第100話 魔道発電機の発表
アレク電機の川越常務から送られてきた発電所向けのタービンを回せるだけの出力を稼げる送風機の仕様書を眺める。
強度的にやはりミスリルだけでは限界値を超えそうだ。
(オリハルコンか……)
オリハルコンと呼ばれる魔法金属は、単純には魔道錬金されたゴールドとなる。
その過程で質量の変化なども起こるため、ゴールドに対して一対百ほどのレートとなる。
アズマはスキルによってオリハルコンの錬成は行えるが、何もないところからゴールドを作り出すような手段は存在しない。
日本で大量のゴールドを購入するのは難しいので、ギャンブリーの街へと転移を行った。
商業ギルドに行き価格の確認をする。
シルバー 一グラム 百ゴル
ゴールド 一グラム 一万二千ゴル
ミスリル 一グラム 二万ゴル
オリハルコン 一グラム 百二十万ゴル
(たっけーな)
まあ俺は自分で錬金できるから、ゴールドに対しての価格で五十倍程度になるからいいんだけど……
仕様書通りのサイズで製造するならミスリルでベースを作り、オリハルコンを厚めにコーティングする事で出力に対しての強度は足りるだろう。
それでも必要な量を出せば、タービン一基に付きミスリルが一トン、オリハルコンが二十キログラムほどになる。
市場価格でミスリルで二百億ゴル、オリハルコンが二百四十億ゴルほどの価格になるな。
俺の取り分としては、錬金を使う事での市場価格との差額で五十パーセント。
更に大型魔道送風機の制作料で一基十億ゴルは請求できるだろう。
一台で二百三十億ゴルの利益か、悪くないな。
最終的には世界中の発電所を改造することになるだろうし、魔道送風機とタービンを接続する部品を担当するアレク電機の利益も恐ろしい額になるだろうな。
早速商業ギルドで必要なだけのシルバーとゴールドを二基分に相当する量、購入した。
ギャンブリーの屋敷の俺の部屋で錬金を行いミスリルとオリハルコンに変換した後で仕様書に沿ったサイズで魔道送風機を作成した。
出来上がった送風機を持って誰もいない俺の領地である、サジタリウス地区の海岸線に転移して試運転を行った。
魔力を流すと静かに起動する。
出力も十分だし、熱も持たない。
(よし、完成だ)
時間も合同記者会見に向かうのにちょうどいい時間になったので、日本へと帰還した。
俺の部屋に転移して下の事務所に降りていくと早速、東雲さんにつかまった。
「小栗さん? 朝からどこに行かれていたんですか? 朝食のお誘いだけだったので念話まではしなかったんですけど、一応どこに行くかは明らかにしていただかないと困ります」
「ああゴメンゴメン。朝早かったから起こすのも悪いと思って一人でカージノで行動してたんだ。あっちは四時間早いからね。ほら、発電所向けの大型魔道送風機を作る材料の確保とかしてたんだよ。それに生産するにもトン単位の重さの機械をここの二階で作ると建物が傾きそうだろ?」
「そういう事だったんですね。それはでも今後を考えたら日本に生産に使用できる場所を用意したほうが良いということですか?」
「いや生産はカージノでやった方がいいと思う。日本だとセキュリティの問題とかもありそうだし、納品なんかもアレク電機さんの倉庫に直接卸す方がいいと思うからね」
「うーん、政府側の立場だと搬入方法などが説明できない手段は困るんですけど、セキュリティの問題を考えればそのほうが良いのも理解できます。当面は島長官とも相談して特例措置をとるにしても、説明がつく手段をとる必要はありますね」
そこにホタルも会話に加わってきた。
「特例が使えるならアレク電機の倉庫とカージノ大使館って言うか税関施設との間に転移の扉を一つ設置すればいいんじゃないですか? 主にカージノ向け発電機の生産のために利用するんですから、カージノ側が準備しても不自然にはならないですし、税関の中までであれば、カージノ側に危険が及ぶことも無いですから」
「ふむ、なるほどな東雲さん、その内容で島長官と調整しておいてくれ。あくまでも突っ込みが入った時の回答として用意するってスタンスだけどね」
「了解です」
「それと、明日も午前中はカージノに行くことになるけど、潜水艦がらみでアメリカのドック船との話になるし日本側の人間は参加できないから東雲さんはお留守番ね」
「わかりました」
斎藤社長たちが準備を整え経団連の事務所へと行く時間になった。
今日のメンバーは斎藤社長、財前さん、大崎さんがメインで、俺と東雲さんは会見後の自動車メーカーとの会合に参加することになる。
「ホタルはどうするんだ?」
「私は、少し実家によって荷物取ってきます、先輩のマジックバッグ借りていきますね」
「ああ了解だ。お袋さんは大丈夫なのか?」
「なんだかんだ言ってずっと顔を合わせてないですから少しは心配なんです。まあ理不尽なこと言ってきたら、さっさと逃げますけど」
「気を付けてな」
経団連へと到着して社長たちが合同記者会見へと参加する中、俺と東雲さんは別室でモニターを眺めていた。
今回の記者会見は国外メディアも取材をさせてくれとの申し込みが相次いだために、俺が会場に現れるのは危険と東雲さんが判断したからだ。
アレク電機も川越常務だけでなく会長、社長、開発研究班のフルメンバーで来ている。
電力会社も各社の社長が参加していて今回の発表への本気度合いが伺える。
「小栗さん、今日の発表は若干変更がありそうですね」
「ん? どの部分で」
「昨日の番組以降掲示板を中心にエネルギーの枯渇問題が叫ばれて、燃料系、自動車関連、運輸関連と燃料に関係の深い株価が大幅に下落して世界中で証券関係はパニック状態に陥っているのは聞かれてますか?」
「えっもうそこまで大騒ぎになってたんだ、午前中ずっとカージノに行ってたからその情報は聞いてなかった」
「そうなんですね、関係の深い所でも福山さんの会社なんかは午前中だけで株価が十パーセントも下落したそうですよ?」
「JLJとの合弁会社は非上場だから全く関係ないだろ?」
「そうなんですけど、それでもダメージが皆無とは言えないですよね」
「うーん、困ったな。現れたらそれはそれで困るけどモンスターが出現してくれて魔石が取れるようになりました! って言えるようにならないとこの流れは止まらないかもしれないな。少しでも市場を落ち着かせるために、自動車、航空機、船舶に関しては魔道エネルギーで対応できることを発表したほうがいいのかな?」
「そうですね、政府の名前で発表すると実施時期などが明確にされてないと上げ足を取られるだけになりそうですし、JLJが発表する方がいいのかもしれませんね。一応、島長官に確認を取りましょうか?」
「そうだな。連絡を頼んでいいか」
「はい」
東雲さんが島長官に連絡を取るとすぐに俺と電話を替わるよう伝えられ、スマホを俺に渡してきた。
「小栗君。今、東雲君から連絡のあった件だが週末のポーラ王女の就任晩餐会までは具体的な発表は控えようと思う。その方がカージノ王国が今のこの地球において必要な存在であると認められやすい流れになるでしょうから」
「わかりました。それでは今日の自動車業界との会合は内々で技術的に問題解決が可能であるということと、共通規格の魔道エンジンを開発するという意思確認にとどめます。航空機と船舶に関して出力の問題だけで自動車以上に対応が簡単だということはお伝えしておきます」
「そうか安心したよ。晩餐会の後は小栗君も忙しくなるが協力を頼むな」
合同発表会のほうは実際に発電機の稼働をさせてその性能を目の当たりにすると歓声が上がっていた。
当面は医療機関と公共機関において日本国内でも試験導入を行う予定もあることを発表された。
魔石に関してはJLJ経由で各電力会社が供給する予定となる。
王都の商業ギルドに注文しないと必要数の確保は大変かもな?
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