第112話 エビとカニ!

 夢幻さんたちと別れ、沖合の修理船に転移した俺はバーン大佐に状況を尋ねる。


「修理の状況はいかがですか?」

「エスト伯爵、この潜水艦は武装に特化した艦でしたから武装解除をした現在の状態だと、随分広々としていますよ。それにしても魚雷もすべて取り外してしまいましたが良かったのですか?」


 バーン大佐が言う通りで艦内はとても潜水艦とは思えないほどの広さがあった。

 窓が無いから、中に入っても船の内部っていう感じはしないんだけどね。


「これから先、既存の兵器は全て使えなくなっていきますし、潜水艦に必要な能力は海中の探索を行えると言う事だけで十分です。武装解除した兵器類は全てアメリカ側で処分をお願いしていいですか?」

「その件は了解しました。ただ、この潜水艦に搭載されていた垂直発射の弾道ミサイルがどこの国で製造されていたものか興味はありませんか?」


「そういえば先日の連絡では、三年前の製造と言われてましたね。この艦が公式に退役したことになってから二十年以上が経過していることから考えれば、明らかにおかしいですね。この艦の乗員が言っていた『イスラム原理主義国』という国がそれだけの技術を持っていたという事でしょうか?」

「いえ、単純に核爆弾を製造するのと垂直発射の長距離ミサイルの技術では技術の桁が全く別物です。この技術を持つ国はごく限られますね」


「それでは……どこの国で製造された物でしょうか?」

「ロシアです」


「それは、この潜水艦はロシアがテロ国家に対して全面支援の下で運行されていたという事なのでしょうか?」

「そう判断せざるを得ないでしょう。少なくとも軍部の高官が関わらなければこの技術を流出させることは困難です」


「解りました。当面ロシアに対しては信用することが出来ないという事ですね」

「私の口から述べられるのは、事実だけですから思惑に関しては分かりません。事実はテロ組織に対しての支援を行っているという事ですね。その問題は別として衝突箇所に関して放射能漏れは確認されませんでしたので、現在該当箇所の修復作業中ですが、あと一週間ほどで航行に関しては問題ないレベルに仕上がるでしょう」


「そうですか、思ったよりも早いですね。もう一つご相談なのですが原子炉の取り外しは可能でしょうか?」

「それは不可能ではありませんが、かなり慎重に取り組まなければならないのでその場合は一月ほどの期間を見てもらわなくてはなりません。取り外した原子炉はいただいても?」


「はい、勿論です。ただ原子炉を使った場合に出ていた出力などのデータは欲しいですね。魔道炉に取り換える際に参考にしますので」

「その辺りはこの船の機関長にも確認を取り、勿論、原子炉も実際に稼働させたうえで正確な数値をとり提供させていただきます。この先の話なのですが例えば我が国の原潜にも同じ改造は可能という事でしょうか?」


「理論上は勿論可能ですが、平和利用以外の既存の航空機や船舶、車両に関しての改造をカージノ王国やJLJが請け負う事は無いでしょう」

「そうですか……」


「例えば建設重機などの改造を請け負ったとして、その車体を軍事利用に転用した場合なども厳しい対応を行うことになると伝えておきます。勿論、アメリカやその他の国が私たちに頼ることなく自分たちの開発した技術で、作ると言われるのならば、それを禁止するほどの越権行為を行うことも無いですけどね」


 一応警告はしたが、それをそのまま守ってくれる可能性は低いだろうけどね……


 バーン大佐と潜水艦の修理に関しての打ち合わせを終了すると、再び浜辺に戻って夢幻さんたちを回収し、一度ギャンブリーの屋敷へと戻った。

 アンドレ隊長やアダムさんも既に戻って来ていて少し話をした。


「アズマ、お前の部屋の転移の扉が日本のカージノ大使館へと繋がってるそうだな。そいつを使って日本へ行くことは出来るのか?」

「アンドレ隊長、すでに正式に日本とカージノ王国の国交は樹立しています。隊長とミッシェル、アダムさんの三名に関しては俺のエストとしての権限でカージノ王国のビザと日本への渡航許可を出せますので問題ありません。ただ……日本で出歩くとマスコミたちが凄いと思いますよ? 本国側の干渉も大変でしょうし」


「その問題なんだが、アメリカのグリーンカードのような制度でカージノ国民として受け入れてもらう事は出来ないか? 俺やミッシェルのイギリス国籍や、アダムのフランス国籍を持った状態でカージノ王国の国外に出れば最悪、国から拘束される危険性すらあるから、安全に関する担保が欲しいんだ。うちのタイラー社長の要請で今回JLJの輸送船団の護衛任務に就くにしても、港で本国から拘束される可能性も無いとは言えないだろ?」

「どうでしょう? タイラーさんなら英国政府とも親密なようですからその危険性は低いと思いますが、カージノの国籍を取るにはカージノに対しての利益が提供できることが条件になりそうですし、今みたいに気楽に行動できない可能性もありますよ」


「あー、確かにそれはありそうだな。うちの社長とももう一度相談してどうするのか決めよう。だが、船団の護衛の冒険者たちはどうやって乗船させるつもりなんだ?」

「それは、転移の扉で日本から公海へ出たタイミングで使用して乗船してもらうのがいいと思います。色々と法律的に厄介な問題が多そうですし」


「なるほどな、了解した。こっちで雇い入れた護衛の冒険者たちはCランク以上、飯付きで一人百万ゴルの契約だ。全部で百名集めている。来月の一日に召集で問題ないよな?」

「そうですね、契約上JLJから『パーフェクトディフェンダーズ』社に委託していますので管理はアンドレ隊長に頼みますからよろしくお願いします」


 アンドレ隊長との会話が終わると、アダムさんが話しかけてきた。


「アズマ、レストランの出店の話はどうなりそうだ?」

「それは、思ってたより大規模になりそうですが、アダムさんの伝手で料理人をそろえることは可能ですか?」


「どんだけの規模だ?」

「ハワイのリゾートホテルをとりあえず五棟買収して、海岸に移築する予定です。その後も世界中のビーチリゾートホテルで営業の継続が困難になった物件を取得して移築していく予定ですね」


「おい、そんな規模の話じゃ根本的に人手が足らないだろう? ホテルを買収するなら、従業員ごと買収しちまえばいいんじゃないか? そのほうが絶対に手っ取り早いと思うぞ。従業員たちも仕事が無くなって困ってるだろうし、そのほうが絶対うまくいくだろう」


 アダムさんの提案になるほどと思った俺は、藤崎さんに今の提案の実現性に向けて動いてもらうように振ってみた。


「確かにその方が話は早そうですね。財前さんや社長とも話してみてから動きます。エスト伯爵領に関しては就労ビザなどの問題は無いという事でいいのですね?」

「それは大丈夫です。この領地全体をホテルの営業が始まるまでには隔離しますので」


 そこまでの確認をして俺たちはカージノ大使館へ帰還し、ちゃんと税関経由で事務所へと戻った。


 事務所に戻ると既に十八時になっていたが、まだ友里恵さんも事務所に居たので先ほど夢幻さんたちが狩りまくった、エビとカニの魔物を料理してみんなで食べようと言う話になった。

 ホタルにも帰ってくるように伝えると、女性人たちがホタルの部屋に上がっていき、全長一メートルを超えるサイズのロブスター型や、甲羅のサイズが百二十センチメートルほどもあるタスマニアンキングクラブに似た、やたら爪のでかいカニで料理を始めた。

 いくらエビやカニに見えるからと言っても、刺身は少し抵抗があったので火を通した料理になったが、その味はとても濃厚で非常に美味しかった。


 ホタル以外はみんな料理が得意で良かったよ。

 カニとエビの料理を楽しみながら事務所のテレビでG20の合同記者会見を視始めた時に事件は起きた。

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