第110話 シリウス陛下の返答
ホタルが無限さんと藤崎さんを連れて朝の九時にカージノ大使館へ向かうと既にポーラ王女がザックとアインを連れて大使館の中庭で安定のティータイムを過ごしていた。
「ポーラ王女おはようございます。陛下のお返事はいただけましたか?」
「おはようリュシオル。はい、いただきましたよ」
夢幻さんと藤崎さんは挨拶をすますとエストの執務室に置かれた転移の扉から、ギャンブリーの屋敷へと向かった。
「王女、それでは島長官に連絡を取ってモウ・チェン国家主席へお返事をする準備を整えますね」
「はい、今日はまだ各国の元首の方も日本国内に滞在されていますので中国以外の国に対しても昨日の要望書のお返事を差し上げていきたいと思います。要望書を受け取った順に一日十か国にお返事を差し上げますが、相手が国家元首であるならば私が出向くのが道理だと思いますので、そのように調整をつけていただけますか?」
「ポーラ王女それはお勧めできないです。相手方大使館に王女が出向くのは最悪、拉致や拘束を受ける危険性もありますから、出来れば面会はこのカージノ大使館か日本の総理官邸を利用してください」
「そうなのですか? ではその辺りの手配はリュシオルに任せます」
早速、大使館敷地の管理事務所に駐在する横井さんに連絡を取る。
「……と、いう事で、島長官に連絡をお願いしてもよろしいですか?」
「リュシオルさん。昨日、日本国は正式に世界中に向けカージノ王国との国交を開くことを明言いたしましたので、担当は島官房長官ではなく、織田外務大臣となります。ただし外交問題以外の項目に関しては引き続き島官房長官の担当ですね」
「了解しました。それでは織田外務大臣に連絡をつけていただけますか?」
早速、織田外務大臣経由で連絡を入れモウ・チェン主席にシリウス陛下からの返事が届いている事を伝えると、すぐに総理官邸での面会ということになる。
その後の九か国に対する返答も同じく総理官邸において行うように段取りが取られ、各国は元首ではなく駐日大使が返答を受け取りに来ることになった。
気難しそうだと思っていたモウ・チェン主席が意外にも最もフットワークが軽いという事実に少し驚いたが、早速大使館から総理官邸に移動する。
移動には税関から日本政府のリムジンが出され、ザックとアインと私が一緒に行動する。
勿論日本側の警備も付く。
車の中でポーラ王女が私に聞いてきた。
「ねぇリュシオル。帰りにスイーツのお店でお買い物は出来るんですの?」
「王女……それは大騒ぎになるから止めてくださいね?」
「えーなんでですの? お店に並んでいるのを自分で選んで購入したいのです」
「ダメです! これで欲しいのを選んでください、私が買ってきますから」
そう言ってタブレットに通り道にあるデパートのスイーツ売り場のページを表示させて渡した。
「しょうがないですね、どれも美味しそうです。全部買いたいですわ」
「王女、一度にそんなに買っても食べきれないですから、食べれる分だけにしてください」
そんな会話をしながら官邸に到着した。
早速の様に織田外務大臣が姿を現す。
「おはようございますポーラ王女、随分お仕事熱心なのですね。中国側ももうすぐ到着のご予定ですので、それまではゆっくりとお寛ぎください」
それだけを伝えると外務大臣は退室していった。
モウ・チェン主席の到着が知らされ、応接室に案内される。
昨日と同じように駐日大使と一緒に姿を現した。
当然だけどこの室内には日本関係者はいない。
中国側とカージノのメンバーだけだ。
当然、王女と主席の会話は直接は伝わらないので、私が相互通訳をする。
「早速、回答をいただけるようだが、カージノ王国が我が中国と力を合わせれば、この世界に覇権を唱える事すら難しくは無いでしょう。よいお返事が頂けることを期待します」
「モウ・チェン主席カージノ王国側の返答は父シリウスが書面にしております。ご一読ください」
早速、シリウス陛下の返事を開くが、そこにはカージノ王国の文字で記されているだけで、当然意味が分からない。
「リュシオル殿、ここにはなんて書かれている?」
私はシリウス陛下の書いた返事に目を通して少し焦ったけど通訳としてはそのまま伝える事しかできないので淡々と読み上げた。
「申し出は確かに承った。しかし、この返事すら現在のモウ・チェン殿は理解できないのではないでしょうか? その中でリュシオルの通訳だけにお互いの言葉の真意を預けながらの会談というのは、とても危険な判断かと思います。このリュシオルがモウ・チェン主席の言葉に悪意を込めて私に伝えた場合、それを否定する事すら出来ないでしょう。それでも構わないというならご招待は致しますが、その場合モウ・チェン主席が私と会談をする事の内容が大切なのではなく、ただのパフォーマンスであると受け止める事でしょう。先日からお伝えしている通りに我が国は、諸外国との付き合いには積極的には取り組む必要がありませんので、民間レベルでの交流に抑えるつもりです。それでも我が国に訪れることを望まれますか?」
私の通訳を聞いた主席は一瞬顔色に赤みが差した。
ヤバイ怒らせた? と思ったがその直後に主席は豪快に笑った。
「面白いではないか、リュシオル殿の言葉一つで世界が戦争に陥る可能性もあるという事だな。ある意味貴殿の存在は、誰よりも大きい、それを認めよう。認めたうえでモウ・チェンが頼む。私の友になってくれ、私の言葉を、シリウス国王の言葉を正しくお互いに伝えてくれ」
中国国家主席にそのように頼まれて「無理!」と返事できるほどに図太くはなかった私は、モウ・チェン主席に了解の返事をした。
「リュシオル殿、いや蘭蛍殿と言った方がいいのか。エスト伯爵と小栗東君に関してもそうだが当然世界の情報筋からは同一人物と認められていることは理解できているな?」
私は頷く。
「君たちの会社に対してわが中国は世界の人口比率に応じた出資割合で投資させてもらいたい。その辺りの専任の者をここにいるシュウ大使から連絡をさせるのでよろしく頼むな」
「そのお話は我が社の斎藤と小栗とも協議してお返事を差し上げることとなります。ポーラ駐日大使に対する返事は早急な日時調整を行ってくださいという事で構いませんか?」
「うむ、恐らく王女はすでにシリウス殿から日程を聞いているはずだ、そのまま伝えてくれ」
私が王女に確認を取るとモウチェン主席の言った通りで、明日のカージノ時刻で午後零時日本時間の朝八時に時間を取ることが伝えられた。
「カージノ王国を訪れる初めての地球の国の国家元首がモウ・チェン国家主席であることの意味は小さくは無いと思います。少なくともメンデス大統領が焼きもちを妬く程度には」
私の言葉に笑みを浮かべたモウ・チェン主席は明日の朝七時にカージノ大使館へ来ていただく約束をして帰って行かれた。
全く心臓に悪い会談だよ。
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