第101話 自動車メーカーの対策

 魔道発電機の発表会も大盛況に終わり、斎藤社長たちが俺と東雲さんのいる控室にやって来た。


「想像以上の反響でしたね」

「そうだな、海外メディアが大勢来ていて質問も専門的な内容が多かったからアレク電機の技術陣が対応してくれたけど、それでも魔道送風機やミスリルのことを聞かれると回答に窮していたね」


「その辺りは魔法技術ありきですからしょうがないですね。実際ミスリルなんて錬金術師が魔力を練り込みながら銀を圧縮して作り上げる過程で質量が百分の一まで減ってしまう現象が起こるので、この世界の理では説明できませんし、そういうもんだと言うしかないですよね」

「実際、小栗君としてはどうなんですか? 需要を満たすだけの魔道送風機の生産を行うだけでも手一杯にならないですか?」


「その辺りは俺の場合、ステータスが一般的なカージノ王国の魔道具師と比べると圧倒的に高いですから、一度に千台単位で生産可能ですし、問題は無いと思います。それにカージノ国内の魔道具師たちにも、共通の仕様書で作れるようにすれば、カージノ国内でも産業として成り立ちますから」

「カージノ国内の産業の保護は大事でしょうね、家電品が流通し始めれば魔道具職人さんたちが独占的に行っていた魔道具の受注は落ち込む要因になるでしょうから」


「そろそろ時間になりますね、行きましょうか社長」


 定刻を迎え自動車メーカーの代表者たちが集まった中で会議は始まった。

 JLJ側は財前さんと大崎さんも含め五人体制。

 アレク電機の川越常務も参加してくれる。

 最初に資源エネルギー庁の円谷さんが大前提を話す。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。資源エネルギー庁の円谷です。まず初めに既に取りざたされている問題として、世界中で化石燃料の枯渇が話題として挙がっていますが、これは事実です。石油、天然ガス、ウランなどの放射性物質は今後一年を待たず世界中で入手不能となります。その事実を認識していただいた上で各メーカーさんには対応策を検討していただく事となります」


 いきなりの発表に出席者がざわつく。

 国内最大手T自動者の社長から手が上がる。


「T自動車の武田です。化石燃料や放射性物質のすべてが入手困難となると発電も出来ないということでしょうか?」

「発電に関しては本日同席されているJLJ社さんの提案される方式により対応できる予定です」


「JLJ社さんが提案されるということはカージノ大陸の魔道技術ということでしょうか」


 ここで俺が対応を替わる。


「JLJ社の小栗です。はい現在JLJ社では本日発表した家庭用の魔道発電機を大規模にした既存発電所のタービンを回すための魔道装置を、アレク電機さんと共同で国内電力会社の協力の元、開発しています」

「それは素晴らしいことだと思いますが、魔道発電を行うためには魔石と呼ばれる魔法結晶が必要だと聞いています。日本だけの問題でなく世界中の電力を賄えるだけの魔石は確保できる当てはあるのでしょうか?」


「その件に関しては現状はカージノ王国からの輸入に頼ることにはなりますが、そのためにカージノ王国との良好な関係を築けるよう財界からの支援もよろしくお願いいたします」

「その件は了解しましたが、発電ができるのであれば現在世界中で開発が進んでいるEV化を前倒しで実行することで対応することになりますね。


「当然そのお答えが返ってくると思いましたが、JLJ社が提案したいのは現在国内で稼働する八千二百万台にも上る既存車両を活用するべきではないかということです。エンジンだけを魔道エンジンに換装してしまう事で既存車両をそのまま利用できるようにと言う提案です。各メーカーが直接エンジンの換装に協力していただければ世界中で起こる混乱を避けることは出来るのではないでしょうか?」

「そのエンジンの提供はJLJ一社で行えるのですか」


「台数的には対応できると思います。国外に振り分ける数も必要になるでしょうから、すべての車両に対応するのは難しいですが、製造後十年未満の車両に関しては政府からの補助金なども含めて対応できればと思います」

「今ここで決定できるような問題ではありませんので、各車種に対応した試作機を準備していただき、その動作確認を行ったうえでお返事をさせていただきましょう」


「わかりました。ただし提供するエンジンに関しては車種やメーカーごとに違う物を用意するのは不可能ですので、自動車各社で共通のプラットホームを決めていただきたいと思います。出力やトルクは十分に出せるようにしますが、形態としては魔石駆動のモータータイプのエンジンとなりますので、駆動系等との繋ぎ込みは各メーカーにお任せすることになります」

「了解しました。早急に仕様書を纏めましょう」


 最後に円谷さんが喫緊の問題を告げる。


「各メーカーさんにお願いしたいのは、昨日以降エネルギー関連の企業の株価が大幅な暴落をはじめ、市場はパニック状態に陥っています。これを食い止めるには対応策を一刻も早く世界に向けて発表するしかありませんので、各社の思惑などで足並みがそろわない事態は避けてくださるようお願いします」


 そこまでで、この会議は終了して俺たちは帰路へ着いたが、自動車メーカーの方々はその後も協議を続けたようで、その日の夜には今日話し合われた内容で合意に至り既存車両のエンジンの置き換えをメーカー主導で行われることが発表された。

 

 ただ、この合意はあくまでも日本国内のメーカーだけの話であったので、海外メーカーを中心にもう一波乱おこるのは、また別の話だ。

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