第109話 試験発電

  昨晩の要望書の確認を終えて、ポーラ王女はそのまま転移の扉を使い王宮の自分の部屋へと戻って行った。


「明日の早朝、お父様に中国の要望を伝えて返事を伺ってから戻ってまいります」

 と言い残して。

 

 ザックとアインも一緒にカージノに戻って行った。


 俺とホタルが転移でJLJの事務所へ戻ると、まだ社長を始め全スタッフが社内に残って事務所の大型テレビを見ながら話していた。

 その中には藤崎さんの妹さんも混ざっていた。


「友里恵さん。もう具合は大丈夫なんですか?」

「はい、おかげさまでしっかりと食事もとって体力も回復しました。これからは少しでも皆さんのお手伝いをさせていただきながら、ご恩をお返ししていきたいと思います」


「そんな難しく考えなくてもいいですよ。折角、病気も治ったんですから今まで我慢してきたことを思う存分楽しんでください」


 俺がそう言うとホタルがお約束の様に突っ込む。


「先輩、そんなこと言ってると、また勘違いさせてお嫁さん候補が増えちゃいますよ?」

「ホタル……そういうのはマジで勘弁してくれよ」


 斎藤社長が話の流れを止めてくれた。


「病気もよくなったということで、藤崎友里恵さんには明日から我が社の事務員として勤務していただくことになりました。皆さんもよろしくお願いします」


 社長の言葉を受けて全員から拍手で迎え入れられた。

 大崎さんが俺に質問をする。


「小栗君や、今日の晩餐会での各国の要望はどうじゃった?」

「そうですね、俺のエスト、ホタルのリュシオルの立場としては当然すべての内容を把握していますが、小栗東と蘭蛍が知っている事を前提にJLJの事業が動く事には問題があると思いますので内容の公開は勘弁願います。事実の公開が出来るのはポーラ王女の公式会見か日本政府側の総理か島長官の発言があってからという事にしてください」


「ふむ、了解した」


 すると斎藤社長が全員に対して知らせてくれた。


「その島長官からですが、明日、全世界に向けてG20のすべての元首が一堂に会して日本時間の午後二十時に一年以内の化石燃料と放射性物質の枯渇に関しての発表があります。それに対応するように明日日本時間の十七時以降から一週間の証券と通貨の国際取引が全面的に中止されますので、その間に発電所の新方式による発電、自動車、航空機、船舶の魔道エンジン方式への転換などを発表して、市場の混乱を防ぐ対策に向かうという事です」


 その言葉を受けて財前さんが見解を聞かせてくれた。


「G20の首脳が全員揃っている状況など今を逃せば中々実現はしないだろうし、世界中の人々も信用せざるを得ないだろうな。小栗君は明日からの一週間は大忙しになりそうだな。どの分野の発表にも実際に稼働する魔道エンジンを見せない限りは信用度が伴わないからな」

「確かに大変そうですね。船に関しては既にカージノで運行してますから問題はありませんが、航空機に関しては製造会社の実際のジェットエンジンのサイズと仕様書が分からないと手の付けようがないですね」


「そうだろうと思ってアメリカと欧州と日本の航空機製造会社に声をかけておる。状況的に大変重要な事案となるので横田の基地が協力してくれることになっておるので、各社のジェットエンジンの現物をそこで預かれるようになっておる。三社の技術者も来てくれるので分らぬことがあればその場で質問が出来るぞ」

「それは助かりますが、エンジンを運び出すのに俺がマジックバッグを使う訳にもいかないですし、その場で錬金して作るのはもっとまずい気がしますが、どうしましょう」


「格納庫を一棟空けてもらう手筈もすんでおる。その中に実際にカージノから魔道具職人を連れてくればよいのではないか? 作業を見せなければその魔道具職人が作成したことにして小栗君が錬金しても問題はなかろう」

「解りました。カージノの商業ギルドに頼んでドワーフの魔道具職人でも紹介してもらいましょう」


 その後は、晩餐会の出席国で初めて姿を現しような各国の元首に対しての思い思いの意見を重ねて散会した。


 自分の部屋に戻ると東雲さんとホタルに日課となってきたスキルの譲渡を一時間ほど行ってから眠りについた。


 翌朝は川越常務と約束があったので朝から東雲さんと二人で川越常務の迎えの車に乗り込んで茨城県の火力発電所へと向かう。

 ホタルはポーラ王女がシリウス陛下の返事を携えて大使館入りをする予定なので大使館で待機だ。


 無限さんは藤崎さんと二人でギャンブリーの街へと向かうと言っていた。

 友里恵さんは事務員なので社内でお留守番だ。


 余り社内に人がいる状況は少ないのでそんなにする事は無いのだけど、お姉さんから「カージノ王国で出来そうなことのアイデアを色々と考えておいて」と宿題をもらってるみたいだ。


 大崎さんは、もう日程的に差し迫ってきたカージノ王国へ向けた港湾と空港の建設資材の搬出で福山さんと一緒に忙しそうにしてる。

 

 斎藤社長は『パーフェクトディフェンダーズ』社のタイラー社長との会合があるという事だった。


 財前さんは自分の出身地でもある鳥取砂丘の開発関係の仕事を片付けると言っていた。


 みんな頑張ってるよな。

 

 そんな事を考えながら茨城県へ向かっていた。

 東雲さんが話しかけてきた。


「小栗さん。実際、今の小栗さんは仕事を抱えすぎていらっしゃいますよね? 誰かに任せる部分は任せていかなければ、時間も足らなくなるし、体も持たないんじゃないでしょうか?」

「うん、確かにそうなんだけど人に任せるって難しいんだよね」


「私の様に眷属化を受け入れる方を見つけないといけませんね。でもそれなら考え方によっては小栗さんが神格化すれば信者として大勢の人が集まりませんか?」

「東雲さん……それは洒落にならないって。オグリーヌだって俺が神様扱いを受けるときっと敵対するんじゃないかと思うし」


「私は、そうならないと思いますよ? オグリーヌ様は地球ではカージノ大陸における加護以外には力を使われないと思いますが、どうでしょうか?」

「まあ確かにそれはそうだろうね」


「それに対して地球の神様ってどうなんですか? きっと今の様に色々な宗教が沢山の神々を作り上げている状況なら、小栗さんの眷属になる方がよっぽど優れた加護を授かれるんじゃないですか?」

「うーん加護に関してはそうかもしれないけど、それと俺が神様扱いっていうのは別次元の話じゃないかなぁ」


「でも少しは考えてもらってもいいですか? きっとそれが、この地球がこれから先の未来を乗り切っていくために必要な事になってくる気がしますから」


 マジかよ……

 と思いながら目を閉じた。


「小栗さん到着です」


 東雲さんの声に目を覚ますと目的地の火力発電所に到着していた。

 川越常務の案内で火力発電所のタービンがある場所へ案内される。


 現場では既にアレク電機の作業員たちが巨大なタービンにオリハルコン製の魔道送風機を取り付けていた。

 風力のロスを少なくすることに焦点を当てた接続部品はアレク電機設計陣の自信作らしい。


 試験は問題なく成功し、百万キロワット毎時のタイプの発電機で百二十万キロワット毎時の発電を行っても、問題がなさそうだという事だった。


「小栗さん。これは凄い事ですよ! まだ稼働時間が少ないので魔石の消費量などのデータが不足していますけど、このまま丸一日の稼働をさせて魔石の使用量を算出して発電量に対する単価を出します。現段階の概算では費用的にも天然ガスで発電した場合の百分の一程度の単価ではないかと予想されます」

「そんなに効率がいいんですか?」


「はい、この数値が確定された場合、今回の化石燃料の消失問題は地球が我々に与えた試練どころか、地球から我々にプレゼントをいただけたような物だと認識されますね」

「それは素直に喜んでいいのでしょうか? まだ魔石の安定供給に関しては現時点では世界中の発電所を安定稼働させるだけの量の目途が立っていませんので、控えめに考えた方がいいかもしれませんね」


「そうですね。でもどうなんでしょう? 実際カージノ王国での魔石の産出量というものは不足気味なのでしょうか?」

「あの大陸の規模に対して人口がかなり少ないので、その辺りが替わってくれば必然と生産量が伸びる余地はあるかと思いますが未知数ですね」


「不謹慎かもしれませんが、カージノ大陸以外の土地で魔石の獲得が可能になれば可能性は広がりますね」

「そうなって欲しいような欲しくないような、微妙な気持ちです」


 しかしその問題は翌日には現実として現れることになった事を現時点では知る由もなかった。

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