第93話 途中報告②

「私は、斎藤社長から原案をいただいたカージノ王国での地方競馬事業を実現できないかということから着眼点を得て競馬事業に関わらず、エスト伯爵が所有する広大な海辺の領地を活用した、亜人族を中心としたプロスポーツ競技、それに対応したスポーツくじの発行事業を計画しております。亜人族は地球人類と比べても圧倒的と言える身体能力を有していますので、エンターテイメント性は非常に高く世界中にカージノの人類を紹介する事にも役立てると思います。選手の育成にはプロスポーツ選手としての倫理観を学ぶための教育も徹底して不正が起こらないようなシステムを構築しようと考えています。将来的には統合型リゾート施設として人気を博することは間違いないでしょう。当然、藤崎さんの事業とも関連性がありますので集客に関してはお互いで連携を取りながらとなります」


 斎藤社長が意見を述べる。


「施設や選手の育成などの初期投資は大きくなりそうですが、その辺りはどう考えられていますか?」

「はい、その辺りは日本の公営競技、競輪や地方競馬と同じように主催はカージノ王国エスト伯爵領となるため初期投資はすべてカージノ王国側から供出していただき、JLJはあくまでも管理、運営業務を請け負う形にします。やはり日本国内ではないために、なんらかの理由で継続が不可能な事態になった時のリスクも最小限に抑えることができます」


「了解しました。選手のほかにも大量の現地人の雇用が必要になりそうですが、その辺りの見通しはいかがですか?」

「エスト伯爵を通じて、近隣都市であるギャンブリーの街からの大量雇用を予定しています」


「開始時期はいつごろの予定でしょうか?」

「競馬に関しては施設が完成すれば選手は女神神殿で行われている競技から、あぶれる形になったウマ娘が相当数存在していますので、この競技に関しては一年はかからずに開始できる予定です。スポーツくじに関しては日本の法律では世界中に販売することが難しい場合がありますので、英国の運営会社と協議し世界中に販売することを念頭に入れています。勿論その際にはリアルタイムでの世界中への配信も行われます」


「かなり大きな収益が認められそうですね。了解しました運営会社の立ち上げはどう行う予定でしょうか?」

「はい、JLJが五十一パーセントの株式を保有し残りの四十九パーセントを上場が認められているカジノ運営企業に打診します」


「それだと日本企業が参加しにくくないでしょうか?」

「宝くじの運営委託をされている銀行系列はカジノ運営企業と同等とみなすべきだと思います。既に財前さんを通じて該当の銀行各社には参加の意思を確認してありますので参加企業から出資割合に応じての役員を選任する予定です」


「了解しました。期待しています」


 次は大崎さんだ。


「私は現在、カージノ王国の港湾、空港の整備事業を中心に行動している。福山の立ち上げた『J&Cトランスポート』社との協議を重ね来月にも最初の船団が日本を出港する予定だ。現在、小栗君とホタル君からの意見を参考にして現地作業員をインドネシアと台湾の二か国で募集を開始した。初日ですでに求人倍率が五倍を超えておるので、その辺りも問題はなさそうだ」

「作業員たちが現地カージノ王国の人員ともめることが起こらないようにだけは、徹底してくださるようお願いします」


「その辺りは小栗君とも相談しながらの対策にはなるが、エスト伯爵領からは直接、内陸部に移動ができないように対策されるという話を伺っておるので問題が起こる可能性は少ないじゃろう」

「了解しました」


 続いて財前さんが報告をする。


「私は、全メンバーの事業推進のバックアップだな。特に金銭面における予算の確保に動いている。各事業ごとに適切な提唱先の選定を担当者と共に行いファンディングを行っている。当初はどこまで信用されるのかが懐疑的であったためにクラウドファンディングも念頭に入れておったが、小栗君の担当している発電機事業がインパクトが強かったようで、大手企業や各国政府からの参加申し込みだけで予定額を大幅に上回る額に達したために。現在は逆に断るのに頭を悩ます状況だ」

「どうでしょう。『パーフェクトディフェンダーズ』社のハンターギルドの立ち上げにも出資できれば当社が今後必要とする魔石の確保もより安定しそうですね」


「しかし、それはどうだろうか? 実際にモンスターが出現してからであれば話は変わるかもしれないが日本の一企業が傭兵会社に出資をするのは社会的に反対の声が多く上がりそうだな」

「そうですね、財前さんの言葉を借りれば『餅は餅屋』で任せた方がいいのかもしれませんね」


「そういうことだ。じゃが懸念はある」

「と、言われますと?」


「本当にモンスターを相手にして戦うことが出来るのかだよ。カージノ大陸以外の土地でモンスターを倒したとして有効なスキルの習得など出来るのか全く未知数ではないか」


 俺もそれに関しては、はっきりと答えを言えないので最悪の状況になった場合の見解を述べた。


「カージノ王国としては、オグリーヌの加護を外国人が手に入れる場合は、エスト伯爵の管理下で確認ができる場合に限ると条件が付けられています。理由はオグリーヌの加護を持つとカージノ大陸の結界を自由に通り抜けられるからです。現状では、もし対処できない事態が起こった場合はカージノ王国のハンターギルドへ依頼するという方針が一番無難な回答になるでしょう」

 

 最後に俺が発電機関係の報告をして、製品版の機械発電機が三日以内には完成して、電力各社と資源エネルギー庁との合同記者会見で発表することを伝えた。


「小栗君その件なんだが、自動車、船舶、航空機のエンジンも一年後には使えなくなる事実がある。それに対して魔道具を使用した代替えエンジンの供給も進行しなくてはならないと思うがどうだろう?」

「そうですね。まだ一般にはエネルギーの枯渇問題が発表されていないので、発表以降の動きにはなると思いますが、自動車のエンジンに関しては試作品を作っておきましょう。船舶に関しては既にカージノ国内では一般的に送風機が使用されているので問題ありません。後は航空機のジェットエンジンですね。これはかなりの高出力のものが必要になるので、発電所用の動力と同じように上位魔法金属を使用した製品になるでしょうが、技術的には同じなので形状と出力に関して各航空機メーカーとの打ち合わせとなるでしょう。ただし、現状では軍事利用に繋がるエンジンの供給は行わない予定です」


「それは対モンスター用であってもですか?」

「モンスター用に作っても、使用するのが人間である以上戦争に利用されない保証はありませんので……」


「そうだね、JLJが軍事利用に関しては開発協力はしない。という方針を打ち出すことは重要だと思う。これから先モンスターが発生するような世界になった時に人間同士で争っている場合じゃないですからね」


 そうは言っても世界がそれで納得するのかは全くの未知数だけどな……


「蘭君からは何かありますか?」


 斎藤社長に尋ねられたホタルが答える


「別にありません!」

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