第104話 バーベキュー
「英語は喋れるか?」
「イエス」
労役に付いていた鉱山から連れてきたタイフーン級の機関長と副機関長は二人とも英語での意思疎通は可能だった。
機関長の男は五十歳前後だろうスラブ系の民族に見える。
副機関長の男は、顔全体を覆うような髭を蓄え、イラン人ぽいかな? と思った。
尋問をすると時間がかかりそうだし面倒なので、早々に用件を伝える。
「お前たちが搭乗していたタイフーン級の修理と改装を行うが、この艦の仕様が独特な物なので、調べながら行うと時間がかかる。積極的に協力をするなら今後の扱いに融通を図ることもある。まあ、拒否をするなら隷属術で強制的に必要なことだけを命令するだけだがな」
二人とも拿捕をされて以降の扱いで既に心が折れていて、協力をすると言ってきた。
「バーン大佐、よろしくお願いします。できればこの艦に搭載されていた、兵器なども一覧にして教えていただければ助かりますが、兵器自体はカージノでは必要としませんので、バーン大佐のほうで回収していただいても構いません」
俺がそう伝えるとバーン大佐は驚いたように俺に尋ねる。
「エスト伯爵、この艦には可能性としては地球上に存在する最も危険な兵器である核が装備してある可能性もあります。それが搭載されていたとしても興味は無いと言われるのですか?」
「そうですね。大佐も既にご存じでしょう? 後一年以内には地球上の既存のエネルギー源であった化石燃料や放射性物質は消滅します。カージノ王国では元からそういった資源は存在しないので全く影響はありませんし、使えなくなる兵器を手にすることに全く意味はありませんので」
「伯爵、それを認識されているならこの原子力潜水艦を修理しても運用ができないのではありませんか?」
「当然そう思われるでしょうが、我が国が欲しかった技術は海中の航行が出来る艦艇と言う部分であり動力源に関しては修理を終えれば魔道エンジンへと換装を行う予定です。この技術はバーン大佐の国でも興味を持っていただけるのではないでしょうか?」
「……はい、大変興味深いです。現在利用している艦艇は伯爵が仰られるように、一年後には一切の利用が出来なくなる見通しになっています。それを防ぐ技術があるなら是非、ご教授いただきたいとも思います」
「無条件で技術を提供する事はありませんが、軍事以外の分野においては出来る限り協力が出来ればとも考えています。それではよろしくお願いします。連絡は突発的な問題が起こらない限り一日一度電話連絡でお願いします」
それだけを言い残して俺はホタルと東雲さんを迎えに行くためにギャンブリーのダンジョンへと転移を行った。
ダンジョン内では電波は通じないためにホタルに念話で話しかける。
『ホタル、俺の用事は終わったが狩りは順調か?』
『あ、先輩、思ったより早かったですね。狩りは順調ですね。スライム系統以外ならサックサク狩れてます』
『そうか【聖女】はやっぱり結構なチート職みたいだな。でもオグリーヌでもホタルや無限さんみたいなモンスターの倒し方を想定してなかっただろうけどな』
『どうしましょう、もう出たほうがいいですか?』
『東雲さんが満足してるなら帰ろうか』
『聞いてみますね』
東雲さんに確認したホタルから『今から出ます』と連絡が入り俺は入口辺りでマーケットを眺めながら待っていた。
その時(ダンジョンの周りの空気っていうか雰囲気は街の中と気配が違うよな)と感じていた。
「先輩、おまたせー」
「お待たせしました」
魔素を感じながらダンジョンの入口辺りでボーっとしていた俺に二人が声をかけてきた。
「どうでしたか東雲さん。新しい刀の切れ味は」
「はい、十分に満足できました。スキルも剣豪のレベル2まで育ちましたから、特技の確認をしながら狩りをしていました」
「先輩、ドロップでオークのお肉がいっぱい出ましたから、今日はお家焼肉パーティしましょう」
「お、それは楽しみだな。まだ焼肉のたれでオーク肉とか食べたことなかったしな。牛肉って言うかミノタウロスなのか? それは手に入らなかったのか?」
「私たちの行った階層では出なかったですね。折角ですからここのマーケットで買っていきましょう」
「そうだな」
ホタルの提案で焼肉をする事にして、マーケットでミノタウロスの肉も購入して日本へと戻った。
日本へ戻ると近所のデパートへ行き、野菜や食べ比べるために日本の銘柄牛や豚肉も買い込む。
勿論、ビールとワインも大量に買い込んだ。
「先輩、部屋の中だと臭くなりませんか?」
「ああ、そうだな。どうしよう」
「カージノ大使館の庭園でバーベキューとかどうですか?」
「そうするか。それならバーベキューセット買ってくるな。無限さんと藤崎さんも事務所に居たら誘っておいてくれ」
「わかりました。移動はどうしましょう?」
「エストと商談だと言って堂々と正面の税関から入っていいんじゃないか? むしろその方が庭園でバーベキューしてても不自然さがないし。食材系はマジックバッグで持って行ってくれ検疫とか言われたら面倒だし」
「了解です」
量販店でバーベキューセットと炭を買い込みカージノ大使館へ行くと、フローラとフラワーが東雲さんと一緒に肉と野菜のカットなどをしてくれていた。
無限さんと藤崎さんはホタルと一緒にテーブルや食器の準備を手伝っていた。
「お待たせしました」
俺は一応エスの姿で現れて、バーベキューセットを用意すると火魔法で一気に炭をおこした。
テーブルには日本の銘柄牛や豚肉と魔獣の肉が分かるように並べてある。
魔獣の肉はサシが入っていると言うよりも、脂身が赤身の中に溶け込んでいるようなきれいなピンク色をしていて、見るからに美味しそうだ。
肉を焼き始めると藤崎さんが取り仕切った。
表面をさっと炙ったミディアムレアの状態でどんどんと焼いて行く。
オーク肉は噛むと口の中にジューシーな旨味が広がる。
ミノタウロスはとろけるような柔らかさだ。
比較のために買ってきていた国産の高級豚や松阪牛と比べても格別の美味しさだった。
「小栗君、この肉は本当に旨いなぁ、フローラやフラワーと一緒にこんなに美味しい食事を楽しめるなんて正に夢心地だよ。早く拠点をカージノに移して、もっと大勢の獣人たちとの夢の時間を過ごしたいな。私の【聖女】の能力もこの国では色々な問題が出るがカージノでなら、人助けのために役立てることは十分に可能だろうしね」
「私もです。マリンスポーツを愛する人たちと一緒に過ごすカージノでの生活を考えるとワクワクします」
基本的にこの二人は自分の欲望に忠実だよな。
悪いことではないんだけど、地球上に現れるモンスターの対処の問題なんかのほうが重要度は高いと思うけど……
フローラとフラワーも超高級なバーベキューをとても楽しんでいた。
俺たちだけではとても食べきれない量があったのでセバスチャンを呼びこの大使館に勤務する従業員も呼んで夜遅くまで楽しんだ。
大使館の料理人たちは食材よりも、焼き肉のたれなどの調味料に興味を示し、セバスチャンはワインとビールの出来の良さに感心していた。
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