第105話 鳥取砂丘

 昨晩はカージノ大使館の庭園で行われたバーベキューでとても楽しい時間を過ごした。

 JLJのメンバーとカージノ大使館の職員たちの交流と言う面で見ても成果はあったと思う。

 ここで大事な部分は昨日バーベキューに参加したメンバーで税関を使って入管したメンバーに対して、正式なカージノ王国のビザが発行されたことだ。


 エスト伯爵領に関してはビザなしでの渡航を許可する方針だが、それ以外の内陸部に関しては一般の入国を認める予定はない。

 それ以上に重要なことは、ビザを所持することによって大使館内にある転移の扉の使用が許可されることとなる。


 ただし、既存の転移の扉は王宮の中庭に繋がっているので、これは流石に無限さんや藤崎さんが使うわけにはいかないので、ギャンブリーの屋敷の俺の部屋とカージノ大使館のエスト用の執務室をつなぐ扉も一組用意した。


 それを無限さんたちに朝から伝えてあげると大喜びだった。


「小栗君、これで私や藤崎さんはいつでも合法的にカージノに渡航できるということなんだね」

「そうですね、無限さんと藤崎さんには言語の習得も頑張ってほしいので知能スキルを上げてほしいと思います」


「お金がかかりますね……」

「まあ、そうですけど事業が動き始めていますし、お二方の進めている合弁会社の設立が済めばそれ相応のコミッションが支払われますので必要な額は私の方で建て替えも可能です」


 その話をしていると、ホタルが念話で提案をしてきた。


『先輩、私思ったんですけど無限さんと藤崎さんには眷属として必要な能力を用意する方がいいんじゃないかと……』

『あー、そうかもな。二人がJLJから離脱する事は無さそうだし、よし、ホタルは藤崎さんに説明してくれないか? 俺が眷属化の話すると誤解を受けそうだし、東雲さんと一緒に話してもらったら、誤解はされにくいと思うから。無限さんは既に眷属だから俺が直接、説明するよ』


 結局、無限さんも藤崎さんも大喜びで提案に乗ってきた。

 藤崎さんは出来れば妹の友里恵さんも【眷属化】してもらえないかと提案してきた。


 友里恵さんに関しては、体力が戻って出社できるようになってから、本人とも話した上で決めることにした。


「先輩、これで謎の超能力軍団『チーム小栗』誕生ですね」

「ホタル……『チーム小栗』って言ってる時点で全然、謎になってねえじゃないか。チーム名とかつけるのは却下だ」


「小栗君、私はチーム名はあった方がいいと思うよ。小栗君の名前を前面に出さなければいいんだろ? 今の五人で意見を出し合ってその中から決めるのがいいと思う」


 無限さんが妙に食い下がったので、そこは納得しておいた。

 絶対ダサい名前になる予感しかしない……


 藤崎さんに先日、頼んでおいた件の進捗を確認してみた。


「ビーチハウスの件ですよね。それがですね、現状ハワイ島のリゾートホテルの八割が休業に追い込まれているんです。そこを建物ごと買収することが出来ればどうかと思っています。勿論エスト伯爵による移築が大前提とはなりますが」

「それは凄いですね。土地は必要ないので後の再開発も一緒に提案すればほぼ無料で手に入れることが出来るかもしれませんね。大崎さんと財前さんに頼んで交渉してもらいましょう。カージノの海岸線はとにかく広いので、失われた世界各地のリゾートを区画で仕切って再現するも悪くないですね」


「素敵です。早急に取り掛かります」


「小栗君、僕は蘭君に出来るだけ時間の都合をつけてもらって先日の続きになるけど、カージノ王国の奴隷たちを解放していきつつ、現地従業員としての教育を施したいと思うがどうだろう? それにプロスポーツ選手たちを育成するための養成所も作らなくてはならないしね」

「そうですね、養成所の建物は大使館の敷地にあった小学校の校舎を当面利用して、足りなくなれば、また廃校になった設備を取得していけばいいと思います。リノベーションを行えばまだまだ利用できる物件は沢山あると思いますし」


「よし、私も頑張りがいがあるよ。蘭君もよろしく頼むね」

「はーい」


 ホタルのやつ無限さんには意外に素直に従うんだな……

 そんな話をしてるとアレク電機の川越常務から連絡が入った。


『先日、お預かりした発電所用の魔道式タービンの試作品が完成しましたので試運転を行いたいと思うのですが、小栗さんも参加されませんか?』

『いつでしょうか?』


『茨城県の鹿島にある火力発電所のメンテナンス中だった物を試験に使うことになりました。来週の水曜日の予定です』

『あれ? 原発ではないんですね』


『現状では原発は放射能の残留数値が大きくてとても、作業ができる状況ではありませんので、原発に関しては一年後に放射性物質が失われてからの改修になります』

『あ、その問題がありましたね。解りました』


 火曜日がポーラ王女の歓迎晩さん会の予定だから、その翌日か……予定がぎゅうぎゅうに詰まっているけど、対応は急がなくちゃいけないししょうがないよな。


 この日の午後は予定がなかったので、鳥取の実家へと転移で戻った。

 実家は鳥取砂丘の傍で土産物屋と雑貨屋が一緒になった店を経営している。

 コンビニに改装しようかと話も出たことがあるが、大手コンビニの本部から収益が見込めないからと断られた過去があるような場所だ。


「親父、これリフォームにでも使ってくれ」


 そう言って先日の出演料の五百万円を渡した。


「おう、助かる。海が近くなっちまったから、塩害対応のリフォームは必要だなぁって話を母さんとしてたんだ」

「砂丘は高低差もあったから砂浜も残ってるんだろ?」


「そうだな、よそに比べれば被害は少なかったんだろうけど。そのおかげで海を求めて人が大勢やってきて、今までの静かな町ではなくなってきたな。うちは少し売り上げが伸びて助かってる」

「そうなんだ、でも過疎化の進んだ街だったから街としてはいいことなんじゃないのか?」


「どっちがいいかはまだ分からんが年寄りばかりになった街だからな。若い人間がたくさん来ると、温度差を感じて中々大変みたいだ。県知事や市長は砂丘を元の広さに戻してもっと人を呼び込もうとしてるけどな」

「緑地化したところを砂浜に戻すってことか?」


「ああ他の土地との差別化が出来るからな。ただ、元々の人口も大手の企業も少ないから意見は出ても、開発資金はどうするんだ? っていう話になってるみたいだ」


 俺はその話を聞いて少し考えた後でひらめいた。


「親父『砂の国銀行』って鳥取が本店だったよな?」

「ああ、そうだ」


「今、うちの会社に前の頭取だった財前さんが在籍してるんだけど、鳥取砂丘の開発だったら資金的には何とかしてくれるんじゃないかな」

「そんな簡単に決められる話なのか?」


「そうだな、俺じゃよく分からないけど財前さんなら県や市を相手にしても話をできると思うから話してみるよ」

「ただの派遣社員だったお前が、いつの間にか一端になって来たな。この街の未来が暮らしやすい街になるように俺もまだ少しは頑張らなきゃならないな」


「頑張れよ親父。まだ五十代半ばなんだからこの街じゃ若者に入るだろ?」

「五十代で若者って言われる現状が怖いがな」


 その後、財前さんとも相談した結果、砂の国銀行が旧砂丘部分の七割近くを買い取って再開発を行う話になる。

 

 砂丘近辺に県外から移住してくる人間には低金利の融資が行われ、元々の住民には事業性資金の融資や補助金を充実させることで、街に活気を与えることになる。


 当初『砂の国銀行』は元頭取とはいえ財前さんの提案に消極的な意見もあったが、もし町おこしに失敗した場合は魔道発電機の大型生産拠点を誘致すると言う話を約束したら簡単に話がまとまったそうだ。

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