第111話 カージノ語の教材
火力発電所での発電試験が終わった後は俺と東雲さんの二人で、川越常務とは別れて移動する事を伝えた。
理由は……時間が惜しいから!
車で二時間半もかけて戻る暇があれば転移でJLJに戻って、スキルの受け渡しでもした方がよっぽど有意義だからな。
東雲さんと二人で事務所に戻ると今日は友里恵さんだけしか事務所に居なかった。
「友里恵さん、出勤初日から一人っきりは寂しかったでしょ? ごめんね、こんな勤務体制で」
「あ、はい、でも大丈夫です。それにここって全然電話かかってこないですよね?」
「あー、それはかかってこないんじゃなくて電話機に繋がってないんです。通話は各自個人のスマホだけですね」
「えっ? それは理由あるんですか?」
「事務所を開いた初日だけは普通に繋いでたんですけど、一日中鳴り続けて、とても対応は無理だと思ったんで、ホタルが抜いちゃってそのままですね」
「そ、そうなんですね」
「業務上の申し込みなどは全て会社ホームページのお問合せメールでの対応です。うちのメンバーの誰の連絡先も知らないような方からだと、ほとんどこちら側から連絡を取りたくなるような内容はありませんから、定型文の『お問い合わせを受け付けました。順次対応をしますので連絡をお待ちください』ってメールを自動返信するだけですけどね。一応暇がある時に内容はさらっと眺めてますよ? 社長が!」
俺がそう伝えると、友里恵さんには結構ツボったようで笑顔を見せてくれた。
「それは、私的にはとても楽ですね。そう言えば姉が言ってましたけど、小栗さんの眷属にしていただける話は本当なんでしょうか?」
「うーん、眷属化って言うのはですね、隷属の一種ですから俺の指示に逆らえないとかの友里恵さんにとって人権が保障されないような内容が含まれるんですよ? お勧めすることは出来ません」
俺が友里恵さんにそう伝えると、東雲さんが口を挟んだ。
「私は迷わず眷属にしていただきましたけど、それによるメリットの方が大きすぎますし、全く後悔は無いですけどね。むしろ折角、隷属してるんだからもっと親密にしてほしいと思ってるくらいです」
「ちょっ東雲さん、そういう事を言わないでくださいよ。絶対、勘違いされるでしょ」
「あの……小栗さん。私は小栗さんや夢幻さんが居なかったら、ただ死を待つだけの存在でした。それこそ恋愛も経験することなく。それを、こんなに楽しく日々を過ごせるようになったのですから、私の生涯は小栗さんたちのお手伝いをする事に捧げたいんです。お願いします。私を眷属にしてください」
「解りました。ただし眷属化したとしてもお告げカードを持っていない状況では恩恵の部分を受けることが出来ません。まず、お告げカードの獲得をしていただいてからですね」
友里恵さんの入れてくれたコーヒーを飲みながら、東雲さんと事務所のテレビを眺めていると夢幻さんから念話が入った。
『小栗君、今大丈夫かい?』
『どうしましたか夢幻さん』
『ギャンブリーの街から、小栗君の領地の海岸まで移動する方法なんだが、乗り物は何かあるのかい?』
『あー乗り物は馬か走竜もしくは馬車になりますね。ギャンブリーから海岸に抜けるには道が無いので、馬車も使えませんから馬を使うにしてもかなり大変ですよ』
『それは困ったな。自慢ではないが馬なんて乗ったことないよ……』
『夢幻さんはバイクは乗れますか?』
『ああ、それなら大丈夫だが、カージノにバイクなんて無いだろう?』
『少し待っててください、ナンバープレートも必要ないから、こちらで購入して持っていきましょう』
そうだよな、俺みたいに転移でも使えない限り街から出てしまうと移動に不便なんだよなカージノは。
俺の領地からギャンブリーまででも十キロメートル以上はあるし、移動手段は必要だろう。
今日は、この後は日本時間で二十時のG20の合同記者会見を見たい、意外の予定はないし、領地からギャンブリーまでの道の整備でもしておこう。
コーヒーを飲み終わると友里恵さんにお礼を言って、東雲さんと近隣のバイクショップへ出かけた。
まともに道路が無い場所だから普通のバイクだと走ることもできないので、中古のオフロードバイクを二台購入した。
「登録とか必要ないので!」と伝えて東雲さんと二人でバイクを押してショップから出ると、そのままセルフのガソリンスタンドに寄ってガソリンを満タンに入れる。
再び人目のない場所まで移動して、俺のインベントリにバイク二台を収納し、ギャンブリーの屋敷に転移を行った。
屋敷のリビングでは夢幻さんと藤崎さんが、ミッシェルと話していた。
勿論英語だけど……
ミッシェルも既に日常会話程度であればカージノ語にも慣れてきたようで、無限さんが治療した奴隷たちのその後の具合などの聞き取りをして夢幻さんに伝えてくれてたようだ。
「ミッシェル、ありがとうね。アンドレ隊長はどこに行ったの?」
「アズマ、久しぶり。隊長は冒険者ギルドに輸送船団の護衛の依頼を出しに行ってるわ。それに関してアズマにも頼みがあるそうだから後で聞いてあげてね」
「了解」
屋敷の庭に先ほど購入したオフロードバイク二台を出すと、ミッシェルが突っ込んできた。
思ってたより明るいんだなミッシェル……
「改めて思うけどアズマは本当に何でもありだね……これは思いつかなかったなぁ、なんだか損した気分よ」
「ミッシェルたちも必要なら買ってくるから言ってね」
夢幻さんが運転したがったので一台は夢幻さんが運転して俺がタンデム。
もう一台は東雲さんが運転して藤崎さんがタンデムで出発した。
バイクは男女でタンデムすると密着感が激しくて変な妄想しちゃうから、これで正解だと思う……ギャンブリーを出発してまっすぐ西方向の海岸線に向かうが二キロメートルほどの穀倉地帯を抜けると、すぐに道は途切れる。
まあカージノ大陸では各都市の外壁の中以外では道は舗装してないから、オフロード車以外の選択肢は無いんだけどね。
道が途切れてからは、俺が魔法で一気に木や草を刈りはらいながら車一台が通れる程度の道を作り海岸の領地まで進んだ。
次はランクルでも持ってこようかな。
三時間ほどかけて海岸まで到着する。
「これで夢幻さんたちも、いつでも海岸に来ることが出来ますね」
俺がそう言うと藤崎さんが聞いてきた。
「あの……私のサーフィンの道具とか校舎の中に置かせてもらってもいいですか? 時間が空いたら来たいので」
ぶれないな……
「それは自由にしてくださって結構です。そう言えばホテルの買収の話はうまく進行していますか?」
「はい、問題なく進んでいます。価格面で財前さんがもう少し交渉をしたいと言ってますので、まとまり次第お願いする事になります」
「了解しました。問題は従業員ですね」
「それなんですけど、恐らく日本からの利用者の方が圧倒的に多くなると思うんですよね、当面は他の国の方も日本経由での渡航しか許可をしない方針ですし、カージノ語、日本語、英語のトワイリンガルの従業員を育てなくてはなりませんので、いい方法は無いでしょうか?」
俺がその時、頭に思い浮かべたのは昨日のホタルの作ったBLアニメの字幕版だったが(イヤそれは違う)と頭を振った。
「ホタルに任せてみましょう。カージノのポーラ王女の日本語教材用にアニメの字幕版を作っていたので、逆バージョンでカージノ語に日本語字幕を付けたのでも作らせてみようと思います」
「それはいいですね。カージノで声優さんとかいるのかしら?」
「うーん、ザックとかアインに日本語の勉強って言ってやってもらいましょう。フローラやフラワーも使えるし」
そう言うと夢幻さんや東雲さんたちも反応した。
「アニメの吹き替えですか? それなら私も是非参加したいですね。 どうせなら私の作品のアニメが何作かありますので、それで作りましょう。他の作品を使うと後々、著作権がどうとかいう話が出てきますし」
「いいですね、夢幻さんの作品がカージノ語のアニメで見れるとか楽しみです。早速取り掛かるようにしましょう。後、それってカージノ国内でテレビ普及用に使ってもいいですか?」
「ジャンジャン使ってほしいですね!」
この話はその後、夢幻さんの作品の英語吹き替え版を作ったスタジオも協力してくれることになり、思っていたより本格的な話になった。
その後で俺はバーン大佐に連絡を入れてエストの姿になり修理船へと移動した。
東雲さんたちは、海岸でエビやカニのモンスターを倒しながら待っていると言ってた。
きっと今日の晩御飯で食べれるだろう。
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