第94話 潜水艦の乗組員どうする?

 ミーティングが終わりJLJのメンバーもそれぞれ帰宅した。

 俺が自分の部屋に戻るとホタルと東雲さんは俺の部屋についてきた。


「毎日百個づつくらいはステータスの受け渡し、しましょう」

「そうだな、毎日一時間程度はその時間を取るようにしよう」


「ホタルはリュシオルへの変身がスキルで出来るようにしなくちゃならないから、今日は幻影術のスキルを中心に渡すぞ」

「了解です。着替えに毎回三十分もかかると、やっぱり少し不便ですから助かります」


「そうだろ? 早く聖女スキル身に着けたらよかったのに。東雲さんは希望がありますか?」

「私は、とりあえず剣を極めたいですから剣術スキルだけに集中したいです」


「了解です。剣術スキルは敏捷と攻撃力にも補正が入るからそれで十分に役に立つと思います」

「あの小栗さんは剣術スキルはどこまで上がってるんですか?」


「今は剣聖のレベル5ですね。でも東雲さんと違って剣術に対しての基礎があるわけではないですから、そんなに強くは無いと思いますよ」

「時間が空けば稽古をつけてあげたいですね」


「いやあ、そんな時間があるならスキルの受け渡しに使った方が有意義でしょう」

「でも先輩? そもそもカージノ王国内に上位スキルを身につけてる人っているんですか?」


「どうだろうな? お金さえあれば不可能ではないから居るのかもしれないけど剣聖クラスになると難しいんじゃないだろうか? 単純に剣聖のレベル一を手に入れるだけでも五百万ゴルの五百十二倍の五百十二倍だからゴル換算で一兆三千百七億二千万ゴルが必要だからな」

「上位貴族なら持っていても不思議ではない額じゃないですか? 日本でも個人資産が兆の単位の人は存在するし」


「かもしれないな……ドラゴンクラスのモンスターが現れても国が滅んではいないから、それなりに強いスキルの所持者はいると考えてもよさそうだな」

「それに前にベーアが言ってたじゃないですか。亡くなった人のスキルが宝箱から現れる可能性。その話が本当なら何千年もかけてスキルが育ち続けている可能性だってありますし」


「そうか一流のハンターたちの情報を調べたら何か参考になることもあるかもな」


◇◆◇◆


 翌日は朝から東雲さんとホタルを連れてカージノ大陸へと訪れた。

 拿捕した潜水艦の乗員たちを、そろそろどうにかしないと干からびそうだからな。


 乗員たちは国際色豊かだったから、ホタルがいないと言葉が通じない部分もあるので一緒に来てもらった。

 相変わらずギャラガ侯爵の騎士団が警戒態勢をとっている。


 俺たちが現れると騎士団長が丁寧に迎えてくれた。


「エスト伯爵、ようこそ」

「ご苦労様です団長。彼らの様子はどうですか?」


「さすがに元気はなくなってきていますが、まだ死者などは出ていないようですね。侯爵にお会いになられますか?」

「はい、よろしくお願いいたします」


 ギャラガ侯爵のテントに案内され、彼らの処分をどうするのがよいのかを検討した。

 

「このまま放置しておいても死を待つだけですので、隷属させてしかるべき作業に賦役させるべきでしょうな。盗賊と同じ扱いです」

「そうですね、武力攻撃を行おうとしたことは明確ですので侯爵の判断で鉱山奴隷などの賦役につかせることに反対意見はありません。ただ、指示を出すのに言葉が通じないと不便ではありませんか?」


「それは確かにエスト伯爵の仰る通りですが、単純作業を他の鉱山奴隷などと一緒に行わせれば何とかなるでしょう」

「では陛下から別の指示が出るまではそのように扱ってください」


 その後で騎士団と共に勾留している場所まで行くと、俺が土魔法を使い牢に入り口を作った。

 ホタルが指示を出し一列に並んで一人づつ出てくるように命令する。

 ホタルの言語理解を使った問いかけは、ホタルが日本語でしゃべるだけで、アラビア語やロシア語しか喋れない者であっても理解ができるので手間が省ける。


 まだ武器を所持しているので武装解除は結界を張ったうえで俺自身が行った。

 何人かが武装解除の時に反抗してきたので、痛い思いをしてもらったが、俺が何のためらいもなく暴れた人間の手を折ったので、後のほうの連中は大人しく武装解除に応じていた。

 総勢で百二十人もいた。


 門から出るとすぐにギャラガ侯爵お抱えの隷属術の使い手が隷属させて後ろ手に縛られていく。

 このままギャラガ侯爵領の鉱山まで連行される事になった。


「侯爵、今後陛下から指示が出て別の賦役を貸す可能性もありますので、出来るだけ死なないようにお願いします」

「あい、わかった」


 全員が縄でつながれると先ほど武装解除の時に手の骨を折った連中だけは、治療をしておいた。


「一応聞いておくが、この中でリーダーは誰になる? 潜水艦の艦長だ」


 すると五十手前くらいに見える男が手を挙げた。

 

「英語は話せるか?」

「話せる。国際的な条約に基づく海軍士官としての扱いを求める」


「カージノ王国は現時点で日本国以外との国交を認めていない。お前たちが日本人だと言うならその話を聞くこともあるが、そうでなければわが国に武力を行使した盗賊とみなしてわが国の法律によって裁かれる。それに対してお前たちの所属する国か組織かは知らないが、異議を唱えてくれば同罪として殲滅する用意がある。既にわが国の武力の一端は見たであろう。祖国が蹂躙されることを望むか?」


 俺がそう返答をすると男は押し黙った。


「後日、事情を聞くこともあるかもしれないが、それまではこの国の法律によって賦役を課せられる。本来であれば即刻全員処刑であったのだから助かったと思え」


 そう伝えると後をギャラガ侯爵に任せて王都へと転移した。

 中庭に転移をすると安定のポーラ王女のティータイムであった。


「あ、エスト伯爵。お土産はありますの?」

「王女、先に要件の確認をされるように。日本大使として赴任してからも各国の謁見要求にお菓子持ってきたら優遇したりしないでしょうね」


「先輩、どうせ用意してるんだから小姑みたいにお説教せずに気持ちよく出した方が好感度アップですよ」


 ホタルに言われて、銀座のデパートで仕入れておいたバームクーヘンを出す。


「私がおねだりをするのは、エスト伯爵だからです。他の方に甘えたりはしませんわ」


 そう言ってはにかむポーラ王女を見て一瞬かわいいと思った。

 その様子を見逃さない東雲さんの視線が少し痛い。

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