだけの国の首脳が日本の総理公邸に集まり世界中の報道局がカメラを構える中で声明を出す。


 場所が日本の総理公邸のため藤堂首相が代表でマイクを持つ。

 ホタルに一応広報として打診はあったらしいが「無理です!」と一言で断ったそうだ……ある意味大物だよな。

 少なくともBLアニメの字幕版を作るより有意義な仕事と思うけどな……


 冒頭から重大発表を行う。


「世界の危機ともいえる状況が明らかになった為にG20の首脳がそろった今、世界中の人々に向けて発表をさせていただきます。現在地球上で化石燃料や放射性物質が消え去る現象が確認されています。ほぼ一年後にはこれらは地球上から無くなってしまうと計算できます。この現象は地球という星に対して我々人類の思いやりが足らなかった為に与えられた大いなる試練とも言えるでしょう。しかし、自然エネルギーともいえる、太陽光や風力、水力などを使った発電等には一切影響はなく、更には我々の地球に新たな仲間として加わったカージノ王国の魔素と呼ばれる、新しいエネルギーが存在すことが分かっております。この魔素は一切の有害物質を発生させることなくエネルギーとして活用できることが、すでに判明しておりカージノ王国の協力の元我が日本で、すでに発電のためのエネルギーとして利用するプロジェクトが進行中です。自動車等におけるガソリンなども当然流通は無くなります。それに対しての対策も既に技術は確立できております。そこで、お願いしたいのは特に市場での取引問題で風聞により企業の株式や通貨の国際取引においての価格の乱れを未然に防ぐために本日、日本時間の午後五時、ロンドン時間の午前九時から一週間にわたり世界中で一斉に取引が中止されます。一週間後までに各分野における対応策が発表されていきますので、その対応策を確認されてから正しい判断をもって、投資に取り組んで頂きたい、という事です」


 その藤堂総理の発言により世界中のメディアのフラッシュが眩しく明滅していた。

 その一瞬をつくかのように、進み出たのはロシアの報道の腕章をつけた三人組だった。

 彼らが前に出ると同時に広げたジャケットの中には、無数の爆薬が隠されていた。

 G20の首脳を人質に取った状態で発言をするテロリストの姿を視て、ロシア大統領ケジラミール・ザコルフの口元は笑みをたたえていた。


「聞け! 今現在この東京に向け日本海から潜水艦による弾道ミサイルが照準を合わせている。我々の条件は一つだけである。カージノ大陸の接収だ。我々イスラム原理主義国の領土としてカージノ大陸を接収する事を認める声明を今この場でG20として発表してもらおう」


◇◆◇◆


 俺たちはエビとカニを楽しみながらみんなでテレビを見ていたが、さすがにこれは思わず口に入れたエビを吹き出した。


「先輩、出番です!」

「おい、ホタル、何丸投げしてるんだよ」


 東雲さんが聞いてくる。


「小栗さん、何とかできるんですか?」

「うーんできなくは無いですけど、イスラム原理主義国の名前を使って日本海に居るはずのロシアの潜水艦の位置を特定しないと、今からでは、あの首脳たちや精々二十三区を守るくらいの結界が精一杯になります」


 俺がそう言うとみんなが一斉に反応する。


「小栗君、犯人はロシアなのか?」

「間違いないでしょう。そしてあそこにいるザコルフ大統領は真のロシアの支配者の操り人形ですね」


「他の首脳たちは、カージノを裏切る発言をすると思う?」

「どうでしょう。少なくとも藤堂首相が裏切らないでくれることを望みますけど」


 するとホタルが意外な意見を言った。


「私はモウ・チェン主席の一言で首脳陣が二つに分かれると思います」

「それは、どういう事だホタル?」


「先輩は早く潜水艦見つけてください。テレビ鑑賞は私たちが責任もってやっておきますから」

「ホタルの俺の扱いがどんどん雑になってる気がする」


「気のせいです、ちゃんと信じてますから」


 俺はすぐにバーン大佐に電話をする。


『大佐、今の状況は把握してますか?』

『アズマか、いやエスト伯爵でしたね。私もテレビは見ていた』


『軍事衛星で日本海の潜水艦の位置は特定できますか?』

『ここのタイフーン級と同じタイプであればステルス機能は無いから可能だ。弾道ミサイルを発射できる水深まで浮上しているならそんなに時間はかからないだろう』


『出来るだけ早くお願いします。解ったらすぐに連絡をください』

『解った』


 続いて連絡するのは島長官だ。


『島長官は身動きは取れますね?』

『小栗君か、今のタイミングで連絡をくれたという事は対処できそうなのか?』


『できる限りのことはしてみます。決してテロリストの言葉に従う事が無いようにお願いしておきます』

『総理にはインカムが付けてある、こちらからの連絡は出来るので伝えよう』


 その時モウ・チェン主席がマイク無しでも会場の全員の耳に届くほどの声を上げた。


「わが中国はこの地球全体の未来を託す重要な決定としてカージノ王国を仲間として迎え入れると決めた。テロリストの言葉に惑わされ信念を捻じ曲げることは絶対にない。このモウ・チェンがここで倒れたとしても、わが志を中国十四億の人民が必ず引き継ぎ、テロリストを滅ぼす。ここに集うG20の首脳が同じ志であると信じる」


 メンデス大統領がモウ・チェン主席の言葉に笑顔で頷く。

 その言葉で壇上の首脳たちの流れは決まったように見えたが、ロシア大統領ケジラミール・ザコルフが言葉を発する。


「ここに集う世界の首脳と呼ばれる人物がそのような感情論で地球を語るとは笑い話にもならない。よく考えろ、カージノ王国、カージノ大陸という存在は地球外生命体の侵略ではないか。それを駆除し地球で生きてきた人類が自分たちのために利用する。これは国を預かる立場の人間として正しい判断と言える。例えばだ南米の危険な蟻が自国当ての荷物に紛れ込めば、それを先進国であれば当然防疫と称して殲滅するだろう? それが正しい判断だからだ。地球にとってカージノ大陸は南米の蟻と同程度の存在であり消毒して、使える物だけを使えばいい、わがロシアはイスラム原理主義国が消毒をしてくれると言うなら、それを任せる事に反対はしない。他にもカージノ王国が現れたことによる石油資源の枯渇で迷惑をこうむった国もたくさん存在する。彼らの国は当然の権利として、カージノ大陸から資源を調達する事で国民の生活を守るべきでは無いのか? それが国を守る立場に立つ首脳と呼ばれる人間の判断だ」


 ザコルフ大統領の発言にテロリストたちが大げさなポーズで拍手を送る。

 更にザコルフは自分の言葉に賛同をする国家を求めた。

 二十か国の首脳が割れた。


 モウ・チェンの意見に賛同したのはG7各国と大韓民国、EU、オーストラリア、インドネシア。

 それ以外の国が信じられないことにロシアに賛同した。

 ザコルフ大統領は我が意を得たりと言わんばかりの表情で、テロリストたちに話しかける。


「イスラム原理主義国を名乗る我が同志たちよ。志を同じくした同胞国家と共にカージノ大陸の資源を有効活用し、地球外生命体の駆除を行うための会議を始めよう」


 その様子を映し出す世界中のテレビ局はどこの国の放送も一切のコメンテーターの意見やアナウンサーの言葉が挟まれることは無く、事実だけを映し出していた。

 ここで下手にコメントを入れようものなら、世界の流れが反対側に動いた時に間違いなくテレビ局ごと存在が無くなるという事が解っているからだ。

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