第95話 ダンジョン初体験

 陛下に謁見し、取り敢えずの潜水艦の乗組員たちの処分の話をした。


「エスト伯爵、拿捕した潜水艦の修理はまだ時間がかかるのか?」

「現在、アメリカの修理船がカージノに向けて回航して来ていますので、到着次第任せることになります。先日も言ったように原子力というとても危険な動力を搭載していますので、念には念を入れた処置が大事だと思いますので」


「わかった。修理が終わればその者どもを使って、潜水艦を運行することは可能になるのか?」

「そうですね、ただし現在、地球のエネルギー源であった化石エネルギーや放射性物質が、魔素への変異を始めているようですので、潜水艦の安全が確認されれば魔道エンジンへの換装を行います。それが成功すれば逆に地球の各国は今後、軍事利用可能な艦艇は失いカージノ王国が海上では圧倒的に有利な状況になるでしょう」


「エスト伯爵は日本を含めカージノ以外の国の艦艇などの改造は引き受けないのか?」

「私がアズマとして日本で引き受ける可能性があるのは商業利用の船舶などに限られます。私が改造した船舶の軍事利用などが確認されれば、厳しい対応をする事になるでしょう」


 陛下との謁見を終えて、中庭に戻るとホタルと東雲さんも王女と一緒にバームクーヘンを食べていた。


「エスト伯爵ー、このバームクーヘンと言うお菓子も大変においしいのです。しっとりした生地に上品な甘さでとても気に入りました。早く日本へ赴任してもっと色々なお菓子を楽しみたいものですね」


 その言葉に対してホタルが余計な知恵をつける。


「王女、大使館へ赴任してしまえばインターネットという技術を使って地球上の色々なスイーツを検索できますから、お取り寄せをしたらいいですよ」


「お取り寄せ? それは何となく楽しそうな響きの言葉ですわ」

「ホタル……王女に余計な知恵をつけるなよ。勝手にジャンジャン取り寄せられても、毒見なしでは王女に出すわけにかないんだぞ?」


「エスト伯爵! 心配しなくても大丈夫ですわ。私の侍女は鑑定のスキルを持った者を採用していますので、毒物などの心配は必要ないのです」

「うーん。くれぐれも我慢できずに鑑定される前の食べ物とか食べないでくださいよ?」


「なんだかエスト伯爵がとっても私を残念な女のように扱うのが気になります」

「そう扱われないような行動を心がけたらいいだけです」


 その後は今日は予定がなかったので、一度ダンジョンを見てみたいと思ってアンドレ隊長へと連絡を入れた。


『アンドレ隊長、アズマです。一度ダンジョンを見ておきたいと思ってですね。案内を頼んでもいいですか?』

『おう、いいぞ。ミッシェルとベーアにも用意をさせて待っている』


 ホタルは聖魔法を使うからいいとして、東雲さんには武器が必要だ。


「東雲さんの希望の武器はありますか?」

「はい、刀ですね」


「それって日本刀ですよね? こっちで日本刀を見たことないですから。武器屋で使えそうなのを見繕ってください」


 ギャンブリーの屋敷へと転移して隊長たちと合流すると冒険者ギルドの側にある武器屋へと向かった。

 俺もこれと言って武器は持ってなかったからこの機会に買っておこうと思い一緒に眺めた。


「ミッシェルさんと隊長には今日の案内のお礼にこれをプレゼントします」


そう言って渡したのは、マジックポーチの容量一立方メートルタイプの物にM4カービンの弾倉に満タン状態で装弾したカートリッジをたっぷり詰めたものを渡した。


「アズマ、これはどうしたんだ? こいつは凄く助かるぞ。もしかして今後も補充できるのか?」

「出来るかできないかで言えば出来るんですけど、恐らく火薬はこの一年以内で使えなくなると思うんですよね。防ぐには時間停止機能のあるマジックポーチに収納しておくしか手段は無いでしょう」


「そうか、アズマはそれを用意できるんじゃないのか?」

「出来ますが、おおっぴらにすれば世界中が現在の軍需物資の延命のために問い合わせてきそうでしょ?」


「確かにそうだな」

「ですので今は用意する予定はありません」


「そうか……」


 ミッシェルが久しぶりに遠慮なくM4カービンをぶっ放せることにとても喜んでいた。

 ミッシェルのスキルにはとても相性がいいしね。


 武器屋に入って東雲さんが剣を見るけどやはり日本刀のような武器は無く比較的細身の剣を選んでいた。

 俺は丈夫そうな両刃で刀身も分厚い大剣を購入した。

 盾を使う予定は無いのでこのほうがいいだろう。


 ベーアが御者を務める馬車に全員腰かけてダンジョンへ向かう。

 馬車で三十分ほど移動した場所にダンジョンは存在した。


 入口周辺は結構にぎわっていてマーケットも開かれたりしている。

 主にポーション系統の薬を扱う店が多いが隊長に確認すると、ここではあまり買わない方がいいと言われた。


「知り合いとかなら問題ないが、ギルド以外で購入した場合は中身が偽物だったりしても、騙された方が悪いというのがこの世界での常識だからな。アダムのような鑑定持ちでないと安心できない」

「そうなんですね……」


 まぁ俺は鑑定もマックスで持っているから問題ないけど、取り敢えずは隊長の言葉に従っておく。


 ダンジョンの中に入って行くと隊長が再び声をかけてくる。


「おさらい的な話だが、ダンジョン内ではモンスターの死体は残らない。倒すと黒い煙に包まれて消えていくが、運が良いとドロップと呼ばれるアイテムや宝箱が残ることがある。解体の手間が省けるからいいと言えばいいんだが、外で倒せば確実に素材が手に入るから、どっちが効率がいいのかは微妙だ。ただ、スキルなどは宝箱からしか手に入らないので一獲千金の夢は圧倒的にダンジョンのほうが高い。ポーションもランクの高いものは安定して作れる人間がいないので、市場で出回っているのはほとんどがダンジョン産のものだ」

「今日は雰囲気の確認と低階層での狩りを少し行う程度にしますので、出来るだけホタルと東雲さんに倒させてあげてください。もしドロップアイテムが出ればそれは全部差し上げますので」


「わかった。ホタルは戦えるのか?」

「こう見えて意外と強いんですよ?」


 そこに、スライムが現れた。

 一般的に思われている通りでプヨプヨしたゼリー状の物体の中心部に核があるような感じだ。


「分かっているとは思うが、核を壊せば倒せる」


 そう隊長が言うが、ホタルには核を直接狙うような手段がなかった……


「先輩、普通に無理そうです。東雲さんに譲ります」


 ホタルがそう言うと、東雲さんが剣をスライムに突き入れ一撃で核を壊した。

 黒い霧に包まれて姿を消すがドロップは現れなかった。


 次に現れたのはゴブリンが三匹だった。

 今度はホタルが、ゴブリンの頭に指を向けてつぶやいた。


「血管つまれー」


 その言葉で発動したのは、聖魔法の治療を利用したスキルだ。

 この間、無限さんと話してた時に思いついたその技の一撃でゴブリンが倒れた。


 黒い霧に包まれて晴れた後には魔石が一つ転がっていた。

 残りの二匹のうちの一匹は俺が大剣を頭上から振り下ろすと、真っ二つになった。

 姿が消えるとそこにはアイテムが三つほど転がっていた。


「凄いなアズマ、ゴブリンから三つもドロップが出るとか初めて見たぞ」


 俺の運のポイントが普通の人よりかなり高いことが影響してるのかと思い、もう一匹のゴブリンの首をはねてみた。

 やはりドロップが三個出ていた。


 間違いないようだ。

 仲間たちとの狩り以外では人前で狩りはしない方がよさそうだな……

 

 ホタルの場合はアンデットが相手だと攻撃魔法が聖魔法の中にもあるが、それ以外の敵は動物型であれば治療魔法を使った血管のつまりを誘発させる方法になる。

 だから先ほどのスライムのような敵には攻撃手段がないってことになる。


 基本、東雲さんと一緒に行動するのであれば問題は無いけど一人だと色々不便が多そうだな。


 二時間ほど使って二層まで降りたところで引き返すことにした。

 一応スキルの確認のために、俺の時空魔法で覚えたスキルのエスケープを使って体に触れていれば一緒に移動できるので、全員が一度で入口に戻れた。


「アズマ、そのスキルは便利だな。魔道具にすることは出来ないのか?」

「出来ないことは無いですけど、魔石に魔方陣を刻み込む形になりますね。時空魔法のスキルだから、Cランクモンスターの魔石でないと刻めないでしょう。値段にすれば百万ゴルくらいになりそうです」


「そうか、でもお守り代わりに持っておきたいな」

「Cランクの魔石を用意してくれたら作っておきます」


「分かった。今度用意しておくな」

「隊長、ミッシェル、ベーア今日はありがとうございます。このまま転移で屋敷に戻って、俺たちは日本へ戻ります」


 そう伝えると転移を発動して日本へと戻った。

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