第97話 テレビ番組①

 午前中は魔道発電機の中核部品となる魔道送風機の輸入方法についての関係各所への確認作業に追われた。


 島長官に連絡をして、資源エネルギー庁の円谷さんとも確認を取ったところ魔道送風機の輸入に関しては現状では扇風機を輸入するのと変わらない扱いにしかならないとの事だったので、法律で禁止されるような問題は起こらないとの見解になった。


 ただし、輸入手段がカージノ大使館に設置してある転移の扉を使い、マジックバッグに詰めた状態での日本国内への持ち込みとなるため若干のグレーな感じは否めない。


(本当は、JLJ事務所の二階でアズマが錬金コピーで作るのだが、そんな発表は出来ないので輸入していると発表するだけだが……)


 これに関しては逆に製品として完成した魔道発電機を出荷する段階でアレク電機側に正確な出荷数を管理してもらう方法で対応することになった。

 その辺りの確認作業を終えると魔道発電機の公式発表を明日の昼過ぎに経団連の事務所で行うことが決定される。


 財前さんが俺に確認を取る。


「小栗君、明日なんだが合同記者会見の後で経団連の事務所に自動車関連のメーカーの代表者が集まるように手配してある。そこで魔道送風機ベースのモータータイプのエンジン開発プロジェクトを立ち上げる予定だ。そちらの方には顔を出してもらえないか?」

「分かりました」


◇◆◇◆


 午後の二時を回り、そろそろホタルと一緒にテレビ局へ向かう準備をしていると無限さんが声をかけてきた。


「小栗君。今日の番組は僕と藤崎さんも一緒に出演することになったから、僕の車で一緒に出掛けよう」

「えっ? 無限さんも出るんですか?」


「ああ、先ほど斎藤社長とも少し話したんだけど、僕と藤崎さんのプロジェクトに関しては、カージノとの国交が正式に始まった以上は発表しても問題ないという話になったので、番組を利用してしっかりとPRを行うつもりだ」

「そうなんですね。その内容を入れるなら、かなり時間を潰してもらえそうで助かります」


「それでなんだけど視聴者の方がイメージしやすいように、ウマ娘の二人も一緒に来てもらう事ってできるかな?」

「フローラとフラワーですか? そうですね。もうパスポートも持ってますから不可能でなないですね、どうせならメイド服よりもレースのコスチュームのほうが良いかもしれませんね。着替えを用意させて連れてきましょう」


 俺が一度大使館へ行き、フローラとフラワーに声をかけて税関から外に出るように指示をした。

 税関の前にはホタルが迎えに行って、俺は再び転移で事務所に戻ると藤崎さんを含む六人で無限さんのアルファードに乗り込み、テレビ局へと向かった。


 テレビ局へ着くと結構広めの控室も用意されていた。

 フローラとフラワーはホタルの控室に一緒にいてもらう。


 十分ほどで呼びに来て、ミーティングルームへ移動する。

 ミーティングルームには局アナさんが二人と番組プロデューサー、ディレクター、アシスタントディレクター三人が並び、こちら側の六人と対峙して座った。


 生番組なので放送事故が起こらないようにタイムスケジュールと質問する内容なども事前に書き出してある。

 急追参加することになった、フローラとフラワーの絵面がとても良いので、番組プロデューサーの人が喜んでいた。

 日本語はあいさつ程度しか喋れないけどね!


 無限さんと藤崎さんが参加することにより、JLJと言う会社の活動にもスポットを当てて事業内容の紹介なども行うことになる。


 俺とホタルにはカージノの文化、魔法、魔道具の説明と、日本とカージノが友好的に交流することが出来るのか? と言うことにスポットを当てた質問がメインになる。


 進行自体はアナウンサーが行うので、質問に答えていくだけなら、なんとか乗り切れるだろう。

 

 大体の打ち合わせが終わり、いよいよ本番がスタートする。

 ミーティングの時には居なかったけど、コメンテイターとして大学教授や弁護士さんも並んでいて、結構よくテレビで見かける芸人さんやアイドルの姿もあった。


「本日は緊急特番として『ダービーキングダム』号で旅行中に異世界転移を経験され、カージノ大陸と共に地球へ帰還されたお二方『小栗東』さんと『蘭蛍』さんのお二方を中心にカージノ大陸で生まれ育った馬獣人であるお二人『フローラ』さん『フラワー』さん。それにカージノ王国との共同事業を行うために設立されたJLJ社でプロジェクトリーダーを務め、ファンタジー作家でもある『夢幻』さん。同じくJLJ社のプロジェクトリーダーで空間コーディネーターとしても活動をされる『藤崎潤子』さんをお招きして、カージノ王国の文化とこれからのカージノ王国と日本や世界との関係に関して掘り下げていきたいと思います。番組専用SNSにおいて、放送時間中に質問の受付も行っておりますので、じゃんじゃん書き込みをお願いします」


 そんな感じで始まった番組は、予想外の質問などもありつつ進行した。


「小栗さん、視聴者の方からの質問で一番多いのは意外にカージノ大陸の事よりも、なぜ『ダービーキングダム』に小栗さんと蘭さんが一緒に乗っていたのですか? という質問だったのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 ゴシップ系の話題好きすぎだろ! と心の中で突っ込みを入れながらも、今日は敢えてそんな質問にも答えることにした。


「最初にお断りしておきますが、俺とホタルは別にお付き合いしているとかそういう関係ではないんです。本当に偶然と言うか私が競馬のWIN5で的中させた時に偶々競馬場で会って、なんとなくそんな話になっただけなんですよね」


 その回答に、スタジオは妙に盛り上がった。

 ゲストの芸人さんを中心に質問が飛んでくる。


「WIN5って、いくら当たったんですか?」

「いやあ、ちょっとびっくりされるかもしれませんけど、五か月ほど前に六億円の配当があったニュースってみませんでしたか? それ当てたのが私ですね」


「マジですか! いいんですかそんな事言っちゃって」

「ネット購入ですし、税金とか逃れようがないですから構いません。まあそれでホタルが語学を極めるのに海外を見て回りたいっていう話になって、その当時派遣社員だった私は六億円手にして派遣社員を続けるモチベーションにもならなかったので、思い切って会社を辞めて、『ダービーキングダム』でホタルと一緒に旅行に出かけたんです。もちろん費用は驕りとかじゃなくて貸しただけですよ?」


 予定通りカージノの文化紹介や、魔法の存在、魔道具の紹介も行い、無限さんの地方競馬とスポーツ振興くじ事業の発表もあり、フローラとフラワーが競走用のコスチュームでスタジオを軽く走って見せたりしたのも盛り上がった。


 藤崎さんのカージノでのマリンスポーツツアーが一般の人たちがカージノへ行くためには、もっとも早く実現できそうだという話も出たが「まだ海岸地域だけでカージノ大陸の街への入場が出来るようになるまでは、時間がかかりそうです」と言うと残念そうなコメントが相次いだ。


「カージノ国内で沿岸部分以外に入れないのは理由があるんでしょうか?」

「それは現状ではカージノ王国は大陸全土が結界に覆われていて、女神オグリーヌの加護を持っていないと結界の通り抜けが出来ないのです。外国人が加護を身につけることがあれば、結界の有効性が低下するために、王室からの許可が出ないという事ですね」


「加護ですか? えーと小栗さん、カージノ大陸には本当に神様が存在しているんですか?」


 俺はここで少しネタを投下してあげた。

 信じる信じないは勝手だけど、きっとこの発言は色々ヤバイ盛り上がりを見せるだろうな。


「えーと、カージノ大陸には神様が存在しているのですか? と言う話ですが勿論存在していらっしゃいます。でも、別にカージノだけではなくこの地球にも当然存在してらっしゃるそうですよ? 信仰の度合いによって加護は変わるのでしょうが、少なくともカージノで生まれればみんな当たり前のように、オグリーヌ様を信仰していますね」

「それは本気でおっしゃられてるのですか?」


「そうですね。カージノで実際加護を授かった私としては、信じる以外の判断はできません」


 その発言でまた盛り上がる。


「小栗さんの加護はどんなものを貰ったのですか?」


 わかりやすく目立つのがいいかと思って「【火魔法】を使えます」と言ってみた。


「見せていただく事は出来ますか?」

「大丈夫ですけど、このスタジオで火使っていいんですか?」


「あまり大きなものでなければ大丈夫です」と言われたので、掌の上にソフトボールより少し大きい程度の火の玉を出し、体の周りを魔力操作でクルクル回して見せた。


 なんだか大道芸人のようだ……

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