第107話 晩餐会
いよいよ晩餐会の当日を迎えた。
今日の俺は、あくまでもカージノ王国のエスト・ペティシャティ伯爵としての参列である。
国家元首が多く集まる中では上位の地位ではなく、かといって席が用意されている各国の大使と比べて下に見られるわけにもいかないという微妙な立ち位置のせいで、警護であるザックとアインに挟まれる位置に俺だけが着座するテーブルが置かれているという変わった席だ。
リュシオルはシリウス陛下とポーラ姫の着座される席の真後ろに椅子だけ用意されている。
これもずっと、その位置から動けないから結構大変そうだな。
開会の挨拶は日本での開催であるから、藤堂首相が行う。
「本日はカージノ王国の在日本大使としてカージノ王国第一王女ポーラ・グラディウス殿下のご紹介をさせていただく席に、各国の元首、大使の皆様にご列席いただいたことを、大変喜ばしく思います。加えて本日はカージノ王国『シリウス・グラディウス』国王陛下にもご列席をいただけたことを主催国である日本の首相として大変、感謝の念に堪えません。先日のカージノ大陸の出現以降、地球上のそれぞれの国において様々な問題が起こっている現状ではありますが、わが日本国、そして盟友たるアメリカ国においては、これからの地球を語るうえでカージノ王国との協力は必須であると判断いたしました。本日列席された各国の皆さんが同じ価値観で判断していただける事を願うとともに、カージノ王国を地球の友人として迎え入れていただける事を切に願います」
もちろん各テーブルには専属の通訳官はついている。
本心かどうかは判断できないがこの場では拍手が起こっていた。
俺も壇上の席から優れた動体視力で拍手を行っていない参列者がいないか確認したが、ここで露骨に拍手をしない判断を行う国家は無かったようだ。
招待客側は、国家元首が出席されていて人口の多い国から上座に当たる位置が振り分けられていて、駐日大使がメインの国は国家元首が参加されている国以降の扱いになる。
各国の元首同士を同じテーブルにつかせることもできないために、テーブルの数は参加国の数だけ出されている。
続いてアメリカのメンデス大統領が乾杯の音頭を取り、晩餐会は始まった。
開始から十五分を経過すると各国からの要望書を直接手渡すために順番にポーラ王女とシリウス陛下の元に向かう。
当然、最も人口の多い中国の「モウ・チェン」主席が最初の訪問となる。
表面上にこやかに壇上に向かったモウ・チェン主席がシリウス陛下とポーラ王女と握手を交わし要望書を手渡す。
「わが中国はカージノ王国を地球の仲間と認め、今後、より深い国交を築き上げていきたいと思います」
その言葉に一瞬会場全体にどよめきが起こった。
まさか中国が全面的にカージノを認める発言をするとは想像していなかったからだ。
それに対してシリウス陛下が返答をする。
「地球上のすべての国、すべての民族と友好的に関わることが出来ることを私も願います」
うーん、これは……本音と建前の使い分けなのか?
だが、この場ではもっとも適切なやりとりなのだろう。
モウ・チェン主席はメンデス大統領と藤堂首相とも握手を交わし壇上から下がって行った。
これにより、各国が要望書を複数用意していただろうが、より友好的な要望書を選んで提出することに流れは決定したようだ。
その後はインドから順番に同様な流れが続くことになるが、最初に要望書を手渡した中国はその後十分程度で、さっさと退出していった。
他の国も同様で会場に長く滞在する国はいなかったが国家主席の参加した九十八か国が要望書を手渡した時点で、シリウス陛下、メンデス大統領の二名は会場を退出した。
参加が国家元首でないのであれば、陛下が自ら相手をする必要は無いと言う確固たる意志表明だ。
リュシオルも陛下と一緒に退出して代わりに俺がポーラ王女の後ろに立ちその後の対応を続ける。
◇◆◇◆
シリウス陛下が迎賓館からカージノ大使館へと移動している。
行きはエストの転移によって直接迎賓館へと向かったので、リムジンの中から見える東京の光景は初めて目にする光景だ。
私は陛下と共にリムジンの中に乗車している。
このリムジンは……アメリカ大使館所有の車であり、陛下の座る正面には『バイソン・メンデス』大統領が同乗している。
彼は地球上最も大きな権力を持つ人物として、シリウス陛下との単独会談を持ち掛け、シリウス陛下もそれを受け入れた。
JLJの本社の正面にあるカージノ大使館前には、大勢の警護がついていた。
勿論日本の配置した警護の部隊である。
メンデス大統領も移動中は外の光景に興味を示すシリウス陛下の邪魔をすることが無いように語りかけはしなかった。
社内には大統領の専属SPが二名とギルバート駐日米大使が同乗している。
大使館の門が開きリムジンは大使館内部に侵入していく。
この場に存在する税関もさすがにアメリカ大統領とカージノ国王が乗車する車を足止めするような事はせずに、税関に付属する日本庭園の中を通り、カージノ大使館のカージノ風の庭園へ入って行き、大使館の正面玄関へと着けた。
国王陛下が客人と共に来たのだから、大使館内の総員が並んで出迎える中をシリウス陛下とメンデス大統領が並んで入って行った。
陛下専用として用意してあった応接室には、陛下と大統領、そして私とギルバート大使の四人だけが入室する。
ザックと大統領のSPは扉の外で警戒に当たる。
セバスチャンが侍女を従えてお茶を運び退出する。
ここでやっと大統領が口を開いた。
「シリウス国王、改めて、これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくメンデス大統領」
勿論会話は通じないのでどちらの言葉も私がお互いに失礼が無い様な言葉づかいで伝えている。
「率直に本日、主要国家の国家元首と対峙したうえでどう感じられましたか?」
「ふむ……それぞれが抱える立場と言うものがあるだろうから、表面上を取り繕った挨拶であったと思います」
「それが、お分かりであったなら大丈夫です。決して国家の代表などと言うものはああいう場で本音を話すことはありませんから、それを確認させていただいたのはカージノ王国は、元々の星でも他国とのかかわりの薄い国であったと言う情報を聞いていましたから外交慣れはされてないと思ったので」
「確かに外交慣れをしていないのは確かです。だがカージノ王国は外交慣れをする必要もない立場であったのも事実です。それは、これからもそのつもりでいます」
その返答にメンデス大統領は少し表情を引き締める。
「それは今後も積極的な外交はしないと言う事ですか?」
「はっきり言うとその通りです。わが国の国内の事情に一切の干渉をしてほしくはないですし、それを守られる限りは我が国も地球上の各国に何も求めません。逆に先日の潜水艦のように我が国に明確な悪意を向けたものを、笑って許すような甘い対応もしません。それ相応の謝罪がない限り敵対国家と認定し、その国が国家としての終焉を迎えるまで許すことはありません」
「それは……その国の国民も含めてということでしょうか?」
「いえ、国と国民は必ずしも同罪では無いでしょう。我が国に敵対行動を行った事実を知ってそれでも現在のその国の政権に従う意思を見せた国民に関しては同罪と判断しますが、罪を認めたうえで新しい政権を樹立する努力をするのであれば、敵ではありません」
「シリウス国王、カージノ王国はそれをどの国に対しても宣言できるほどに強大な力を有していると?」
「そう思っています。この星で最強と言われる兵器であっても現在カージノ王国を守る結界を破ることは出来ないでしょう。逆にカージノが敵対国家とみなした国に攻め入るかどうかは別問題ですが」
「と、言われますと?」
「別に干渉されないのであれば略奪する必要もないので時間を無駄に使ってまで攻め込んだりはしないということです」
「それは許してしまうということですか?」
「違います。敵は許しません。ただ相手にはしないと言うだけです」
「わかりました。わがアメリカとしてはカージノ王国との付き合いを大事にしたいと思いますが、どうでしょうか?」
「お互いが必要と思う事を事案ごとに提案しあうということでいいのではないでしょうか? 要望があれば今後日本に在中する我が娘ポーラに伝えていただければ検討します。逆にこちらが何かお願いするべきことがあればポーラを通じギルバート大使にお伝えしましょう」
「わかりました。話は変わりますが一つ確認させていただいても?」
「なんでしょう?」
「カージノ大陸では化石エネルギーや放射性物質と言うものは存在しないと言うのは本当でしょうか?」
「それがどのようなものであるかが私には解っていませんので、恐らく存在しないで正しいでしょう。カージノではエネルギーと言うのは魔力や魔素と表現される物しか存在しないはずです」
「なるほど。解りました。今、地球上で一番問題になっているのがエネルギー源の喪失問題なのですが、もし今の地球がカージノのように変貌を遂げているのだとしたら相談に乗っていただきたいこともでてくると思います。その際は協力をよろしくお願いします」
「わかりました。私も今日見た日本と言う国の技術力の高さに対しては素直に凄いと思いましたし、協力することによって、お互いの発展につながるのであればそれはいいことだと思います。さぁ話はこの辺にしてカージノの料理でも食べていかれてください。カージノの食材を使ったディナーをご用意していますので」
ダイニングに場所を移してディナーを楽しんだ後でメンデス大統領は帰って行かれた。
先輩に念話を入れると、迎賓館ではまだ最後の国まで終わっていないようだ。
要望を伝え終えた国はどんどん退出していき、折角各国の首脳が集まっているので、国同士の様々な交渉があちらこちらで繰り広げられているそうだ。
日本がまじめだと思うのは藤堂首相は最後まで付き合ってくれそうなとこだ。
そのせいで日本に対して要望を突きつけたい諸外国の方々には織田外務大臣と島官房長官が対処していた。
各国が今日渡してきた要望書を見るのが大変だな……
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