第103話 修理船の到着
「ホタル、大変だったみたいだな」
「もう参りましたよ、わが親ながら韓流スターを紹介してやるって言われて娘を売るとか信じられないでしょ」
「それは俺の口からどうとか言いにくいから今は置いとくにして、そいつらって政府がらみだったりしたの?」
「いえ、財閥系の会社の独断で動いてたみたいですね。お母さんと直接コンタクトを取っていた日本人は探偵事務所の人間でした」
「そっか、今はカージノ大使の歓迎晩さん会を控えてるし、各国の政府はそれが終わるまでは中途半端な判断は出来ないだろうからな」
「そうでしょうね、でもあのチェと名乗る人は自分の所の会社が決めてしまえば、政府は逆らえないみたいな感じにとらえていたようですね」
「俺もホタルも隙を作らないようにするしかないよな」
「ですね、先輩のご両親のとこは大丈夫なんですか?」
「ああホタルの話を聞いて心配になったから、すぐに連絡を入れてみたよ。やっぱり政治家とか怪しい企業から紹介してくれと言う連絡は入ってたみたいだな。うちの親父は全く取り合わないで「本人に直接聞け!」って言って相手にしてないみたいだけどな」
「日本の政治家って特に野党はどうしようもないですよね。与党のすることに反対って言うだけで碌な代案も用意してないんですから」
「そうだな、それで俺やホタルを手のうちに入れたら何でも言うことを聞くしかないだろうっていう程度の考えだから、営利誘拐の犯人と大差ない思考回路だよ」
ホタルが実家から戻ってくると、色々フラストレーションが溜ったようで、マシンガンのようにしゃべり続けていた。
そこに東雲さんが口をはさんだ。
「ホタルさん、今日ご実家でお預かりした、ホタルさんへの面会希望のリストですが、やはり半数以上が国外勢力との関連がある方々でした。現時点ではただ会いたいと言う希望を出されただけですので、処罰を科すわけでも無いのですが、念のためにご実家には警備局から人員が派遣され監視対象となります」
「しょうがないですね、うちの母もちょっと調子に乗りすぎてたところがあるし、しばらくは大人しくしてもらいましょう」
「小栗さん、明日は何時から出られるんですか?」
「こっちを朝の五時には出ます。どうかされましたか?」
「はい、ダンジョンで少し鍛えようと思いまして。折角刀も用意していただけましたし」
東雲さんがそう言うとホタルも便乗した。
「私も今日のうっぷん晴らしで、ダンジョンで思いっきり発散してきたいです。東雲さん一人だと怪我とかしたら心配ですし」
「そうか、ホタルと一緒なら俺も安心できるな。了解だ。朝五時に俺の部屋へ来てくれ」
◇◆◇◆
翌朝は予定通りに朝一でカージノに渡り、ホタルと東雲さんをダンジョンに送り届けると俺はギャンブリーの屋敷に戻り、バーン大佐へ連絡を入れる。
『バーン大佐、エストです。到着は予定通りでしょうか?』
『伯爵、以前『ランフォアローゼス』が停泊していた座標に到着しております。作業は結界の内部ということでよろしかったでしょうか?』
『はい、私が搭乗していないと結界内部に侵入できませんのでそちらの船に転移を行います』
『お待ちしています』
修理船のデッキへと転移を発動するとバーン大佐が出迎えてくれた。
「エスト伯爵、ようこそおいでくださいました。潜水艦の修理に関しては責任をもって行いますのでお任せください」
「大佐はこの船にずっといらっしゃる予定ですか?」
「はいご存じのように『ランフォアローゼス』は損傷が激しく修理にはまだ一月以上の期間を要します。その間は出来る限りエスト伯爵の信頼を勝ち取って来いと命令を受けました」
「それは、願ってもないことです。では早速結界内部へと回航しましょう」
俺が乗船しているとこの修理船は問題なく結界をすり抜けることが出来た。
陸地から一カイリ地点へ錨を下ろすと、俺はこの修理船を包み込むような範囲でさらに結界を張った。
当然、潜水艦の修理を行うにあたって万一の放射能漏れを懸念したのも理由の一つだが、この修理船の乗員がスパイとしての命令を帯びていないと言う保証も無いため、勝手に上陸されることを防ぐためだ。
この修理船にも輸送用ヘリが搭載してあったために、一応バーン大佐に伝えておく。
「大佐、ヘリでのカージノ大陸への移動は禁止させていただきますが問題はありませんか?」
「残念ですが、了解しました。今、ヘリでのと条件を出されましたが、カッターボートを使った上陸などは問題ないのでしょうか?」
「チャレンジされるのは自由ですが、恐らくたどり着けないでしょう。この修理船の周囲を大陸全体を覆う結界よりも更に強固な結界で囲んでいますので。ヘリでの移動を禁止させていただいたのは、ヘリだと結界に触れた時点で爆発するので注意喚起のために禁止とお伝えしました。カッターボートでは爆発はしませんが、恐らく結界は通り抜けれないでしょう」
「まだ我々は信頼に値しないと?」
「そうではありませんが、仮にカージノ国内のモンスターを外国人が倒した場合、大陸周囲の結界の通り抜けが可能になります。その場合結界による防衛に不確定要素ができるので、一律に禁止させていただいております」
「了解しました。早速ですが修理対象のタイフーン級はどちらに?」
「私がスキルで収納しております。一応鑑定をかけて放射能漏れは起こしていないと出ておりますのでご安心ください」
そう伝えると、俺のインベントリからタイフーン級の潜水艦を取り出した。
作業員たちが防護服を着用してガイガーカウンターを持ち、放射能漏れの検査をしながら、修理船に潜水艦を固定していく。
改めて確認するが、見た目は前部の陥没部分以外には問題はなさそうだ。
「この潜水艦は我が国の艦とは色々と仕様が違いますので最初に構造を調べるための時間をいただきます」
その言葉を聞いて俺は思いついた。
「バーン大佐、この艦の機関長を連れてきましょうか? 現在、労役につかせていますが、カージノでは犯罪者は隷属スキルで支配したうえで、罪の償いを行わせるので命令には従いますよ」
「それは助かります。ところでこの間の乗員たちがどこの勢力であったのかは調べはついているのでしょうか?」
「現時点ではそれを聞いても対処の決定をするための材料が少ないために調べていません。駐日カージノ大使の着任披露会が無事完了すれば、参加国に確認をしたうえで敵対国だと判断された場合、処刑の可能性まであります」
「そうですか、仮に敵対国家の攻撃と判断した場合は報復攻撃の可能性はあるのでしょうか?」
「それは陛下の判断次第です。そうならないことを願いますが、仮にバーン大佐の国が他国から攻撃を受けた場合は必ず報復を行われるのではないでしょうか?」
「確かにその可能性は高いですね」
俺は一度陛下に確認を取るために王宮へ向かい、潜水艦の機関に詳しい人間をギャラガ侯爵領から移動させる許可をもらうと、ギャラガ侯爵の元へと再び転移し機関長と副機関長の二名を連れ出し修理船へ戻った。
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