第106話 晩餐会前夜

 東京都内が現在大変な状態になっている。


 理由はカージノ王国のポーラ姫を駐日大使として迎える歓迎晩さん会に各国が国家元首クラスの人物を送り込んでくることを表明したために、その警護を行うため警視庁を始めとして全道府県警から十三万人を超える警察官が護衛のために召集された。

 日本における警察官の総数の五十パーセントに近い。

 それでも人数が足らないために、都内の主要施設などは自衛隊員まで制服着用で警護任務に就かされている。


 この晩餐会の時にテロ組織が日本に長距離弾道ミサイルでも打ち込めば、間違いなく世界中がパニックになるだろうな。

 一応は当日の迎賓館は結界で覆うにしても、都内を広範囲に渡って封鎖するわけにはいかないし、どうしたもんかな。


 都内に侵入する主要幹線道路では検問がいたるところで行われ、駅や空港でも不審者への職務質問が厳しく行われている。

 特に外国人に対してのチェックが厳しく行われ、初日だけでも二万人をける不法滞在者が検挙される事態となった。

 改めて日本と言う国の腋の甘さが露呈したような状況だ。


 余りにも検挙者数が多かったために臨時の収容先として中部国際空港を封鎖して、晩餐会の終了まで不法滞在者を隔離することが決定された。

 晩餐会終了後に各自出身国に強制送還されることになる予定だ。


 そんな心配をよそにして、ポーラ王女は晩餐会の前日である月曜日にカージノ大使館入りをした。

 勿論、転移の扉を使用して直接大使館内部にやってきた。

 俺とホタル、ザックとアインも付き従った状態で大使館の中庭に姿を現したポーラ王女に対して、日本からは藤堂総理と外務大臣の織田さん、そして島官房長官の三名が早速訪れた。


 勿論、特別に報道陣の入場も許可され、会見の様子を報道する。

 この会見はあくまでも挨拶程度の物であり、ポーラ王女の主導でいつものように庭園でのティーパーティー形式で行われることになった。


 事前に俺が島長官に連絡して「お茶菓子を手土産にしてください」と頼んでおいたので、大臣三名がそれぞれお茶菓子を持参してきた。


 それぞれに警護のSPが一人ずつ同行して、席に着くのはカージノ側はポーラ王女と俺だけ、日本側は大臣の三名だけだ。

 リュシオルは王女の真後ろに立ち、会話を同時通訳する。


 ザックとアインは少し離れた位置に日本側のSP達と同じような距離感で直立している。

 ただ今までと違うのは騎士の正装で腰には剣を装着している。

 この場所が日本国内ではあるが法律的にはカージノ王国であるため、あくまでもカージノ方式の警護体制である。


「藤堂総理、早速のご挨拶光栄に存じますわ」


 勿論リュシオルが通訳している。

 ポーラ王女は大臣たちが持参した手土産の中身が気になってしょうがないようだ。


「早速開けさしていただいてよろしいですか? みんなで頂きましょう」


 フリーダムな感じがとてもポーラ王女っぽい……

 ポーラ王女が顔を屋敷の方に向けると、セバスチャンがすぐに現れる。


「セバス、このお土産を器に出して持ってきてくださるかしら?」

「かしこまりました」


 このやり取りの本意は、手土産はセバスによる鑑定を受けて安全が確認されてから口に入れると言う意味もある。


 因みに手土産は藤堂首相は東京の老舗の和菓子の詰め合わせだった。

 色とりどりで繊細な和菓子たちの見た目に、ポーラ王女も興味深そうに見入っている。

 織田外務大臣は銀座の有名店のフレッシュフルーツを使ったゼリーを持ってきていた。

 島長官は事前に俺にリサーチしてきたので「チョコがお気に入りですよ」と伝えて置いたらピエールマルコリーニの詰め合わせを持ってきていた。


 王女はまだ十八歳だしこういった手土産で十分に喜ぶから安上がりだなと思った。

 今日は本当に顔合わせの挨拶だけで、三十分ほど一緒にティータイムを行うと総理たちは帰っていき、代わりに外務省の澤田さんと横井さんが姿を現し、晩餐会の予定

 の打ち合わせを行った。


 王女は侍女を呼んでアインとデザートタイムの続きを始めたので、俺とリュシオルが話を聞くことになった。

 

 赤坂の迎賓館で十五時から始まり、藤堂首相とメンデス大統領がホスト役となりシリウス国王とポーラ王女を最初に迎え入れる。

 会場は結婚式の席のような構成となっており、各国は元首と駐日大使の二名だけが参加する。


 シリウス陛下とポーラ王女を挟むように、藤堂首相とメンデス大統領が位置して、そこに各国の元首たちがあいさつに訪れる形だ。

 その際に各国はシリウス陛下に対しての要望書を渡すことが出来る。


 ただ、あくまでも要望書を渡すだけなので叶うわけではない……

 参加国は百五十か国にも上るので一か国、二分の予定でも五時間はかかる予定だ。


 問題なく終わってくれればいいんだけど、そんなにうまくいくのかな?


◇◆◇◆


 潜水艦の修理を頼んでいるバーン大佐から連絡が入った。


「はいエストです」

「閣下、少しお伝えしたいことがありまして」


「どうされましたか?」

「原潜の武装解除が本日終了したのですが、とんでもないものが出てきました」


「核兵器ですか?」

「垂直発射方式の長距離ミサイルが四発搭載してありました。製造年度はまだ三年程度で新しいものです」


「そうですか……国家の特定はできましたか?」

「イスラム原理主義国と名乗っております、国連をはじめとして存在を国家として認める国は今のところありませんので、国家と呼べる状態ではありません」


 こっちはこっちで問題が山積みだな。

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